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Weather Date Series~君と恋する空模様

Hope sunny today

作者: 花宮 あいら

こんにちは!久々の読み切りです。

読んでいただけたら、嬉しい限りです。

 今日の天気は、晴れ。


「私が、好きなのは……」



明日は、晴れますか───?




♢♢♢




「結衣ちゃん、こっちお願い」


「分かった」



 私は、麻倉結衣。中学3年生になりました。

顎までのショートヘアで、左側にはアメピンをつけている、まるで運動部の女子みたいな髪型です。

 そして、生徒会で、しずくちゃんや夜月くんと一緒に活動する、れっきとした生徒会役員。


 今は役員全員で、入学式の準備中。



「結衣」


「はい」



 誰かに呼ばれて、後ろを振り返る。

と、そこにいるのは、同じく生徒会役員の朝川海斗。真面目そうな眼鏡に、整った顔立ち。

 もちろん、女子からは専らの人気。


 本人はポーカーフェイスなお陰で、考えていることはよく分からないのだけれど。



「その荷物、運べるか?」


「え───?」



 慌てて海斗が指を指した荷物を見れば、結構大きめのダンボールに、積み上げられた紅白の布。確かに、一人では持てない気がする。

 ショートヘアをさらりと揺らして苦笑い。



「貸して、持つから」


「あっ、うん…」



 海斗はひょいっとダンボールを軽々と持ち上げる。私より何センチも高い背丈に、少しだけ心臓がどきりとする。


 ───やっぱり、男子なんだなぁ…


 お礼を言いそびれる前に、私は言った。



「ありがとう!」



 その一言に、照れ隠しが混ざってることなんて、海斗は気づくこともないだろう。

 海斗のことが好きな訳でもないしね。



「よし、これやったら帰ろうか」


「そうだね」



 夜月くんと海斗たちがその場を仕切る。

体育館に紅白の幕を張り、各学校から届いた祝辞を掲示板に張り、演台を準備して、リハーサルをする。


 真剣で和気あいあいとした生徒会の雰囲気。

私は、その雰囲気が好き。皆優しくて、でもちょっとだけぶつかることもあって。なによりもあったかくて。



「紅白の幕は足りてる?」


「あと数枚欲しいかな」


「はーい!」



 そんな風に、今日も1日が過ぎていく。


 帰る時も皆一緒に、薄手のウインドブレーカーを羽織り、新しい教科書の入ったリュックサックを背負って帰る。

 その帰り道。しずくちゃんたちが前を歩いて、私たちは後ろを歩く。



「海斗は、好きな人いないの?」



 なんとなく、軽い気持ちでそう聞いた。

何を考えているかわからない彼のことだ。教えてくれる可能性なんて、0に等しい。

 前の2人みたいに、付き合いたいとか、そんなんじゃないけど、なんだか気になって。



「───いるよ」



 ………え?



「いるの?」


「うん」


「誰?」


「教えない」



 好きな人、いるんだ……

なんだか少しだけ、海斗が遠くなったような、そんな気がした。

 皆好きな人を作ってて、私だけ、いない。


 ───私にも、そんな日が来るのかな


 自分がまだまだ子供のような気分になって、なんだか悲しくなる。確かに、子供っぽいとはよく言われるけど。

 周りがすっかり大人なようで、子供な私の心の奥底には、針のようななにかが刺さってちくりと痛むような気がした。




♢♢♢





「入学式、お疲れ様!」



 翌日、私たちは入学式を無事に終えて、片付けをしていた。この後は、各委員会の委員長と、担当の先生の顔合わせがある。

 私は、昨日の会話を思い出しながら、ちらりと海斗の顔を覗き込んだ。



『まさか、私な訳ないよね~』


『否定はしないけど、肯定もしないよ』



 誰か分からない、教えないにしろ、そんな冗談は受け流して否定するのが、普通の反応だと思っていたら、海斗はそうではなかった。

 食えないやつめ~と思いながら、私はちょっとだけヒントを探ってみた。



『その人は、どんな人?』


『悪目立ちはしない人…だと思う』



 人に興味の無さそうな海斗のわりには、結構その人のことをよく見ているな、と思う。

 いや、ポーカーフェイスだからこそ、何も気付かれずにその人を追えるのだろうか。

 私は気になって、教えてくれるまでしつこく聞いてみることにした。




♢♢♢




「その人は、私も知ってる?」


「よく、知ってる」


「海斗の入っている部活の人?」


「なわけ」


「身長は?」


「俺より、低い」



 私も知っていて、海斗の部活である卓球部に入っていない。そして身長は、海斗よりも低い女子。

 候補が多すぎて、しぼれない。



「んー、生徒会役員?」



 これは流石に教えてくれないだろうと思って冗談混じりに聞いてみる。



「そうだよ」


「えっ」



 さらりと聞き流すつもりが、結構大きく絞られた。生徒会役員で、今までの条件に当てはまるのは、私と、しずくちゃん、そしてもう一人の子を含めて3人。



「ふーん…?」


「なんだよ」



 私は「なんでもなーい」と笑って、その日はそのまま海斗と別れた。


 次の日も、その次の日も、海斗と帰った。

生徒会役員、海斗より背が低くて、卓球部でなくて、イメージカラーはオレンジ。

 よくよく考えれば、しずくちゃんをオレンジというのはちょっぴり無理がある。



「私?なわけないか」



 ほんの少しだけ、淡い期待を抱いてしまっていて。




♢♢♢




「鍵、返しにいく人じゃんけんしよう」


「言い出しっぺは負ける運命だけどいいの?」



 他愛ない会話が生徒会室をふわふわと回る。

時折真剣に、でも穏やかな空気は、私にはとても心地よい。



「じゃーんけーん、ぽん!!」



 他の人は全員グー。チョキを出した、私と海斗の二人負け。



「じゃーんけーん、ぽん!あっ…!」



 海斗にパーを出され、グーを出した私は負ける。海斗が持っていた鍵をすっと落とす。

 私は慌てて空中をつかみ、鍵は床にカツンと落下した。むっとして海斗を見る。



「残念だったな」



 海斗がにっと笑った。

それに私は、思わず声が出る。



「……かっこいい」



 はっとして、右手で鍵を拾って左手で口を抑える。周りはニヤニヤと私を見ている。


 ───そういうんじゃ、なかったのに…


 でも、それよりも珍しい反応を示したのは海斗の方だった。

 耳を仄かに赤くして、髪を掻いている。



「か、鍵、返してくるね!」



 ちょっとだけ裏返しになる声と、早くなっていく鼓動がうるさい。

 私はばたばたと生徒会室を出て、引き戸を閉める。ゆっくりと崩れ落ちるように、私は誰もいない廊下にしゃがみ込んだ。


 顔が熱くて、息が少しだけ苦しくて。

窓から、ほのかに夕日が差し込んでくる。



「びっくりした…………」



 その日、私は海斗のことを少しだけ知れた気がして、嬉しかった。


 次の日から、周りは私たちをはやし立てるようになった。海斗を思慕する女子たちにも噂は広がったようで、中には泣き出してしまう子もいた。


 ───そりゃあ、少女漫画に出てくるような男子だし、仕方ないか


 私は、昨日から鳴り止まない心臓を押さえて、生徒会室へと向かう。



「あれが、海斗くんの彼女だって」


「生徒会役員だからいいけど、そうじゃなかったらつりあわないよね」



 そんな心無い女子の言葉が、聞こえてくるようで。

 私は、海斗に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていった。



「海斗、ごめんね」


「え?」



 その日の帰り道、2人になったタイミングで、私は海斗に謝った。



「私とつきあってるなんて、根も葉もない噂が流れて、好きな子に申し訳ないって思わないの?」


「───別に、付き合ってる訳じゃないし」



 それでも、女子にとっては気になるよ…

私は道路の継ぎ接ぎだらけのコンクリートを見つめて、俯いた。



「好きな子がいるなら、ちゃんと言わなきゃ」


「───そういう結衣は好きな人いないの?」



 好きな人?

その言葉を自分の中で噛み砕いて、反芻する。

私には、分からない。けど………



「……気になる人なら、います」



 それが恋かは、分からないけれど。

でも、自分の気持ちに嘘はつきたくなくて。まだ、もう少しだけ。



「そうなんだ」



 そう言う海斗の声が、急に優しくなったような気がした。



「頑張れよ」



 海斗はふっと笑って、路地を右へと曲がっていった。この間の意地悪な笑みとは違うその笑みに、心臓がどきりと大きく音を立てる。



「───どうすれば、良いの……」



 小学校の頃だったら、男子がふざけて「好きだ」と言ってくることなんてよくあることだった。付き合うなんて思考は無くて、ただ好きとだけ言って逃げていくだけで。


 周りの女の子がしているような恋も無くて。


 私がしずくちゃんみたいに、可愛くて綺麗な顔をしていたら、あんな風に優しかったら、もっと、違っていたのかな?


 ぐるぐると思考が巡っていく。

その日は一日中、雲がどんよりとしていた。




♢♢♢




「あ、雨……」



 その日は、ぽつぽつと雨が降っていた。

窓が濡れていて、教室の中も湿っている。外はなんだか薄暗くて、私の気分のようだった。



「結衣、傘持ってきた?」


「あー、忘れちゃった」



 しずくちゃんが私を気にかけてくれる。

生徒会室の窓の外を見ながら、私は窓を開け放った。



「ちょ、雨入ってくるよ」


「しずくちゃん」


「結衣?」



 私は今、泣きそうな目をしていると思う。

自分の気持ちが分からなくて、どうしたら良いかも分からなくて。

 こんな時、海斗ならどうするんだろうって考えてしまって。



「しずくちゃんは、夜月くんのどこが好き?」


「夜月の?そうだなぁ…」



 しずくちゃんは窓に身を乗り出した。

幸い、生徒会室には今、しずくちゃんと私だけ。外でやっている部活も、今日はいない。



「───全部、かな」



 くったくなく笑うしずくちゃんの髪が、僅かに濡れている。しずくちゃんは、夜月くんと付き合い始めてから、よく笑うようになった。

 それがとっても可愛くて、私はだんだん、しずくちゃんと仲良くなっていった。



「結衣は、海斗のこと、どう思ってるの?」


「私?私ね……」



 しずくちゃんになら、言ってもいいかな…

そう思って私は、胸の中にある思いを全部ぶちまけた。



「────そっか」



 しずくちゃんは、黙って私の頭を撫でてくれる。私はなぜだか、涙が出てきて手で拭った。



「それだけ、結衣は海斗のことが好きなんだね」


「私が、海斗を…好き?」



 思っても見なかった返事に、私は聞き返す。



「だって海斗のこと、とても大事に思っているからそんな風に悩めるんでしょ?」


「あ………」



 ───そっか、私…


その時、私の中で、何かが分かった気がした。

ぐるぐる渦巻いていたものが、ぐちゃぐちゃに絡まり合った糸がほどけていくのが分かった。


 ───私、海斗のこと、好きだ……



「あれ、2人だけ?」



 その時、生徒会室の引き戸をガラガラと開けて、海斗が中に入ってきた。

 私の顔を見て、海斗の表情がこわばる。



「結衣、泣いてる?」



 私は海斗のいる逆方向を向いて、顔を手で押さえる。しずくちゃんがそっと生徒会室を後にして、夜月くんのいるコンピューター室にでも行ったことが分かった。



「どうした?」


「な、なんでもないよ…」



 私はそう答えるのが精一杯だった。



「無理、すんなよ」



 海斗はそれ以上何も言わずに、USBを握りしめて生徒会室を出て行った。


 ───心配、してくれたんだ……


 きゅう、と心臓が苦しくなる。

でも、私は思い出してしまった。あの日聞いた海斗の言葉を。



『海斗は、好きな人、いないの?』



 一呼吸おいていった、その言葉。



『………いるよ』



 せっかく、気付いたのに。自分の気持ちが、分かったのに。



「これじゃあ、失恋確定じゃん」



 泣いて赤くなった私の頬に、また一筋、涙が伝った。お願い……もう少し、あと少しだけ、好きでいさせて下さい。


 ───それでも、振り向いて欲しいから




♢♢♢




「お、おはよう!」


「結衣、おはよう。イメチェンしたの?」


「うん、しずくちゃんのおかげ!」



 次の日。私は泣きはらした顔で、ショートカットの髪を編み込んで、アメピンで留めた。

 生徒会室の鍵を開けて、荷物を置く。



「お、開いてる」



 そこに入ってきたのは、海斗だった。

私は何を話したら良いか分からなくなって、ファイルを確認する素振りをする。



「ねえ、好きな人って、誰なの?」


「言わないよ?」


「私が言ったら教えてくれたりしないの?」


「え………」



 ───なんて事をいっているんだ私は

そう心では思いつつも、一度言葉に出してしまえば、もう止められない。



「その人に、よるかな」


「へえ?」



 余裕ぶってる素振りなんて、あっちからしたらバレバレかもしれない。

 私は扉の前に立ちふさがって、にっと意地悪な笑みを浮かべる。あの時海斗が浮かべた笑みのような笑みを。



「───あれ?」


「ん?」



 海斗は、その手で私の頭を掴み、くるりと無理のない範囲で左を向かせる。



「髪型、変えた?」


「え、う、うん」



 ───気づいて、くれた

私はそれがどうしようもなく嬉しくて、顔が赤く、熱くなっていくのを感じる。



「今日は、一緒に帰れる?」



 勢いでつい、聞いてしまった。



「うん」



 海斗はそう返してくれる。私はホッとして、バレないようにそっと胸を撫で下ろした。




♢♢♢




「そろそろ帰るか」



 6時を回った生徒会室で、誰かが言った。



「そうだね」


「鍵ジャンすっか」



 海斗が、鍵をちらちらとちらつかせる。



「じゃーんけーん、ぽん!!」


「やった!」



 私はパーを出して、他はグーを出して一人勝ち。私は飛び跳ねてじゃんけんの輪から抜ける。

 そして、皆がもう一度「じゃーんけーん、ぽん!!」「あーいこーでしょ!」とじゃんけんをするのを優越感に浸りながら見ていた時、海斗が一人負けした。



「うわー」


「普段の行いじゃない?」



 にっと笑って言った私の一言で、あはは、と皆に笑いが起こる。



「行ってくるわ」



 海斗はばつの悪そうな顔で生徒会室を出て行った。



「……かわいすぎんだろ」



 海斗が生徒会室を出る間際に呟いたその一言は、扉のガラガラという音でかき消された。

 私がウインドブレーカーを着ていると、しずくちゃんがこっちに歩いてくる。



「結衣ちゃん」


「しずくちゃん?」


「あのね─────」



 その時、耳打ちでこっそり聞いた言葉は、きっと今の私にぴったりの言葉だと思う。

 背伸びもせず、子供らしくもしない私の精一杯。どうか、伝わりますように。





♢♢♢




「ばいばーい!」


「またな」



 皆との別れ道。私はぽつりと呟いた。


 ───知ってるはず、無いよね


それでもいいから、言いたくなった。伝えたかった。……だって、好きだから。



「明日は、晴れますか───?」



 しずくちゃんが教えてくれた、言葉。

きっと伝わらない。伝えることも、ない。



「……晴れることでしょう」


「えっ…」



 もう、止められない。

だって、海斗の好きな人は、きっと私だって思うから。そう、思えるから。



「私が、好きなのは……」



 それは、その一言は……

 ─────恋の、始まりだ。

ご精読ありがとうございました。

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