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「どうしてこんなことになったんだ……」

 教科書の詰まった重い鞄を肩にかけ、意気揚々と進む中野と麻倉の後ろを歩きながら、気がつくと思わずつぶやいていた。夕方ともなればかなり冷え込んでいて、ため息が白く目に映る。

 結局、罰ゲームの内容を変えることはできなくて、なんだか言われるがままに人通りの少ない裏道を歩いている自分に嫌気がさす。押しに弱いのは今に始まったことではないが、このままではいつか絶対に損をする気がする。いや、今現在も困った状況下に置かれているわけだが。

「どうした?乗り気じゃないみたいだな」

 少し前を行く中野が言いながら振り返った。

「当たり前だろ。何回も言うけど、俺は仲のいい女子もいなければ、好きなヤツもいない。そんなヤツに告白なんて無理に決まってんだろ!」

「だからこうやって告白する相手を探してるんじゃないか。しかも僕たちは優しいから、目的地に着くまでは人目につかないように配慮してこの道を歩いているんだよ」

 となりを歩く麻倉が得意げに言った。褒めてくれてもいいんだよと言わんばかりだ。

 人目を気にして裏道を選ぶ配慮ができるなら、どうして好きでもない相手に告白する俺のことを気の毒だと思えないのだろう。学校を出てからというもの、似たようなやりとりをもう何度も繰り返していた。

「いい加減に覚悟を決めろよ。いつもの遊馬はもっとさばさばしてるだろ。どーせ誰に告ったってふられるだけなんだし、そのあとに実は罰ゲームだったんだっていえば問題ないって」

 言い出したら聞かない中野の性格をよく知っていたし、何よりテストで負けたのは自分自身だ。俺にはもう、こいつの言うとおり覚悟を決めることしかできなかった。


 このときもっと食い下がっていれば。

 相手を傷つける可能性を考えていれば。

 何かが、変わっていたのだろうか。



 麻倉の言う目的地は、俺の通う学校の生徒たちが利用する通学路のうちのひとつだった。冬の夕方とだけあって、学生どころか近所の人の姿も見えない。味気ないコンクリートの道に、3人の影が長く伸びているだけだった。

 人がいないのに人目を気にしてどうするんだと思ったが、とりあえず俺たちは学校から続く道から姿が見えないように、角を曲がったところで待機することにした。

「もしかして、このまま誰かがここを通るまで待つつもりか?」

 嫌な予感を口に出すと、麻倉と中野はさも当たり前のようにうなずいた。

「……あのな、よく考えても見ろよ。もう陽がこんなに傾いてるんだ。人がひとり通るかも怪しいのに、都合よく女子高生が通りすがるわけないだろ」

 限りなく可能性が低いことにも気づけないような奴らに負けたのかと思うと、自分が情けなかった。

「遊馬、君はどうしてそんなに悲観的なんだい?」

 麻倉はやれやれといった風に肩をすくめ、中野はそうだそうだと言わんばかりに何度も頷いた後、声を張り上げた。

「だれかいませんかー。頭の悪い真壁遊馬に告白されてやって下さいー!」

「馬鹿やろっ! いくら人がいなくても、ここは住宅街なんだからな。誰かに聞かれたらどうするんだっ」

 焦る俺とは対照的に中野と麻倉は飄々としている。

「別に、俺たちは困らないし」

「俺は困るんだよ!」

 あわてて塀の影から通学路の方をのぞくと、幸いなことに人影はなかった。

「はぁ……、なんとか誰にも聞かれずに済んだみたいだな」

 本当にとんでもないことをするヤツだ。吐く息が白くなるような寒さなのに、いつの間にか俺の額には汗が浮かんでいた。なんだか一気に疲労感が増した気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。



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