第1話:幼馴染は破壊神
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この場を借りましてお礼申し上げます<(_ _)>
それでは筆者推奨の読み方^^
ナレーションはスピーディーにサラサラ。じっくりゆっくり読むとNG
午前5時早朝ガバっとベッドから身を起こして起床。死ねるな。よって再びベッドイン。
”今度朝練サボったらお前の胴体から首がさよならだ”
武神ミユキ先輩の声が脳裏を過ぎって、俺はハンガーにかかった制服に袖を通して自室を出た。
キッチンのテーブルにはご飯、味噌汁、焼き魚という典型的な朝食が湯気を立てていた。名門桜花学園柔道部の新入部員になった俺の朝は、入部前から比べると2時間も早くなったのだが、それにも関わらず以前とクオリティの変わらない朝を提供してくれるお袋に感謝しつつ、5分で平らげた。
「行って来ます」
と玄関を出れば
「おはようキョウ。相変わらず目のクマが凄まじいわね」
スズメの声より先に聞くいつもの第一声。赤毛ツインテールの美少女が制定カバンをそのスレンダーな体の前でキチンと持ってニコニコしている。長いまつげの下には青い瞳、ツンとあがった小鼻にほのかに赤みのある口元。このどこぞのティーン誌から抜けてきたような子は八雲魔理沙。桜花学園高校入学初日からクラス内で結成された”八雲様ファンクラブ”のアイドルであり、アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフであり、俺こと後宮京太郎の幼馴染であり、幼少期に俺を奴隷にしようと調教してきたトラウマだ。あと一人称が”俺”っていう珍種。
「陸上部の朝練、お前は免除されてるんだろ? だったらもうちょっと惰眠を貪っておくといいぞ」
朝練免除というのは受験を控えた3年生にしか許されない特権であり、入学ホヤホヤの高校1年生の俺達なぞが得られるようなものではない、と先輩方も思っていたに違いない。ところが体育第一回目の体力測定で握力計をアルミ缶のように握りつぶし、走り幅跳びで助走もつけず砂場を飛び越え、100m走では7秒台を叩き出した彼女はすぐさま陸上部の顧問でもある体育教員の目に留まり、その日のうちに熱烈な勧誘を受けて入部。そして今現在”特権付き”でレギュラーとして大活躍している。この異次元的身体能力を目の当たりにしたクラスメイト達は当時、ミケランジェロ作ダビデ像のように雄雄しく石化していたのだが、マリサが100万ドルの笑顔で”マグレですわ”とウィンクすれば”ですよね〜!”と常識の壁をブチ破って納得させられてしまうのだった。いったいこの華奢な体にどんなOパーツが内蔵されいるんだろうね? スレンダーなセーラー服姿をマジマジと見ながら二人で校門を潜った。
グランドでマリサと別れて入ったのはイグサの匂いが香ばしい柔道場。重たい鉄の扉を開け、
「おはようございます!」
腰をキチンと引いてペコリ。
「定刻どおりだ後宮。良かったな、今日は生きて帰れるじゃないか」
「有難うございます園田先輩。まるで”明日は我が身か”と親友の乗ったゼロファイターを甲板から見送るような心地です」
俺の前で腕組みしている黒Tシャツの上から胴着を着た黒髪スーパーロングのお姉様は桜花学園の誇る最終兵器、武神ミユキ先輩である。本名は園田美雪。日本人形の様に切りそろえられたパッツン前髪の下には長いまつげ、クッキリ二重に栗色の瞳。筋の通った鼻にキュっと引き結んだ口。体も引き締まっていてスタイルも良く、美女揃いの学園でもベスト5にはランクインする超のつく美人だ。しかしこのお姉様、ただの美人高校2年生ではない。あのマリサが本気でかかって行っても冷たい笑みを浮かべたまま
”なかなか良い正拳じゃないか。腰のヒネリも踏ん張りも申し分ない。大したものだな”
と値踏みしながらあしらってしまう化け物である。そんなお姉様は生徒会会長かつ生活指導担当であり、朝礼のある日は正門前に立って
”今日は朝礼があるぞ〜! 歩いてるヤツはさっさと走れ〜!”
と檄を飛ばしている。真剣片手にね。これも伊達で持っているわけではない。桜花学園の近くには武装高校という日本全国のあらゆる高校から見放された問題児が最後に行き着くといわれている残念な高校があるのだが、以前、そこに通う世紀末救世主伝あたりに出てきそうなモヒカン頭のアホ学生20人がバイクに乗って集団でグランドに乗り込んで来た事があった。職員室の先生方が110番する手が震えるほどパニックになっていたというのに、このお姉様は表情一つ変えることなく、朱塗りの鞘を手に一人グランドに出てバイク集団の前に立ち、サラサラサラとお手入れ万全の髪を腕で流しながら
”お前たち。入校許可書は持っているんだろうな?”
静かに言った。その答えは
”んなもんあるわけねぇだろが!”
言い終る否や目にも留まらぬ抜刀術で逃げる暇も与えずバイクを次々に切断してスクラップに変えた。モヒカン軍団に大きなケガを負ったものはなく、何が起きたのか理解できなかった彼らは呆然としていたが、ミユキ先輩が白刃を鞘に収めて”カチン”と音をたてると蜘蛛の子散らすように逃げ出した。不幸中の幸いか計算通りか分からないが、バイクが爆発炎上したのはその直後だった。これは学園生なら誰でも知ってる超有名なエピソード。
「早く着替えて来い。まずは柔軟から始めるとしようか」
「はい!」
足早に更衣室に駆け込んでまだ型崩れしていない新しい胴着をバババっと着替えてミユキ先輩の前で気をつけ。向かい合って正座して礼に始まり、柔軟体操、受身一式、筋トレ、型練習をこなし、外周と呼ばれる学園の周りを走るトレーニングが始まった。途中で目に付いたのはグランドで砂煙をあげながら走っているブルマ姿のマリサ嬢。彼女はアメリカでしか見られないような大型掘削機についてそうな巨大なタイヤをロープで腰に取り付け、ありえない負荷をかけながらもザザザーと摩擦音をたてて走っている。目が合って
”練習頑張りなさいよ”
ウィンクされた。
アップダウンの激しい外周が終わって柔道場に戻ると、クタクタで”ヒーヒー”と四つん這いになってる俺を見下ろしながらミユキ先輩、腕組みして
「今日の練習はこれで終わりだ」
待望の一声をかけてくれた。”しかしそれにしても”と溜息を吐きながら
「まだまだだな後宮。私になれ、とまでは言わないがせめてお前の彼女くらいは守れるレベルにならないとな」
マリサがいつも俺に合わせて登下校するせいで、お姉様にはとんでもない誤解を与えているのだ。ミユキ先輩は小さなアゴを窓の方にクイっと動かし、俺に”外を見てみろ”と促がした。グランドを見ればマリサが直径4mはある整地ローラを片手でゴロゴロと引きながら自分の走った跡を消していた。あんなの守る必要とかないです。しかまぁ、マリサとお付き合いしたい男子生徒はクラスだけじゃなく学園全体で見てもかなりいるだろうな。可愛いしスタイルいいし、おしとやかだし。だけど俺はあのツインテールが人前ではバッサリと猫を被っていて着ぐるみ取ったら中の人が容赦ない破壊神であることを知っている。胸にパット入れてることも知っている。あとたまに俺の考えを読むっていう特殊能力を備えているのも最近学んだ。身をもって。そんな彼女につけたアダ名は
”隠れ貧乳妖怪ツインテールカッコ笑い”
「後宮、八雲が手を振ってるぞ。返してやらないのか?」
ニコっとしてるミユキ先輩。マリサの方を見れば100万ドルの笑顔でウィンク。俺にアイコンタクトで
”後でツラかせや”
こんな具合で脳内トークがだだ漏れな訳である。
「愛されてるじゃないか後宮」
「それはもうアザとか出来るくらい痛いほどに」
祟られてるんですよあの妖怪に。
着替え終わって道場から出て行こうとする俺に
「今日は朝礼があるぞ。教室に荷物置いたら所定の位置で待機しておくようにな」
シャワー室に艶かしいシルエットを描いてるお姉様。その素晴らしいスタイルを脳内補完すればまさにユートピア
「パットガールには辿り着けない境地がここにある」
「行き先は三途の川でいいかしらキョウ?」
愛らしい声に振り向けば飛び切り笑顔のツインテール。俺はクールに髪をかきあげながら
「話し合いの場を持つ気はないかなマリリン」
破壊神の平手打ちが顔面に炸裂して車の衝突実験御用達、ダミー人形アレン君のごとく吹っ飛ばされて道場の壁に”バシン!”と叩きつけられたキョウタロウ君。
「何だ後宮? 受身の練習か?」
違いますミユキ先輩! 今貧乳妖怪に襲われてるんです! ホラー映画絶賛上映中です! 声をあげて助けを求めようとしたらツインテールが俺のブレザーのカラーをムンズと掴んで引っ張り起こしてにっこりアイコンタクト
”余計なことホザいたら殺す”
「はい500系のぞみに時速300キロで跳ねられた事を想定して前方回転受身の特訓ですゴフ」
「なかなか実践的でいいな」
実践したら死んでます。そこでマリサはシャワー室の方に向かって
「お邪魔致します。キョウタロウさんをお迎えにあがりましたわ」
と俺ですらグラつきそうになるくらい可愛い声で”今来ました”と事実を捏造。
「おお、八雲か。後宮ならそこでうっかり新幹線にハネられた時に備えて受身をとってるはずだ」
安全対策の方向性が明後日向いてますお姉様。
「アラ本当ですわ確かに頬には500系のぞみの痕がクッキリ」
今時の新幹線は先端部分がモミジ型のようですよ奥さん。”話合わせろ”とツインテール。
「キョウタロウさんごきげんよう。今日も朝から精が出ますわね?」
「おつかれマリサ。つい練習に身が入って臨死体験しそうになったよ」
「何でも熱心なのは結構なことですわ」
死んでもええんか。
「それでは園田先輩。これで失礼致します」
「ああ。後宮を頼んだぞ」
俺はガッチリと腕を掴まれて教室まで連行されていった。