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 昨日の朝、俺が真実を口にしようとしたとき、彼女は故意に俺の言葉を遮って走り出した。あの時の俺は、ただの気のせいだと思っていたが、確かにその瞬間、咲本の表情は曇っていたんだ。俺が、本当の事を言おうとしていると気づいたからこそ。

 今日の昼休みにしてもそうだった。話したい事があると言った俺を見た咲本の眼は、何かを覚悟していた。

「教室で聞く事ができなかったとしても、罰ゲームについて知る事はできたってことかな?」

 麻倉の問いに、今度はしっかりと頷く。

「中野、覚えてないか? あの日、目的地に着いた後、お前何か叫んだだろ」

 中野に向けて問いかけると、しばらくして中野と麻倉が同時に声をあげた。

「そうか!」

「あの時!」

 そういうことか、と納得した様子の二人に向けて、俺はさらに言葉を重ねる。

「思い出したみたいだな。中野が大声をあげたとき、きっと近くに咲本がいたんだ。お前は俺が誰かに告白しようとしてるってことしか言ってないけど、咲本とは同じクラスだし、俺たちがいつもテストの点数が一番低かったヤツに罰ゲームやらせてることぐらいは知っててもおかしくない」

「ねえ、遊馬」

 一通り説明を終えて一息ついた俺に、麻倉がためらいがちに声をかけた。

「千雪ちゃんがどこで罰ゲームを知ったかについてはわかったよ。君が僕たちに質問をした意味も。だけど、これは遊馬が取り乱すようなことだったの?」

 言葉にはしていないが、中野も麻倉と同じ事を考えていたようで、二人の視線が俺に集中する。

 俺はその視線を真っ直ぐ受け止め、慎重に言葉を返した。

「俺を焦らせたのは、咲本がどのタイミングで罰ゲームの事を知ったかじゃない。その後なんだ」

「……後?」

「ああ。中野が叫んだあと、俺たちは咲本が通りかかるまでどれくらい待った?」

 俺がそう口にした瞬間、周りの空気が痛いほど張り詰めた。

「きっと30分以上あの場所で待ったはずだ。じゃあその間、咲本は何をしていたんだと思う? あんなに寒い中、30分も何を考えていたんだと思う?」

 中野も麻倉も何も答えなかった。きっと俺が答えを求めていないことがわかっているからだろう。

 そう、俺の中で答えはもうとっくに出ている。

「咲本は、きっとこの二日間を、『恋人ごっこ』だなんて思ってなかった」

 これが、俺の下した結論だ。

「じゃあ……」

 口を開きかけた中野を制してゆっくりと頷く。

「俺は、行かなきゃならない」

 決意を込めて真っ直ぐに二人を見つめると、ふいに麻倉が驚くほど優しく微笑んだ。

「よかった……ちゃんと自分の気持ちに気づけたんだね」

「……ああ」

 つられて笑い返すと、脇腹に中野の拳が入った。

「ってぇ……」

 完全なる不意打ちに思わず身をかがめて上を見上げると、中野と視線がかち合った。ものすごく不機嫌そうである。

「俺だけのけもんにするんじゃねぇよ」

「悪い」

「千雪ちゃんなら屋上だぜ。10分ぐらい前にバカ嶋が連れ出してった」

 ぼそりと教えられた情報に、俺はまた破顔した。これほど不器用な優しさを、俺は他に知らない。

「ありがとな、中野。お前はいつだって俺が一番欲しい言葉をくれる」

「なっ……気持ち悪いこと言ってないでさっさといけ!」

 もう一度くり出された拳をよけつつ、俺は麻倉の前に立った。そうそう何度もやられるつもりはない。

「麻倉もありがとな」

「どういたしまして。荷物は僕らが預かってるから。急ぐんでしょう?」

「頼む」

 鞄とマフラーが入っていた紙袋を手渡すと、俺はもう一度二人に向き直った。ありがとう、お前らは俺の最高のダチだ、想いを込めて視線を交わす。

「……行ってくる」

 改めてそう告げると、俺は屋上目指して駆けだした。


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