ルート1の1:少しの変化、でもいつもの1ページに
”トントントントン ”
まな板をリズム良く叩く包丁の音、家庭的で良いよね。しかもこれがさ、お袋じゃなくてとびきり可愛い義妹が立てている音だったら君はどう思う? 居間のテレビで党首討論を見てるように見せかけて、俺の視線は台所に立つミィちゃんの後姿に釘付け。揺れているエプロンの結び目がすごくいい感じだ。さてこの神展開に続くさらなる奇跡を君だけにお見せしよう。テーブルの上に置かれていた一通の書置きだ。内容はシンプルに1行。
”お父さんと一緒に武装高校の合宿に行ってきます。一ヶ月で戻ります”
話が前後して恐縮だがここまでの経緯をお伝えしよう。
あの公園で自分の本体と電撃的な再開を果たした俺とミィちゃん。ミユキ先輩に連れられて進路指導室の扉をガラリと開ければ、美月ちゃんママが猫を腕に抱いて窓際に立っていて、そして黒い烏帽子を被った白衣の神主様が椅子の上で胡坐をかいていた。俺達三人を認めるや否やこの神主様、髪の毛よりも細そうな目をニコっと向けて
「おやおやこれは不幸中の幸いですね。こんなにも早くお互いの体が見つかるなんて滅多にないですよいやいやいや」
と明るく仰った。実はこの人、美月ちゃんパパの本当の姿である。普段は見た目どおり家業である神主をしているのだが、平日たまに飼い猫のサクタロー、つまり今窓際にいるメガネ美人が抱いているメタボな三毛猫に憑依して学園をウロウロして内外を監視しているのだ。パパの副業。
「それではさっそく元に戻すとしましょうか」
そんなパパの指示に従ってミィちゃんと二人並んで椅子に座る。すると向かいのパパは難解な漢字で埋まった一枚の札を袖から取り出し、恭しくそれを頭上に掲げてから鼻にかかるような声で読み上げ始めた。独特の抑揚がある不思議な調子だ。祝詞とかそういうのだろうか。
パパはそのままろくに息継ぎもせず10分ほど謡い続け、やがて俺とミィちゃんの頭にそっと手を添えるとピタっと声が止んだ。静寂。いよいよかと緊張感。
「マックでドリンクLにするくらいなら”氷なし”にするよね?」
「「はい?」」
言い終わる前に俺の頭とミィちゃんの頭を”ゴツン!” 意識消失をギリ耐え切った俺。でも隣ではミィちゃんが瞳を渦に変えるっていうベタな顔芸披露しつつ振り子みたいに頭揺らして”ふにゃ〜”。
「こんばんわ。私ミヤコは今金星第三セクターに来ています〜」
何かの番組が始まったようだあとすごいロケ地だねミィちゃん。
「パパ何をさらし腐るのですかうちの妹がバグってるじゃないですか」
穏やかな怒りをこめて突っ込む俺に
「元に戻ったようですねキョウタロウ君」
パタパタと白の扇子で扇いでる余裕のパパ。言われてみれば確かに……。
「ガッツリ京太郎くんだな」
自分の両手と睨めっこしてる俺の隣でミィちゃんの番組は”それではここでお便りを紹介します”と進行している。バラエティかな。
「PN、地球を目指してたんだけど宇宙船が発射方向間違ったらしく適当な星に軟着陸してみたら金星だった、さんです」
PNが軽くプロフになってるね。あと慣性の法則だけで惑星に辿り着こうとする考えは改めた方が良いと思うんだ。ミィちゃんは目をクルクル回したまま美月ちゃんパパの読んでた紙を手にとってお便りを読むように
「ウスロ宮」
ペンネームとかいらなかったね大山君。君の故郷が地球内だと考えてた俺が浅はかだったよ。ていうかなんだこの怪文書はそういうことするから最近君の人気がうなぎ上りなんだって空気読んでシキ君とかのためにね。
「以上、アルタイルからミヤコがお伝えしました」
ロケ地変更にも程があるよミィちゃん何で銀河からエジェクトされてるんだい。
「続いてお天気です。午後の平均気温は7000ケルビンを上回る猛暑が続くところが多くなりそうです。日傘などの熱中症対策を充分に」
とか傘以前に生存不能な予報を始めたミィちゃんはひとまず置いておいて
「最後のファーストフード的な発言ってなんか意味があるんですか?」
軽く抗議の意味を込めて腕組みすると
「大有りですよ。ああやって予想外の言葉で意識の”虚”を突いて隙を作り、そこを経由して生霊を入れ替えるわけです」
という風に理解の超えたことを最もらしく言われたら反論できない。かなり物理的な方法だった気がするがなんせ体は元に戻ったしな、結果オーライだ。多少妹やばいけど。パパはパチンと扇を閉じて
「最初10分は全然意味なかったんですけどね」
漫才の突っ込み役なら強めに殴ってるところだよパパ。
「それなら最初からマックの裏メニュー暴露すれば良かったんじゃないですか」
「雰囲気とか大事じゃないですか。受験祈願とか安産祈願とかホラ、うちそういう商売だし」
「職人魂見せるPTOが明らか違うと思いますよ」
パパは首を傾げて”ん〜”
「言われてみれば。神社に参拝客がほとんどこないのはそのあたりが原因ですかね?」
「いえ神社の環境あたりが原因ですよ、確実に」
美月ちゃんの家である園田神社はジャングルに囲まれた大豪邸なのだ。たぶん治外法権。美しい日本庭園に茶室、別邸、岩山を模した造りの天然温泉があり、地面には美月ちゃんの妹である美花ちゃん手製の隠しカメラも内蔵でセキュリティも完璧だ。未開なのかそうでないのか良く分からないステキスポット園田神社、たぶん二度と行かないよ。パパは鼻の下を人差し指で”ちなみに〜”と掻きながらもう片方の手で手紙を広げた。
「最初はこっちを読もうかなと思ってたんです」
差し出されたそれを見るとまずは”題名:元に戻るための手順”と分かりやすく書いてあって次は
「なになにベッドに乗って自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむいて”ビックリするほどユートピアびっくりするほ」
ビリビリビリ
「あ〜何も破かなくても!」
「このコピペを俺ならともかくミィちゃんの前で読むとか何を考えとるのですか」
このペテン師は。向こうでは何がツボにハマったのか痙攣してるユキたんもいるし選定基準が細木カズコかと小1時間……
「あ〜あ大事な古文書の裏に印刷してたんですけどね」
あんた神職バカにしてないか。
「国宝クラスです」
「文部科学大臣に謝った方が良いと思いますよ、今すぐ」
「破いたのはキョウタロウ君ですよね?」
「文化財保護法の観点から言えばインクジェットで印字した時点で破損です」
「でも仕上がり満足なんですよ。カラリオー」
「エプソン! ってプリンタのCMとか良いですから」
「アフリカでやったらバカばっかとかここで哺乳類きたか!?」
いつのギャグを引っ張り出してるのユキたん!? 気付けば隣にミィちゃんがいない。ふと前を見れば廊下側の席で
「ベ、ベッドじゃないけどいいのかな。レットミープリーズ」
とか言いながら俺の破いた紙キレを手によいしょと机にあがって
「What a nice Utopia this place is ! What a nice Utopia this place is ! それからお尻を……」
「発音抜群だよミィちゃんもうそんな”痛い”ことしなくても体戻ってるよ!」
まぁこうして戻った訳だ。で、校舎を出る頃には日がスッカリ沈んでいて真っ暗。早く帰ろうそうしようとマイホームに向かえば、あまりに自然すぎてミィちゃんがチョコチョコ付いて来たのに突っ込めなかった。
「君は孵化したばかりのヒヨコさんかい?」
振り返って俺がその一言を発したときには既に我が家は目と鼻の先。二度手間になるが仕方ない。
「夜は物騒だから送っていくよ」
クールな笑顔で護衛を申し出ると、俺の萌えスカウターを一瞬にして破壊するほどの上目遣いで
「実は、私、武装高校の男子寮にいたので帰る場所がないんです」
ミィちゃんの話してくれた内容をまとめると、昨日まで彼女は武装高校の女子寮で暮らしていたのだが、周知の通り今朝からキョウタロウ君となっていたためルームメイトに
”キャー! 超イケメンが乱入してる〜!(多少アレンジ)”
と叩き出され、もちろんミィちゃん自身も”何ぞコレ”という放心状態のまま、本日、武装高校の男子寮で入寮手続きを済ませたそうだ。
「そ、それで女子寮にまた変更手続とるにしても今晩はもう受付が終わっててあの」
捨て猫がダンボールにチョコンと前足をかけて”拾って下さい”してるみたいな可愛すぎるミィちゃん。目がウルウル。断言してしまうが萌え度では美月ちゃんやマリリンをも凌ぐ最強クラスだハァハァ。いやいや冗談抜きでそれじゃ今晩の宿どうしようか。目の前でミーミーとか声あげそうな子猫ちゃんを眺めつつ腕組み。ベストは美月ちゃんとこだけど場所が最悪。いやミユキ先輩の護衛があれば問題なく辿り着けるか……ってもう帰ってるか。いやいや携帯で呼べばOKだ。緊急時だから召喚に応じてくれるだろう。ポケットから取り出してパチンと開いてそこで俺はミユキ先輩の”サラシ姿”を見たことを思い出した。なんかの拍子で思い出されたら刀の錆にされるからゴメン無理。すると女性陣で頼れるのはマリリンかアヤ先輩くらいだな。ひとまずアヤ先輩にピポパ。
「ただいまヨードーちゃんのオメカシ中です。ピーっとなったらお名前とご用件を15秒以内でお願いします。ピー」
「お食事中失礼しましたごゆっくりどうぞ」
ッピ。
「兄さんどうしたんですか?」
「いやなに、ライオンが獲物を食べてるときは刺激しないっていうのが自然の掟だから」
頭にハテナマークを出現させてるミィちゃんを尻目に
”ていうか良く考えたらミィちゃんなんか格好の餌じゃないか危ない危ない”と独り呟きながら今度はマリリンにピポパ。
「もしもしどうしたのキョウこんな遅くにレディに電話連絡入れてくるなんてまさか俺の寝室に来て男女の終着駅に向かいたいだんなんて言うんじゃないでしょうね良いわよミヤコちゃんのままでも首輪も手錠も鎖も完備してるしねフフフ」
脳死してるんじゃなかろうかこのツインテール。しかしまいったな中途半端に事情教えてたからあいつ、ミィちゃんを今も俺だと思ってるはずだぞ。どうしたもんだと考え込んでると
「そ、そんな黙りこくっちゃって……まさか本気なの?」
本気でお前が心配になってきたよ。話のベクトルが怪しいので早めに誤魔化しておくか。俺はミィちゃんのホッペに携帯をピタっと当ててアイコンタクトで
”お兄ちゃんの口真似通りしゃべって”
俺からそっと携帯を受け取ってコクンとミィちゃん。良い子だ。しかしどうしようかな意味は大きく違えど泊めてくれる雰囲気ではあるから1日だけキョウタロウ君だと偽ってミィちゃんを送り込んでみようか。いやいや一歩間違えて禁断の花園が展開されたらシャレにならんからダメだ。ハァハァ。俺はミィちゃんに
(いやいやご冗談を。明日って生徒会役員あったかなと思ってさ)
そしてウィンク。送信。ミィちゃんコクン。受信したようだ。
「それじゃぁマリリンが上でリードして」
どんな情報操作したのかなミィちゃん一文字もあってないよね!?
「兄さんの顔に書いてあったのでそっちで」
とか身に覚えのないことを仰る妹から携帯奪取。本音より空気読んでね!?
「あ、あのその、私、よ、良く作法を知りませんので、さ、差し支えなければ京太郎さんが……えっと、その……上で」
「マリリン落ち着くといいぞ俺の前で猫被っていかがなさんとす?」
「す、すみませんつい動転してしまってあの……ちょい待てや今の声」
ッピ。
「兄さんどうして二ノ宮金次郎像みたいに携帯持ったまま石化してるんですか? あと死相がクッキリです」
「ミィちゃんのせいで僕こんな勉強家になったんじゃないの!」
慌てて妹の手を掴んで家にイン! ママ助けて! って鍵!? マッハでマイキーを差し込んで扉オープン! なんで夫婦揃っていないんよ!? 真っ暗な玄関でまた金次郎化してると隣の豪邸で電動式の門が開く音が! 俺はミィちゃんの方を向いて肩をガシ!
「ミミミミミミィちゃん。おおおおお落ち着いて聞いて欲しい」
「兄さんまずは深呼吸です。ディープブレス」
「スーハー」
「ワンスアゲーン」
「スーハー」
「ワンモアターイム」
「スーハー」
「テイクイットイージー」
「ヒッヒッフー……じゃなくて! いいかいミィちゃん良く聞いて! 今から赤毛ツインテールっていう珍種のナマハゲが”キョウはいねが〜?”って襲ってくるけど絶対に声出しちゃメーだよ!?」
「秋田から遥々出張ですか? 大歓迎です」
「お兄ちゃんしんでもいいの!?」
”ピンポーン”
来たー! 何コレ絶対ホラー映画だよ! ラブコメ書いてるんじゃなかったのかお前! この文面読んでる読者とかビビって夜中一人でトイレ行けないだろリングとか呪怨の比じゃないってこのスリル!
「はい後宮です」
「なにインターフォンでナチュラルに受け答えしてるのミィちゃん!?」
「いえ、ウスロ宮じゃないです。テイキンフォーアナザー」
本当にホラー映画だよ大山君!! ”コンコン” キター! 今度こそ丸っこいまがい物じゃなくて本物だ! だって扉についてるオサレな小窓の影にはニューっとまるで触角みたいなツインテールがクッキリと写ってるじゃりませんかよーしここで選択肢だ!
”ガチャリ”と妹が扉オープンして
「ナマハゲさんですか?」
「まだ選択肢用意してないよ新手の破壊神だねミィちゃん!?」
開け放たれた扉では俺達を見るや否や古代エジプト第18王朝のファラオ、ツタンカーメンの棺のごとく硬直したツインテール。この呪縛が解けたらきっとすごく理不尽な理由で殺されるぞ僕。そして玄関先に誕生したツインテールの黄金マスクを興味津々に眺めている愛しいわが妹。義妹ミィちゃんにしろフェイク妹ヨードーちゃんにしろどうして君達はにぃにを三途の川へ蹴落とすようなことばかりするのだろうか。こらこらそのテールは食べ物じゃないぞミィちゃん。さてどうしたものか今このツインテールの脳内に起きてる化学反応は地球誕生の瞬間より凄まじいぞミヤコちゃんが俺だと今朝必死に理解した矢先にキョウタロウ君がここで二ノ宮金次郎になってるわけだから意味分からないよな、うん、俺も。いやむしろここは金次郎になりきって家からの脱出を図るというのが最善手というもの。手にした石の本を眺めながら
「ふむふむこうして古代バビロニアが滅んだわけか納得」
純粋無垢な金ちゃんを装って二ノ宮神社へ向かおうとする俺の袖を黄金マスクがガシ。
「何か御用かなエジプト王」
「いえいえ二ノ宮尊徳さんが農業以外に世界史を学んでいらっしゃるとは存じませんでしたわ」
「はっはっは小田原藩の発展に中東の歩みは必要不可欠。ならば小作以外にもナボポラッセル将軍の偉業に」
「ベッド下の2冊はもう妹さんにお見せになって?」
「こんばんわ後宮京太郎です彼女いません」
瞬間ラリアットが首にガシ!……ってあれ? マリリンそのまま
「元に戻ったんだ」
背伸びして俺の首にギュっと手を回した。おお! ほ、本当にパットじゃないよこの感触はミィちゃんじゃないけどビックリするほどユートピア!っていやいやマリリンどげんしたんだ? と離そうとすると華奢な体が微かに震えているのに気付いた。
「マリサ?」
返事がない。明らかに撲殺フラグが立ってたから正直面食らったんだけど……耳元にかかる吐息を通じて、押し殺し切れなかった声が漏れてきている。
「いやいやマジでどうし……」
離そうとするとギュっとそれを拒むように腕の力が強くなる。電気をつけてないから暗いし、互い違いになってるから顔は見えないけど、マリサが何かの感情を堪えてるのが分かった。間違いない。泣いている。そう感じ取ったとき今朝の光景を思い出した。
肩を落として校門を潜るマリサがこぼした
”今日はキョウタロウさんと夕食を御一緒する約束してましたのに”
自分一人では食べきれないお弁当をシュンと見下ろして、それから”ミヤコちゃん”に
”あの、もし良かったら手伝ってもらえませんか? 分量間違えちゃって”
そう寂しそうに笑ってたマリサ。それから”ミヤコちゃん”に”俺”が使ってた水色のお箸を渡そうとして
”ごめんなさいこちらでしたわ”
自分の白い方を差し出したマリサ。
”白状しますわ。実はこのお箸、私の特別な人がいつも使ってるものなんです”
”毎日毎日、その人のために朝4時に起きてお弁当作って、朝はお出迎えして、帰りはお送り。本当に自分でも滑稽なくらい態度で示してるつもりなのに”
”昔の自分を恥じて磨きをかけて、一途な思いで女性としての嗜みをせっかく身に着けましたのに”
今度は少し前の記憶が脳裏を過ぎる。まだ俺が帰宅部だった頃、マリサと一緒に帰る約束をして、待ち合わせ場所を食堂にしていたことがあった。マリサの部活が終わるまで時間を潰そうとして、駅前まで散歩してたら美月ちゃんが不良に絡まれていた。で、それに首を突っ込んだ。自分一人では助けられなかったけど、まぁヒロシの手をギリギリのとこで借りて不恰好ながらも美月ちゃんを守ることが出来た。まぁまぁ良い事をしたんじゃないかと思ってる。だけどさ、あの後の俺がとるべき行動って、時間を考えたら美月ちゃんと一緒にすぐ食堂に戻るべきだったんじゃないだろうか。何を浮かれてたのか俺は、マリサを放って美月ちゃんと公園で談笑して、あの時担任だったヒロシの”親っさん”がたまたまそこに通りかかって”キョウ坊を探しとったで”って言われるまで思い出せなくて。それまで真っ暗になった食堂でアイツを一人にしていたわけだ。
今頃だけどさ、俺ってこれまでかなりヒドイことしてたかも知れないと思った。こうして元に戻ったことを、一番最初に知らせてやるべき相手を忘れてなかっただろうか。ある意味では親以上、ある意味では俺以上に、俺が俺でなくなっていたことに驚いて、子供みたいに寂しがって、普段は絶対吐かない弱音を、ましてや初対面の”ミヤコちゃん”に漏らしてしまうくらい落ち込んでさ、そういうバカな子がいたんじゃなかっただろうか。加えて俺が”ミヤコ”ちゃんだと分かると普段どおり接してくれて、さっきの電話でも無理な陽気と下手なギャグまでかましてさ。だいたい普通の頭で考えても、ある日突然性別が入れ替わった友達に、いつもみたいなテンションと気持ちで接したり出来るだろうか。あんなの空元気に決まってるじゃないか。”何でそんな簡単なことに気付かなかったんだ”と自分のアホさ加減に溜息。ギュっとその背中を抱いてやる。拍子にチョンと足が浮くほどにマリサは軽かった。猫のマスクを剥いだら破壊神がいて、破壊神のマスクを剥いだら普通の女の子が出てきた、ってとこだろうか。
「悪かったな。悪い、マジで」
ポンポンと背中を叩く。それしか出てこない。”連絡するのすっかり忘れてたよ”とか口が裂けても言えるかって。ただもし弱音が許されるなら、薄々と気付いてたもののさ、マリサの口から本音を聞かされて”キョウタロウ”としてコイツと出会うのが不安だった、距離が変わってしまうのが怖かった、そういうのもあった、かなり。実際そのあたり俺はどうなんだろうか。客観的に考えたらマリサは俺なんかには勿体無いにも程がある。頭はいい、可愛い、料理がうまい、何させても器用だし、いやそんな表面的なことじゃなくてコイツは友達思いで、献身的で、頑張りやで、それから何よりも本当に……女の子らしい、と思う。頭を撫でてやる。すごく良い匂いがする。欠点らしい欠点なんてないんじゃないだろうか。それでも俺が躊躇ってしまうのは何でだろう。それは”今のコイツとの関係が気に入ってるから”っていうのが一番にあると思う。一緒に笑って、一緒に学園行って帰って、お昼もご馳走になって、時に地雷踏んで殴られて、そういうのをこれからも続けていきたいと思う。だけどさ、ハプニングとは言えもう俺は相手の気持ちを聞いてしまってるんだ。ここで自分だけ中途半端な態度取るのはどうかと思う。だから伝えた方が良いかもしれないな。俺はその肩をそっと掴んで離し、コバルトブルーの瞳から頬を伝って流れている宝石のような雫を優しくぬぐった。やっぱりまだ頭はパニックなようで少し心ここにあらずという感じだ。濡れた薔薇。そういうのが今のマリサにピッタリだ。で、俺は意を決した。暗がりの中、微かに見えるマリサの瞳、そこから目を逸らさず、さっきから高鳴ってる心拍を抑えるように息を吸い込んでから
「俺はさ、親友としても女の子としてもお前が……」
「兄さん2冊ってこれですか?」
神よ絶妙の一手ですね、投了です
モナリザの微笑みで振り返ると天真爛漫な妹が2階へ続く階段にチョコンと座って俺とマリリンに向かって丸秘愛読書2冊を手に持ってヒラヒラ〜。またまた振り返るとマリリンは連邦の誇る新型モビルーツRX−78-2ver Twin Tailへ変貌を遂げている。すごいねマリリンその全身芸もはや原型留めてるのツインテールだけだよ。そんなダビンチの傑作と連邦の傑作となった俺達二人をよそに
「ベッドの下なんて新しいレイアウトですね、あの2冊。見せるんじゃなくて気付かせるっていうコンセプトがニューエイジ」
「世間ではそれ隠してるって言わないかな」
”何が嬉しくてそんな卑屈なディスプレイするのよ”とついに妹にまでオカズ発覚してその場に崩れる泣き笑いのモナリザ。
「ちょ、ちょっと興味ありましてよミヤコさんそれ私にも是非」
泣いてる俺をそっちのけでキチンと靴を脱いでおしとやかに歩き始めた連邦の白い悪魔ことマリリ……ちょっと待ったー!!!! 脱兎の如くかけよって今まさにオープンしかけてるパンドラブックを妹から奪取! そして自室に飛び込んで施錠! ふ〜落ち着けキョウタロウ大丈夫だ万一のことを想定して表紙は”ジャンプ”に偽装してあるじゃないかたぶんミィちゃん中身までは見てないはずだ。あんなヘビーな内容見てたら冷静でいられないはずだしなうん。自分を納得させて深呼吸。クールダウンだキョウタロウ君。そして愛読書を元に……いやもうベッド下はダメだな。どうしようか。タンスとか机の裏? 虚をついていっそ本棚紛れ込ませるか? いや枕カバーとかシーツの中だとかなり安全じゃないのか? いやいやそれだとお袋が余裕で……ってヤケに静かだな? どうしたんだ? 扉に耳を当てて澄ませると
「う、うんうん。そ、それでこうかしら?」
「はいもう少し足は開いてて……。えっと、はい。1ページ目は確かツインテールの子がこう両手をついてて後ろからこんな風に……」
「何をしゃべってるのミィちゃん!?!?」
「「「あ」」」
マッハで扉オープンしたら階段で展開されている禁断過ぎる花園にアヤ先輩の如く薔薇色の噴水を巻き上げてヒネリを加えて転倒、天に召されし後宮京太郎高校一年生彼女なし、されど悔いはなし。いま気付いたけどマリリンその白のネグリジェは反則。
---FIN---
いえ、ちゃんと続きます。
☆☆アンケートと今後のお知らせ☆☆
本拙作をマルチエンディングにしようと思います^^
ということでお気に入りのヒロインへ投票のご協力
宜しくお願い致します<(_ _)> 以下URLがアンケートページです。
選択肢6番目も本気と書いてマジです。
http://www.smaster.jp/Sheet.aspx?SheetID=15968
☆☆アンケートと今後のお知らせ☆☆
本拙作をマルチエンディングにしようと思います^^
ノーマルエンディング(ルート1)が終わると
今度はヒロインとのカップリングルートを執筆しようと思います^^
例えばマリサルート、ミユキルートという具合です。
かなり踏み込んで描写しようと思います。深い意味は多少あります(え
ということで読者様に相手役を投票して頂ければ幸いです。
ルート数は上位2、3名を予定してます。
ご協力宜しくお願い致します<(_ _)> 以下URLがアンケートページです。
選択肢6番目も本気と書いてマジです。
http://www.smaster.jp/Sheet.aspx?SheetID=15968
投票、現在はユキたんが一番人気です。
2,3番手はマリサ、美月ちゃん。
ということでミユキルートはもうプロットを作っています^^