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息を切らしながら昇降口に駆け込むと、そこには中野と麻倉が立っていた。まるで初めから俺が戻ってくる事を知っていたかのように、二人には少しも驚いた様子がない。
だが今の俺には、それを追及するだけの余裕がなかった。たとえ二人がここにいなくても、会って確かめなければならないことがあったのだ。
「中野、麻倉! 一昨日の放課後、罰ゲームの話をしたとき、教室に咲本はいたか!?」
肩を掴んでまくし立てる俺の剣幕に驚いて、中野は目を丸くした。
「怒って教室飛び出したかと思えば、今度は血相変えてどうしたんだよ」
「遊馬、とにかく少し落ち着いて」
なだめる麻倉の声からも、困惑しているのがわかる。
俺は肩で息をしながら、なんとか自分を落ち着けようとした。
「急いでいるのはわかるけど、順を追って説明してよ」
穏やかな麻倉の声に頷いて、俺はさっきと同じ質問を繰り返した。
「思い出して欲しいんだ。お前たちが俺に罰ゲームの内容を告げたとき、あのときもうほとんどの生徒が教室にいなかったはずだ。そこに、咲本はいたか?」
そのときの事を思い出しているのだろう、人気のない昇降口に小さな沈黙が落ちる。
やがて、中野が口を開いた。
「俺はいなかったと思う」
「僕もいなかったように思うけど……」
麻倉も中野に同意し、少し首をかしげて続ける。
「でも、それがどうかしたのかい?」
俺はゆっくりと頷いた。
やはり、あの話をしていたとき、咲本は教室にいなかったのだ。これで確信を持つことができた。
――咲本は嘘をついている。
「昼休み、咲本は俺に、あの告白は罰ゲームだと知っていたと言った」
俺は不思議そうに顔を見あわせている二人を順に見つめると、静かに切り出した。
「俺たちは罰ゲームで告白をすることなんて誰にも言っていない。そうだよな?」
確認するように訪ねると、二人はこくりと頷く。
「ということは、だ。咲本はどこかで俺たちが罰ゲームについて話しているのを聞いた事になる」
そう言うと、そんなこと当たり前だと言わんばかりに中野の眉間にしわが寄った。
「それがどうしたってんだよ。千雪ちゃんが知ってたって言ったんならそういうことなんだろ」
「そう苛つくなよ。ここでさっきお前たちにした質問が生きてくるんだ」
苦笑混じりに言うと、中野はあらぬ方を向いてしまった。回りくどい説明がお気に召さなかったらしい。
そんな中野の様子を見て、自分が大分落ち着いてきていることに気がついた。口に出す事で、頭の中が整理できたことが大きい要因だろう。
「さっきも確認したけど、俺たちが教室で罰ゲームについて話しているとき、そこに咲本はいなかった。だけど咲本は罰ゲームについて知っていた。なら、咲本はいったいどこでその話を聞いたんだ?」
おれが投げかけた問いに、中野と麻倉が目を見開いた。
「本当だ……教室じゃないなら、いったいどこでそれを知ったんだろう」
麻倉の問いには答えず、俺は自分の中に確信を持って根付いた考えを口にした。
「俺は、咲本が嘘をついているんじゃないかと思うんだ」
その言葉に、二人の表情がさらに驚きに彩られる。
「なっ……どういうことだよそれ! 千雪ちゃんは本当は罰ゲームについて知らなかったってことか?」
つかみかからんばかりの勢いで言う中野に対して、俺は首を振った。
「いや、咲本は知っていたんだと思う」
そう、彼女は初めから知っていたんだ。