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聖獣王と千年の恋を  作者: 山岡希代美
幕間 シンシュ〜テンセイ
10/31

1.千年後の約束




 シンシュの門を出て当たり前のようにワンリーに手を引かれながら、メイファンは彼に笑顔を向けた。


「ワンリー様、すてきな靴をありがとうございました。とても歩きやすいです」


 ワンリーも笑顔でそれに答える。


「そうか。それはよかった。でも靴だけでよかったのか? 靴に合う服も買えばよかったのに」

「いいえ。街道は都の中と違って物騒なので、あまりきれいな格好をしていると盗賊に狙われやすいと聞きました。色々、目立たない方がいいんですよね?」

「そうだな。人の揉め事は魔獣を呼び寄せる」

「そうなんですか?」


 そういえば、これまで魔獣とは縁がなかったせいか、魔獣が人を襲う理由など考えたこともなかった。そして聖獣がなぜ人の世の安寧を守っているのかも。

 首を傾げるメイファンに、ワンリーは察したように説明をする。


「魔獣たちは人が発するいんの気を力の源にしている。だから人心を惑わして互いに争わせたり、襲って怖がらせたりするんだ。逆に俺たち聖獣は人が発する陽の気を力の源にしている。だから人の世の安寧を守っているんだ」


 なるほど。理由もなく人を守っているわけではないらしい。

 だが、そういうことなら、聖獣と魔獣が和解する日は永遠に来そうもない。


「私はこの先ずっと生まれ変わるたびに魔獣に狙われるんですね」


 メイファンがため息まじりにつぶやくと、意外にもワンリーは否定した。


「いや。千年だ」

「え? 終わりがあるんですか?」


 目を丸くするメイファンに、ワンリーは微笑む。


「あぁ。疲れてないか? そこで少し休もう。そろそろ昼だ」


 そう言って街道脇にある休憩所を指さした。そこはシェンザイから流れてくる小川のほとりで、木陰には木製の長いすも置かれている。馬に水を飲ませている人が何人かいた。


 ワンリーに促されて木陰の長いすに並んで座る。はるか彼方にシェンザイを眺めながら、メイファンはシンシュで昼食用に買った包みを広げた。包みの中には挽き肉と野菜を包んだ饅頭がひとつ。まだほんのりと温かい。それを両手で持って食べながら、ワンリーの話に耳を傾けた。


「俺の力は千年しか持続しない。それはチョンジーも同じだ」


 千年”しか”って十分すぎるほど長い。その間少なく見積もってもメイファンは十回転生することができる。


「あと何年くらいなんでしょうか」

「暗黒の百年以降になるから、八百年くらいだな」

「え? シュエルーの時からじゃないんですか?」

「娘がチョンジーに捕らえられたら、おそらく再度術をかけられる。それからさらに千年ということになるからな」


 ワンリーはメイファンの手を取り、愛おしげに頬を寄せる。


「おまえと一緒にいられる時間が長くなるのは嬉しいのだが、チョンジーに奪われた間はそれ以上に長く感じられる」


 ワンリーがシュエルーの魂を愛しているのはわかる。魂が転生を繰り返してもずっと愛し続けるのだと思っていた。魔獣の門に期限があるとは知らなかったから。

 魔獣の門の波動を頼りに、門の娘を見つけているとワンリーは言った。門が消えてしまったら、見つけられないのではないだろうか。


「もしも千年後に私の魂から魔獣の門が消えてしまったら、ワンリー様はどうするんですか?」

「決まっている。必ずおまえを見つけだし、魔獣におびえることなく皆に祝福されて俺の妻となれるようにする」

「門の波動がないのに、どうやって見つけだすんですか?」

「心配ない。俺とおまえの魂は惹かれあう運命さだめにあるのだ」


 真顔で自信満々に即答するワンリーを見つめて、メイファンは一瞬目を見張る。けれど、その根拠のない自信がいかにもワンリーらしくて、思わず吹き出した。

 クスクスと笑い続けるメイファンに、ワンリーは少し不愉快そうに言う。


「なにがおかしい」

「ごめんなさい。ワンリー様があまりにも自信満々に断言なさるから」

「自信があるから当然だ」


 相変わらずひるむことなくワンリーは断言する。根拠はないが、それでもワンリーなら本当にメイファンを見つけだしそうな気がした。


「必ず見つけてくださいね。でも私はまたワンリー様のことを覚えていないと思います。だからいきなり抱きしめるのはやめてください」

「あぁ。肝に銘じておこう。また叩かれたくはないからな」


 そう言ってワンリーはいたずらっぽく笑う。メイファンも笑顔を返して、食事を再開した。

 食事を終えると、ふたりはまた手を繋いで街道を歩き始めた。





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