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「知ってた……? 知ってたってどういうことだよ!」
混乱して冷静な思考能力を欠いた俺は、ただ咲本を問い詰めることしかできなかった。
「そのままの意味だよ。最初から、遊馬くんが告白したのは、それが罰ゲームだったからだって知ってたの。知ってて『はい』って答えたんだよ」
淡々と告げる咲本の瞳は、ただまっすぐに俺を見つめている。その瞳に映り込んだ自分の顔があまりに情けなくて、俺はただ目をそらすことしかできなかった。
「私ね、聞いてたの。遊馬くんたちが罰ゲームのことを話してるのを。そうしたら、本当に告白するのかなって興味がわいてきちゃって。もし、その告白に『はい』って答えたらどうなるんだろうって思ったら、なんだかやってみたくなっちゃったの。だってこんなことって滅多にないでしょ?」
流れるような咲本の言葉は、俺の頭に素直に入ってこなかった。いや、理解することを俺自身が拒んでいたのかもしれない。
「だからね、遊馬くんがそんなに気にすることないんだよ。『恋人ごっこ』もそれなりに楽しかったし。もう少し続くかとも思ったけど、お互いにホントのこと言っちゃったらしょうがないよね……それじゃあ、私はもう行くね」
「っ……咲本!」
「バイバイ」
そう言って綺麗に微笑むと、咲本は俺に背を向けた。
言いたいことはたくさんあるのに、喉の奥で絡まった音は言葉にならずに消えてしまう。
遠ざかる背中に手を伸ばしてみても空を掻くだけで、地面に縫い止められた足が地を蹴ることはなかった。
『恋人ごっこ』
咲本は確かにそう言った。
それを認める自分がいる一方で、信じたくないと耳を塞ぐ自分がいる。
咲本の言葉は、本当に彼女の本心だったのだろうか。
最後に見た咲本の笑顔は、俺には泣いているように見えた。