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楽園の孤島  作者: 青蛙
4/10

絶滅種

合計死亡者数 一名

行方不明者数 不明

生存者数 不明




◆◆◆


「ほーじょー、くん……」


 草薮を抜けたら目の前に太っちょのクラスメートが居た。

 確か名前は『太田 敦(おおた あつし)』とか言っていた筈だ。何故此処に彼が居るのかと思ったが、少し考えて納得がいった。多分自分は気絶していて出遅れたのだろう。他の乗客たちはとっくに安全な場所へと移動しているのかもしれない。


「ふむ、だとすると他の奴等は何処だ? 太田、他の乗客は何処に居るんだ?」


「っ!…………は、はぐれた」


「え、えぇ………」


 思わず呆れた声が出る。気絶していた自分とは違って他の乗客達と共に行動していた筈なのに、どうしてはぐれるんだ。100人以上は優に居ただろう。それとも、はぐれてしまうだけのやむを得ない理由が?


「何があった?どうしてはぐれた?」


 膝をついて倒れこんだ太田の肩に手を置いて話し掛ける。太田は随分と疲れているようで、顔を真っ赤にして息を切らしていた。しかし、その質問をした瞬間彼の顔はみるみる内に青ざめていき、カタカタと身体を小刻みに震わせ始めた。


「そうだ………ここに居ちゃ不味いんだ」


「………太田?」


「食われる……殺される」


「太田、落ち着け。まずは何があったか教えてくれ」


 目を虚ろにして、我を失いかけていた太田の肩を何度も強く叩いて呼び戻す。身体を震わせて殺されると呟き続けるだけだった太田は、何回目かでハッとしたように我を取り戻した。


「ご、ごめん……」


「大丈夫だ、気にしてない。それよりも何があったか教えてくれ。でないとその殺されるっていうのにも対処出来ない」


「な、何があっても………し、信じて、くれるか?」


「今のお前の状態で嘘をついていると思う方がおかしいだろう」


「そ、そっか………わか、った」


 それから太田はぼそりぼそりと小さな声で話し始めた。

 話した内容は、映画なんかに出てくる怪獣みたいに巨大なワニに乗客の女性が一人食われた事、それで逃げ込んだ森の中で熊みたいなデカイ生き物に追い掛けられて、皆とはぐれてしまったという事だった。


 普通ならば到底信じられるような内容では無い。頭がおかしくなってしまったのだとまず考えるだろう。しかし、彼が嘘をついているようには見えないし、絶滅していない生物とはいえ、生きた化石であるカブトガニを既に見ているので、そんな生き物が居てもおかしくないかもしれないとは思った。

 しかし幾らなんでもワニが一噛みで大人の女性の上半身を噛みちぎるなんてのは流石に作り話じゃないだろうか。だいたいそんな生き物が海に居るのなら、自分はとっくに死んでいたっておかしくない筈だ。


「信じてくれたか?」


「まぁ、一応は。話を誇張してたりとかは無いよな?」


「そんな事は無い!」


 怒鳴る太田。

 さっきまでここは危険だとかで静かにしか喋っていなかったのに、もう忘れてしまったのだろうか。これでは本当に先程の話が本当だったのかと疑ってしまう。


「悪かったって、信じてるよ。ここは危険なんだろ?でも飲み水とかが無いとそれはそれで生きてられないからな、まずはそっちを優先させて貰うよ」


「飲み水か………喉渇いた。お腹すいた……」


「少しは我慢しとけよ」


「でもぉ……」


 なよっちい男だ。良い機会だからここで痩せておくと良い。


「そうだ太田。お前はどうする? ついてくるか?」


「っ!………うん、そうするよ」


「そうか。じゃあ行くぞ」


 太田もついてくるつもりらしい。確かに太田も水は欲しい筈だ。随分と走って疲れているようだから、喉だって相当渇いているだろう。

 一応緊急用のペットボトルは有るが………やめておこう。このペットボトルは自分用にとっておく。自分は聖人じゃない。自分の身は自分で守る。余裕もないのに他者に施しをするような精神は生憎持ち合わせていない。


「だけどなぁ…………一応、これだけは持っとけ」


「え、何?」


 リュックサックからビーフジャーキーの袋を一つ取り出して太田に渡した。砂浜で手に入れた三袋のビーフジャーキーの内の一つだ。


「何時、何があるかわからない。念のためにもお前がこれを持っててくれ」


「これ、いいの!?」


「いいから持っとけ。長期間食料が手に入らなかった時の()()()の食料だ」


「わ、わかったよ、北条君!」


 太田は袋を受け取ると、着ていた学ランのポケットに突っ込んだ。袋がポケットの中でガサガサと音を立てる。思った以上に音が大きく、この森に危険な生き物が居るのなら不味いんじゃないかと周囲を見回したが、何か生物の気配は感じられなかった。


「ふむ……それじゃあ、お前が来たっていうあっちの方向は不味いんだよな?」


「あ、ああ。熊みたいなデカくてヤバそうなやつがいた」


「そうか、それじゃあ其方は避けて取り敢えず別方向から森の奥を目指すか」


「だ、大丈夫、なの?」


「それはわからない。だけど一応は木に目印をつけてあるから最初に俺が来た方の砂浜まで戻ることは可能だ」


「そっか………それなら、大丈夫だよね」


 ひとまず森からの脱出ルートがあると言うことに安堵したのか、ほっと溜め息をつく太田。俺は太田が来たと言う方向を確認して、『熊みたいなデカくてヤバそうなヤツ』なるものが来ていないことを確認した。

 右に行くか左に行くか少し考えて、右に進むことに決める。左は何か、嫌な予感がした。


「一応此処にも目印を付けておく。お前も覚えといてくれ」


「あっ、う、うん!」


 喋るときによくつっかえる奴だ。こいつと言い、他のサカキに嫌がらせを受けていた奴等の内の何人かといい、アニメオタクはどうしてこうも喋り方に特徴が出てくるんだろうか。そんな事を考えながら、ズボンのポケットからカッターを取り出して一本の木に×印に傷を付ける。太田にも何処に印を付けたかちゃんと確認させておいた。万が一自分と彼がはぐれてしまうような事があった場合でも、目印さえ知っていれば砂浜まで戻ることが出来る。



 太田を連れて森の中を進み始めた。ツタや背の低い木々が行く手を阻んでくるが、それらを避けたり引きちぎりながら先へと向かう。先程まで一人で此処まで来たときと変わらない動作だ。

 ただ一つ変わったのは、その動作一つ一つになるべく音を立てないように神経を使うようになった事。もし太田の言っていたことが本当なら、こうした動作一つにも気を付けないと何時何かに襲われるかわからない。

 さっきまでの自分の想像通りにジャガーやトラが居たとしてもそれは同じことなのだが、実際に死人が出ていると聞いては今まで通りではいられない。目当ての食料や水は探しつつも、常に周囲の警戒を行い何も居ないことを確認しつつ歩く。


 かれこれ十数分ほど歩いた所で、後ろを歩いていた太田が口を開いた。


「ね、ねぇ………北条くん」


「ん、どうした?」


「や、やっぱり………こっ、この道、大丈夫、なのかな」


「大丈夫かどうかわかってたら苦労しないよな」


「っ…………そ、そうだよね」


 何かと思えばわかりきった事を聞いてくる。不安なのはわかるが、それは自分だって同じだ。だから思わず嫌味が口をついて出てしまった。自分は普段から口が悪いのは自覚しているが、今のは特に良くなかったように感じる。太田は前にも増して萎縮してしまって、顔を俯かせてしまった。

 しかし、太田もびくびくしながら後ろをついてきているだけだし、今更だがついてこさせるべきじゃ無かったかもしれないともやはり感じる。ここはしっかりと言っておくべきか。


「ごめん、今のは俺の言い方が悪かった。大丈夫かどうかはわからない」


「べ、別に北条くん、は、悪くない」


 ぼそぼそと聞き取りにくい声で話す太田。謝ったからか、顔は俯かせたままだが、先程よりは幾らか緊張がほぐれているようにも見える。


「そうか………それとなんだが、お前だけここで一度戻らないか?」


「っ!? どっ、どうして」


「シッ、大きな声を出すな。戻るかって言うのはお前がずっと怯えているみたいに見えたからだ。正直に言って、今の状態のお前が熊と遭遇したら一溜りも無い」


「熊じゃなくて、熊みたいなヤバいヤツ………」


「そこはこの際どうでも良いだろ。兎に角、戻るだけなら目印を辿れば済む話だから、どうする?」


「ぼっ、僕は………」


 頭を抱えて唸る太田。不味いな、選択を誤ったかもしれない。サバサバしたタイプならまだ話しやすいんだが、太田みたいなタイプとはあまり話したことが無いからどう接するべきか掴めない。

 取り敢えず、混乱しておかしな行動をとられたら良くないと思い、彼の方に手を伸ばし――――




――――――メキッ


「ひっ………」


 突然、枝が折れたような音がした。

 頭を抱えていた太田も、音に反応して縮こまってしまう。


(何だ………何か居るのか?さっきの太田の大声で何か呼び寄せたのか?)


 音を立てないように、足元に注意して静かに周囲を見渡した。目に写ったのは今まで歩いてきた道で見た景色と何ら変わらない、シダや広葉樹なんかの草木が生い茂った薄暗い―――――――――居た。見つけた。きっと、アイツが太田の言っていた『熊みたいなデカくてヤバそうなヤツ』だ。


「ブォッ、ブォォッ」


 二本の足で力強く立ち上がり、大きな鉤爪を器用に使って木の枝を引き寄せると、それについている葉を長い舌で舐めるようにして食べていく。さっきの枝が折れるような音は、枝がヤツに引っ張られたことによって鳴ったのだろう。


「嘘だろ………信じらんねぇ」


 思わず口元を押さえながらそう呟いた。

 突然だが、俺の趣味は博物館巡りだ。中でも生物に関する展示はとても好きだった。恐竜の化石を見るのも好きで、小さい頃は両親に連れられて毎年行われる恐竜博や昆虫博なんかにもよく行ったものだ。

 だから、太田が『熊みたいなヤバいヤツ』と称したあの生き物の事も知っている。だが、あの生き物がこの場に居ることはあり得ない。この場どころか、この地球上にはもう生きているものは残っているはずが無い。


「ひ、ひぃぃ………」


 目と鼻から液体を垂らしてビクビク震える太田を横目にヤツの全身を眺めた。間違いない。


「………メガテリウム」


 その生物の名前を静かに呟いた。

 かつて南アメリカ大陸に君臨し、しかし後に現れた人間によって狩り尽くされ、今は絶滅したとされるその生物の名を。






【北条 夢唯】

 高校生二年生の男子生徒。日本人。17歳。趣味は博物館巡り。目付きが悪く、口もお世辞にも良いとは言えないが、よく見ればイケメン。身長は174センチ。特に身体を鍛えるような事もしていなかったので、現在はあまり筋肉はついていない。しかし身体能力自体は高め。


【太田 敦】

 夢唯と同じ高校に通う二年生の男子生徒。日本人。16歳。身長は166センチ。趣味はアニメ観賞とアニメグッズの収集。好きなアニメの種類は日常系。高校になってからアニメにドはまりした。デブ。足は遅い。力はそれなりにある。



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