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聖獣王と千年の恋を  作者: 山岡希代美
第一章 ビャクレン
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3.魔獣の門



「さぁ、納得したならすぐに行こう。ぐずぐずしているヒマはないのだ」

「いや、別に納得していませんから」


 メイファンとワンリーが話のかみ合わない押し問答を続けているところへ、聖獣殿に行っていた両親が戻ってきた。


「メイファン、無事だったの?」

「母さん、父さん」


 助けを求めるようにメイファンが両親を呼ぶ。駆け寄ってきた両親は、メイファンの隣にいるワンリーを訝しげに眺めた。

 娘の腕を掴んだ派手な容姿の見知らぬ青年は、両親にとっては思い切り怪しい奴に違いない。


「この方は?」

「えーと……」


 父の問いかけにメイファンはなんと答えていいかわからず口ごもる。結局適当な説明も思いつかないので、正直に紹介した。


「魔獣の群を追い払ってくれた聖獣王の麒麟さんなの」

「は?」


 ますます怪訝な表情をする両親の目の前で、ワンリーは麒麟の姿に戻って見せる。そしてはるか頭上から挨拶をした。


「はじめまして。ワンリーといいます」

「せ、聖獣王!」

「麒麟さま!」


 両親はワンリーを見上げながら、抱き合うようにして動揺する。

 再び人の姿に戻ったワンリーは、人懐こい笑みを浮かべてなれなれしく両親の手を取った。


「ちょうどよかった、ご両親。俺の妻として娘さんをください」

「えぇっ!? メイファンを!?」

「聖獣王の妻に!?」

「勝手に話を進めないでください!」


 外堀を埋めようとするワンリーにメイファンは怒鳴る。さらに動揺した両親はメイファンに詰め寄った。


「メイファン、おまえいつの間に聖獣王様と知り合いになったの?」

「ついさっき、初めて会ったの! 妻になる気はないから!」


 きっぱりと断言するメイファンに、ワンリーは真顔で冷ややかに言い放つ。


「妻にならずとも、おまえは俺と共にシェンザイに行かねばならぬ」


 その厳しい表情に幾分萎縮しながらメイファンは尋ねた。


「どうして?」

「おまえの身の内に魔獣の門が開いたからだ」

「魔獣の門……」


 先ほど虎の魔獣が言っていた「門の娘」を思い出す。もしかして、さっき空が暗くなったときの疝痛がそれなのだろうか。


「それってどういうことですか?」

「あまり悠長にしている時間はないが、説明しよう。ご両親にも聞いていただきたい」


 それを聞いて冷静さを取り戻した父がワンリーを促した。


「では、むさくるしいところですが、うちへ」

「そうさせてもらおう」


 ワンリーを伴ってメイファンと両親は自宅へ向かう。ワンリーと一緒にいた白い麒麟の青年ソミンはワンリーの指示で聖獣殿に向かった。


 居間の円卓を囲んで、ワンリーの右にメイファン、左に父が座る。母が四人分の茶を運んできて父とメイファンの間に座ると、ワンリーは話し始めた。




 聖獣が守護するガイアンは、聖なる山シェンザイを中心にぐるりと円を描くように山脈が取り囲んでいる。その山脈に魔獣の住む地との境界線があった。


 その境界線を越えて、五百年前に一人の娘が魔獣の地に迷い込んだ。娘は魔獣の王チョンジーに捕らえられ、身の内に魔獣の門を開かれる。


 本来魔獣たちは境界線を越えることができない。だが、ガイアンに属する人の中に魔獣の門が開けば、境界線を越えることができるのだ。


「今日のようにビャクレンに魔獣がなだれ込んだ。俺はチョンジーの元から逃れてきた娘を娶り門を閉じた」

「閉じた門がどうしてまた開いたの?」


 メイファンが素朴な疑問を口にする。ワンリーがそれに答えた。


「おまえたち人間の命には限りがあるからだ。魔獣の門は娘の魂に開けられたものだ。門を宿した娘の魂が体を乗り換えるたびに門は復活する」


 それを聞いてメイファンは思わず自分の体を抱きしめて身震いした。自覚はなかったが、ワンリーの言う通りだとすると、自分は生まれたときから体内に災いの種を抱えていたことになる。


 だが今日までメイファンのいるビャクレンも、ガイアンの他の都もいたって平和だった。どうして魔獣たちは今日まで待っていたのだろう。

 それが腑に落ちないので尋ねた。


「私が生まれたときに門が復活したなら、どうして魔獣たちは今日まで境界線を越えなかったのですか?」

「門を機能させるには霊力を必要とするんだ。それは門を宿した人の気力が源になっている。子どもは体力も気力も少ない。門を完全に機能させるには、人が生まれて二十年はかかる」

「それで今日なのね……」

「どういう意味だ?」


 納得してうなずくメイファンに、ワンリーは不思議そうに首を傾げる。


「今日は私の二十歳の誕生日なの。本当の誕生日はもう数日前だと思うけど」

「確かに数日前から門の波動は感じていた。はっきりしたのは今日だが」


 ワンリーも頷いた。そして悔しそうに眉を寄せる。


「チョンジーもそうだが、俺も門の波動がなければ、おまえの居場所はわからない。今日までどれほど歯がゆい思いでいたか」


 そう言ってワンリーはメイファンの手を取った。両手で包み込み嬉しそうに微笑む。


「おまえがチョンジーに連れ去られる前に間に合ってよかった」


 突然、ワンリーの左隣で父が咳払いをする。厳しい表情で見つめる父と目があったワンリーは、苦笑しながら慌ててメイファンの手を離した。

 父は満足げにうなずいた後、気を取り直してワンリーに尋ねる。


「事情は理解しました。そして娘を守ってくださったことに感謝します。娘の中にあるという門をすぐに閉じることはできませんか?」


 ワンリーは目を伏せて首を振る。


「そうできれば簡単なんだが、今ここでは無理だ。門を閉じるには膨大な霊力と集中力を必要とする。魔獣の邪魔が入らない、霊力に満ちたシェンザイに行かねばならぬ」

「でもシェンザイは聖域で、人は入れないでしょう?」


 すかさずメイファンは指摘した。決まり事として禁止されているだけでなく、結界に守られていて実際に立ち入ることができないのだ。

 だがワンリーはニヤリと不敵の笑みを浮かべる。


「案ずるな。手は打ってある」

「どういうことですか?」

「ガイアンの四方を守る守護聖獣と俺の眷属である四聖獣の加護を受ければ、人の気が薄れシェンザイに入ることができるのだ。すでに各都には四聖獣を向かわせてある」

「……ということは、ガイアン各地を巡らなければならないのですか?」

「そうだ。だから悠長にしている時間はないと言ったのだ」


 守護聖獣が守護している地域を離れるわけにはいかない。ましてや今はいつ魔獣が襲ってくるかもわからないのだ。だからこちらから出向くしかないとはいえ、ビャクレンから出たことのないメイファンは、その長い道のりに気が遠くなりそうだった。

 おまけに旅の供は妻になれと迫ってくるワンリー。魔獣からは守ってくれるだろうが、別の意味で危険な気がする。


 途方に暮れているメイファンの手を掴んで、ワンリーは席を立った。


「話は以上だ。まずはバイフーとソミンの加護を受けてもらうぞ」

「え、あの……」


 ワンリーはメイファンを引きずるようにして、有無も言わさず出口へ向かう。それを父が後ろから引き止めた。


「お待ちください! もうひとつお聞きしたいことがあります」


 立ち止まって振り返ったワンリーに、父はおそるおそる尋ねる。


「門を閉じたら、メイファンは帰って来るんですよね? たとえ、あなたの妻になったとしても、たまには帰って来られるんですよね?」


 それはメイファン自身も気になっていた。自分が災いの種を抱えているなら、それを取り除くためにシェンザイに行かねばならないことは仕方ないと思う。けれど、知り合ったばかりの麒麟の妻になるつもりはないのだ。災いの種を封印できたら元の生活に戻りたい。


 固唾を飲んで見つめる両親とメイファンに、ワンリーは冷たく言い放った。


「それはできない。シェンザイに入った人は人ではなくなるからだ」




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