始まりの空
ある日、突如空が暗闇に呑まれた。
いつもと変わらないはずの平和な日常が一変し、村の人たちも驚きを隠せない様子だった。
「一体なにが起こってるんだ…」
不安が全身に駆け巡り、じっとしていられなくなった俺は思わず走り出した。
「母さん!」
迷いなく向かったその先には信じられない光景が広がっていた。
「…嘘だろ」
きっと、さっきまで夕飯を作りながら、俺の帰りを待っていたはずの、母親とその家は、炎に囲まれていた。
「母さん!母さん!母さん!」
声がかれるくらいに何度も叫び呼んでも、帰ってくるのは燃え盛る炎の音だけだった。
救出を試みるも、あまりの炎の大きさに怖じ気ずく。
「びびってるんじゃねぇ俺!母さんを助けるぞ!」
意を決し炎の渦に飛び込もうとしたその時、何者かに後ろから腕を強く捕まれた。
「馬鹿か小僧!死ぬ気か!」
「放せ!俺は母さんを助けに行くんだ!」
捕まれた腕を振りほどこうと、必死に抵抗するものの、力量から大人であろうその手をほどくことはできなかった。
「無駄だ!あの火の強さじゃもう手遅れだ!」
「何でだよ!まだあの中で生きているかもしれないだろ!」
渾身の力を入れても振りほどけないことを悟った俺は別の手段をとった。
捕まれている右腕に力を集中し放出させる。
「―っ!」
「魔法か!」
そう最近使えるようになった母さんと俺しか知らない秘密の力。(そうか魔法って言う力なのか)
やっと振りほどけ、即座に炎の渦に向かおうとしたその瞬間
「赦せ…小僧」
不意に全身の力が抜け、深い眠りに落ちた…。