秋津洲出航
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2024年2月12日午前9時
日本横須賀基地
勇壮な軍艦行進曲の流れる中、DDV-1秋津洲を旗艦とした第1護衛隊群が出航していく。
空は雲1つ無い晴天。秋津洲の姿が朝日に照らされていた。
第1護衛隊群旗艦秋津洲艦橋
「群司令、予定通りですと3時間で訓練海域に到達します。」
「分かった。」
秋津洲艦長小嶋咲良一佐の言葉に、群司令大塚孝明海将補は大きく頷いた。
「艦長、もう慣れたか?」
「なかなか難しいですが、私はやり遂げます。」
「その意気だ。」
大塚群司令は小嶋艦長の言葉に笑みを浮かべながら答えた。
小嶋咲良一佐は海上自衛隊史上初の女性自衛官の艦長である。日本政府海上自衛隊が強襲揚陸艦の保有を決めてから、アメリカ合衆国ノーフォーク海軍基地で訓練を受けた艦長候補5人から選ばれ艦長となった。
そもそも海上自衛隊が事実上の空母、100人が100人空母と断言するだろう航空機搭載型護衛艦秋津洲が生まれたのは10年前に遡る。
当時日本を取り巻く情勢は必ずしも良好とは言えなかった。中国の海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発、韓国の執拗な反日。日本政府と防衛省は強襲揚陸艦の本格的取得に向けて計画を進めた。当然日本政府は強襲揚陸艦である為に、アメリカ合衆国政府も巻き込んだ。。アメリカ合衆国政府も国防予算削減に伴う相対的な影響力の低下に、日本の負担拡大を狙い『強襲揚陸艦なら』
と協同で計画を立案。
だがその計画は2017年1月にアメリカ合衆国で共和党のミッキーカードが大統領に就任した事で、大幅に変更を余儀なくされた。
カード大統領は強襲揚陸艦だけで無く、空母としての能力を重視して建造させるべきだとして計画を変更させた。
そしてアメリカ級強襲揚陸艦をベースとしてLHDとしての能力を大幅に与え、更に強襲揚陸艦以上の航空機運用能力を与える事に決定された。海上自衛隊の規模や防衛予算の観点から1隻を多機能とする事で限られた予算を最大限に活用することが基本とされた。
だがその結果秋津洲は航空機搭載型護衛艦と言いながら、満載排水量81000トン、全長300メートルと言う海上自衛隊史上最大の艦船となったのである。その為アメリカ級強襲揚陸艦をベースとしたと言いながら、ニミッツ級原子力空母を一回り小さくした見た目に強襲揚陸艦機能を加えた、と言った方が端的で解りやすい説明である。甲板は効率性を高める為に、アングルドデッキにし甲板自体もニミッツ級等と同じく艦幅を超えてはみ出している。強襲揚陸艦としての能力も高く1個水陸機動大隊を収容。水陸機動団から1個大隊を引き抜いて、秋津洲専用として収容された。更に戦車7輌、水陸両用車30輌、トラック等支援車輌90輌、榴弾砲12門、LCAC3隻を収容。航空運用機能はそれこそ正規空母並みでありF-35JCを55機、V-22Jを20機、AH-1ZJを10機、E-2Cを5機搭載。最大限に欲張った艦となってしまった。その為秋津洲は著しく対潜能力が欠如し、それは艦隊の他の護衛艦や『いずも』の対潜ヘリコプターに任せる事となったのである。
建造費5800億円、艦載機や収容車輌等全て合わせて1兆円を超える予算が投入され完成したDDV-1秋津洲。日本政府と防衛省は後3隻を建造し、残る第2~4護衛隊群への配備を計画している。
「面白くなるわね。」
小嶋咲良艦長は小さく呟くと、うっすらと笑みを浮かべた。