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「大事な話って、何?」
中庭のベンチに並んで腰を下ろすと、咲本の方からそう聞いてきた。
「ごめん、咲本」
何から話し始めようか迷っていた俺の口から出たのは、咲本への謝罪のコトバだった。
当然のことだが、何を謝られているのかわからない咲本は目をみはり、俺自身も自分が無意識下で口にした言葉に驚いていた。困惑しながらも俺を真っ直ぐに捉える咲本の視線に、この場を逃げ出したい衝動にかられる。
そんな俺が呼吸を整え、次の言葉を繋ぐまで、咲本は何も言わずに待っていてくれた。
「俺はずっと、咲本を裏切ってたんだ」
一息に告げると、咲本の反応を待つ。
しかし、咲本は何も言わず、膝の上で手を堅く握りしめていた。
――これから俺は咲本を傷つける。
わかっていたはずなのに、揺らいでしまう。
この決意が砕けてしまう前に全てを終わらせなければならない。
これが、俺にとっても彼女にとっても一番いい方法なんだ、そう何度も自分に言い聞かせて、俺は真実を紡ぎだした。
「俺が麻倉と中野と仲良いのは知ってるだろ?」
話の飛躍に怪訝な顔をしつつも、咲本は頷いた。
「俺たちの中では暗黙の了解になってるんだけど、定期テストで取った点数が一番悪かったやつは、勝ったやつが決めた罰ゲームをするんだ。今回の期末は俺が負けて、罰ゲームをすることになった」
そこで小さく息をつくと、なるべく声が震えないようにお腹に力を込める。
「その罰ゲームの内容が、『告白をすること』だったんだ」
俺の言葉に、咲本の肩が少し震えたのがわかった。
引き返す道は、もう残されていない。
「最初は冗談かと思ったけど、二人は本気だった。中野も麻倉も、前にやった罰ゲームのこと根に持ってたらしくて……だけど俺には告白をしたい相手なんていなかった。だからあの日、あの場所を通りかかった相手に告白することになったんだ……」
静かに俯く咲本の表情は、髪に隠れて見えない。ただ、きつく握りしめられて白くなった咲本の手が、俺が彼女に負わせた傷の深さを物語っていた。
「何度も……何度もやめようと思ったんだ! あの時だって直前まで。だけどあいつらが……」
違う。
俺はこんなことが言いたかったんじゃない。
真実を告げると決めたのは自分なのに、俺はここまできて逃げるのか?
俺は悪くない、悪いのはあいつらだって言い訳して、俺のことを心から気遣ってくれた親友まで裏切るのか。
――俺は、こんなに嫌なやつだったのか。
「違う! 中野も麻倉も悪くない。告白をすると決めたのは俺なんだ。だから俺が全部――」
「……て」
急に言葉を発した咲本に、俺の思考は一瞬真っ白になった。
「……咲本?」
「…めて。もうやめて!」
そう叫ぶと、咲本はゆっくりと立ち上がった。
「ごめんね、まさか遊馬くんがそんなに思い詰めてるなんて知らなくて……私ね、知ってたの。あの告白が罰ゲームだって。だから悪いのは私、遊馬くんじゃないよ」
そういって俺を見下ろした咲本は、泣いても、怒ってもいなかった。
――そう、笑っていた。