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 第13話 「命の対価」

 父ブッハルトとその娘ホルダはとにもかくにもモスキアまでの16日間の旅を全うした。

 途中、乗り合い馬車の中の乗客に何度も咎められながら。

 泣き喚くホルダを誤魔化し誤魔化し、乗客たちに気を遣い、謝り続け、少ない路銀を節約しながらも、馬車を放り出されることもなく、何とかモスキアのケイラン商会本店へと辿り着いた。


 「ホルダ、具合は大丈夫か?」


 「さむい……」


 途中、ホルダが体調を崩しダウンした。

 旅の疲れから来る体調不良だ。

 ホルダの年齢を考えれば無理もない。

 ブッハルトと同じくモスキアへ向かう乗客は、熱を出し、静かになったホルダに一安心した。

 モスキアへの道中、グズったり騒いだりするホルダに悩まされずに済むからだ。


 彼らとて人の親であり、かつては子供だったのだ。荷台で揺られ続ける旅が辛いことくらいは理解はできる。だから強くは言えない。父であるブッハルトの気持ちも分かるからだ。

 ゆえに、ダウンしたホルダを気遣いつつも、内心、ホッとしたのだ。


 それはブッハルトとて例外ではない。

 父ブッハルトですら、グズるホルダを(なだ)めているよりは、汗を拭いたり、下着を変えたりしてやっていた方が遥かに気が楽であった。


 ブッハルトはわずか16日間の旅で、心身ともに疲れ果ててしまった。

 商人時代はその程度の旅、むしろ心が躍るほどであったにも関わらず。

 見慣れたはずの『ケイラン商会』の提げ看板を見た時には、思わず涙が零れそうになったほどだ。


 「そうか。今日は部屋をうんと暖かくして寝ような。ほら、この商店の裏が今日から俺たちが住む家だ。パパは昼間、ここで働くんだ」


 「ママは?」


 「ママももうすぐ来るさ。心配いらないよ」


 「うん!」



 この後、ホルダが母ミリィに再び会うことは無かった。



 ◇◆◆◆◇



 「隊長、東地区と南地区の全戸の焼却と破壊を完了しました!」


 10人ほどが整列している。

 そのうちの一人が隊長と呼ばれた男に書類を手渡す。それは戸籍簿。戸籍簿の左の欄には、全戸にチェックが入っていた。

 一戸一戸焼却し、壁を崩して周ったのだろう。

 彼らの全身は(すす)で真っ黒になっていた。


 「鎮火は確認しただろうな!?」


 「はいッ!」


 彼らはレバタン伯爵に仕える守備隊の面々。

 ブッハルト父娘がフィフス村を出た翌日、さっそく村中の建物を焼却して周っていたのだ。それも、壁や梁も崩す徹底振り。

 空き家を放置すると、盗賊や魔物が居つくことがある。

 ゴブリンなどは屋根を焼いただけでは効果がない。

 時にゴブリンは屋根の代わりに木の枝などを渡して屋根らしきものを張ることすらあるからだ。

 レバタン伯爵はその辺りの妥協は一切許さない。

 守備隊の面々にも周知徹底させた。

 

 しかし――


 「(……ここには来ない)」


 ミリィは今にも朽ち果てそうな「あばら家」でジッと息を潜めていた。

 薄暗く、ジメっとしている。

 人間が気分良く日々の生活を営むような建物ではない。

 物置小屋。

 それがここを言い当てるには適切な言葉のようだ。

 だだし、「あばら家」と言っても、朽ちそうなのは床や壁材くらいで、中心の柱や梁は意外に頑丈そうだ。数年なら北大陸の風雪にも持ちこたえるかも知れない。


 フィフス村を通るモレノ街道の東、街道側から見ると数m崖下になっている上に、周囲は木々に覆われている。それほど街道から離れているわけではないが、まず気付く者はいないだろう。

 実際に村に住んでいた村人たちでもなければ、ここに小屋があることすら知らないはずだ。

 

 コリッ


 暗い小屋の中で、ミリィはコラの実を一つ齧る。

 懐かしい味だ。

 ブッハルトと出会ってからは、めったに口することもなかった。


 ミリィの背後には、コラの実が入った大きな壷が二つ。

 そして、種芋の入った麻袋が二つ。


 ミリィはかつて父の餓死に立ち会った。

 あの時のミリィには何もなかった。

 当然、コラの実が尽き餓死するか、あるいは最低限の生命維持すら不可能になり衰弱死するか、そのどちらかであった。

 しかし、今生きている。

 あの日――生きてみようと決めたからだ。


 あの日、ミリィはノーマに出会った。


 

 ミリィには夫ブッハルトにも言っていない秘密があった。


 ミリィは全身に魔力を纏うと、それを辺りに漂わせ始めた。

 特殊な魔眼でもない限り、魔力を視認することは難しいのだが、ミリィの周囲の空気は歪んで見えた。随分と大量の魔力を放出しているらしい。元々、魔力容量も大きいのだろう。


 ミリィの体内魔力が地面に達すると、それを飲み込むように、地面から大口を開けた何か(・・)がゆっくりとせり上がってきた。

 

 異様な光景であった。

 ミリィの額に模様のような、文字のような、何やら奇妙な印が浮かび上がっていた。

 「盟約の印」と呼ばれるものである。



 「ぷふぅ~。久しぶりですね、ミリィ。相変わらず、とっても美味しい魔力ですわ。けふっ。あら、失礼」



 甲高い声音に似合わず、何ともゆったりとした雰囲気だ。

 女性っぽい雰囲気だが、彼らに雌雄はない。

 肌の色は少々浅黒いが、整った顔立ちが見る者に高貴な印象を与えている。

 身長が1mほどだという点を除けば、姿かたちは人間とそれほど変わらない。だが、それが人間でないことは一目見れば誰にでも分かる。

 

 「こちらこそお久しぶり、土の精霊ノーマ」


 「あら、ただのノーマで良いのよ。くすくす」


 『精霊族』。

 人間でも魔物でもない。

 ましてや動物でも昆虫でもない。

 別の「界」の存在。

 精霊「族」と言って良いのかさえ良く分かっていない。


 どこにでもいるが、どこにもいない。

 その生態はほとんどが不明。

 分かっているのは、精霊が好む場所が確かにあり、そこでは出現率が一気に上がるということ。

 ただし、その条件が不明な為、何を理由に出現するのかも分からない。浮遊魔力の多寡とは関係がない。魔力溜まりや迷宮に限って出現するというわけでもなかった。


 人族の前に出現することがほとんどない為、人族の間では精霊の存在すら知らない者も多い。


 精霊族には大きく三形態――


 (1)精霊王(水、火、土、風、光、闇)=契約可能

 (2)外形のはっきりした精霊=契約可能

 (3)半透明の浮遊精霊=契約不可


 ――があるとされる。


 半透明の精霊とはコミュニケーションが取れない為、契約も不可。その為、ノーマの場合、(1)か(2)。

 精霊王は属性ごとに一体しか存在せず、普段は精霊界(アラトとは別の界)におり、アラトに出現することはほどんどない。過去、アラトにおいて公式に人間と契約関係にあったとされているのは、水の精霊王と光の精霊王の二体のみ。


 よって、ノーマは(2)の人間との契約が可能な、一般的な精霊と考えられる。

 

 ちなみに、精霊を任意に呼び出すには、エルフ族の種族特性スキル『精霊召喚』しかない。ただし、一度契約してしまえば、その限りではない。

 先の気安い会話から分かる通り、ミリィは既に契約済みである。

 彼らは魔力を必要としている。しかし、体外魔力を直接吸収することは出来ない。そこで、人間が放出する体内魔力を吸収するわけだ。それが人間と契約を交わす最も大きな理由。


 補記するなら、人間とは精霊と契約可能な人族、エルフ族、獣人族、ドワーフ族などを指す。魔物はもちろん、魔核を体内に持つ魔族とも契約出来ないと言われている。



 「あなたが私を呼び出す時は、いつも追い詰められてるのね。くすくす」


 「追い詰められてる……か。確かにそうね」


 ミリィはことのあらましをノーマに説明した。

 ミリィは土の精霊ノーマに土壌の改良を頼もうとでも言うのだろうか。

 なるほど、土の精霊ならミリィが希望する結果を出せるかも知れない。


 「ふぅ~ん。あら本当。この辺りは地力が衰えているみたい。それとその芋、臭いわねぇ」


 ミリィの足元の桶には5~6個の「老種病」に冒された芋が入っていた。

 臭いのは腐っているからだ。

 精霊も鼻は利くらしい。


 「あぁ……良かった……。だったら大丈夫ね」


 察しが良いのは助かる。

 説明が楽だからだ。

 土の精霊ノーマは一帯の土壌が良い状態ではないことをすぐに感じ取ったらしい。


 「何が?」


 「え? だから、土壌の改良をお願いしたいのよ。普通に植えても、腐っちゃうだけだから」


 「くすくす。地力が衰えていることと、その芋が病気なことは関係ないわ」


 芋が病気になったのは、地力が衰えたことが原因だろう。

 だったら、衰えた地力を回復させれば良い。

 地力を回復させるとなれば、時間も労力も必要だ。人間にとっては大変だが、土の精霊にとっては簡単、そういう話ではないのか?


 「そもそも、その芋、本当に病気なの? 私にはただ土に還ろうとしているだけのように見えるけど」


 「どういうこと?」


 ノーマが言っていることは理解に苦しむが、一々説明してくれるのは有り難い。原因の究明は問題解決の近道だからだ。


 「多分、その芋、寿命なのよ。あなただって死ねば土に還るでしょ? それと同じ」


 「???」


 寿命だから、病気も放っておけと?

 腐るに任せておけと?


 「くすくす。今日はケチなのね。もっと魔力をくれないのかしら?」


 「あ、ごめんなさい。つまり、この芋は寿命だから、これ以上生かすことは出来ないってこと?」


 ミリィはすぐに体内魔力を魔術に変換することなく、体外に放出する。


 「出来ないこともないわ。不死化させれば良い。お奨めはしないけど」


 「不死化って……植物のアンデッド……。まっ、魔物でもない植物をどうやってアンデッド化させるの?」


 「くすくす。不死化と魔物は関係ないわよ。くすくす」


 「……ごめん。全然意味が分からない」


 ミリィとしては自分が馬鹿だとは信じたくないところだが、どうにもノーマの説明が頭に入ってこない。

 アンデッドは魔物ではないということなのだろうか?


 人が死ぬ。

 その時、周囲の環境などによって、たまたま魔力が霧散せずに体内に残留したまま魔核化する。すると、死んだ者がアンデッドとして蘇る。

 正確には蘇るわけではないが、まぁ、そういうことである。

 「不死化」とはそういうことではないのか?

 有名なところではトレントなど植物の魔物もいるにはいるが、トレントは不死ではない。



 「……あら、こちらこそごめん。良く見たらこの芋、とっくの昔に不死化しちゃってるわ。やっぱり、病気じゃないみたい」



 「えええ??? どういうこと?」


 植物にとって、腐るということは死ぬことと同義のはずだ。

 そういう病気だろう。

 ミリィの常識に照らせば、それ以外の考えが浮かばない。

 分解や酵素などといった概念はアラトには存在しない。しかし、それでも芋が腐って土に還れば、その芋は常識的に考えてもう死んでいるだろう。


 「命を逆に見ていけば良いのよ。あなたが今生きているということは、お父さんがいたわけでしょ? お父さんがいたということは、お爺ちゃんがいたということ。ず~っと遡ってみてよ。命が繋がっている限り、それは不死と同じでしょ」


 「言ってることは分からないでもないけど、それと芋の病気が何の関係があるのか分からない」


 「芋の病気――病気じゃないんだけど、まぁ、病気だとして、その病気は多分、何にでもうつるわよ。他の植物にも、動物にも、魔物にも、人間にも」


 「……人間……にも?」


 「くすくす。人間だけ例外なんてあり得ないでしょ」


 「例えば――、例えば、もしこの世から芋が無くなったとしても、この病気は残るっていうの?」


 「残るわよ。病気じゃないけど。そういう存在なの。芋自体はただの器にすぎないのよ」


 「じゃぁ、アラトから植物も魔物も人間も全部いなくなる日まで、この病気は無くならないと?」


 「そうなったら、その『病気』も生きていけないじゃない。だから、そこまでは拡がらないわ。適度に拡がったら、あとは色んな動植物に命を繋ぎながら生き残るのよ」


 「……もしかしてこの病気、大昔からこの世(アラト)にあったりする?」


 「くすくす。そりゃそうよ。ここの芋が最初のわけがないじゃない。くすくす」

 

 それはフィフス村を襲った「老種病」が他所から来たということ。

 ミリィは暗澹たる気分になる。

 ミリィ一人がどう頑張ったところで、「老種病」の根絶は不可能だと言われたのと同義だからだ。

 ただし、ミリィの目的は最初から病気の根絶ではない。

 

 「もしかしてミリィ、あなた私に芋の『病気』を治して欲しかったの? やっと『精霊魔術』を使う気になったかと思えば、そんなこと? くすくす」


 ミリィの目的は、病気に罹らない種を生み出すことだ。

 

 ミリィはノーマと契約後、一度も『精霊魔術』を使ったことがなかった。

 死にかけながらモスキアまでの道程を歩き通した時ですら。

 『精霊魔術』はどうしても自分一人では解決出来ない問題が発生した時まで取っておこうと考えたからだ。


 つまり、今がその時だ。


 ミリィは寂しい時や悩んだ時に話し相手になってくれるだけで十分であった。

 生きる希望が湧いたから。

 だからこそ、未来を求めて、一路モスキアに向かった。

 そして、確かにミリィの世界は拡がった。

 ミリィは『精霊魔術』を行使したくて契約したわけではなかった。

 未来に向かって、力強く踏み出したかったから契約したのだ。


 「……違うわ。あなたには土壌を改良し、肥えさせて、新しい芋を生み出して欲しいの」


 「私たち精霊は『命』を新しく作ることは出来ない。ただ、芋の成長を促し、世代交代を早めることは出来るわね。だって、土の精霊ってそういうものでしょ? くすくす」


 土の精霊がどういう存在かなど、誰も知らない。

 過去、ノーマとは別の土の精霊が契約者に何か言ったとして、それが正しい保証などこにもない。


 「そう。それで良いの」


 それで十分である。

 世代交代を繰り返す中で、種は生き残る為に、勝手に環境に適応するはずだ。

 『命』はそういう風に出来ている。


 ここで一つ疑問がある。

 彼女はそれらの知識をどこで得たのか。


 「あら、でもあなた、契約した頃ほどじゃないにしても、随分と痩せてない? 身体は大丈夫? 体力も無さそう。過去の同属の知識を貪りすぎるのは身体に毒よ。くすくす」


 エルフ族の種族特性スキル『大樹の記憶』。

 世界樹のレプリカ、『精霊の宿る木(青樹)』にエルフ族の記憶をとどめ、またそれを引き出すスキル。

 

 元々、ミリィの父がフィフス村の中心から離れた山の麓に居を構えたのは、そこに『精霊の宿る木』が生えていたからだ。

 青樹は勝手に生えるものではないので、かつてエルフ族の誰かが植えたということ。

 しかも、かなりの量の記憶が残されていた。

 ミリィの父は先人の記憶を読んだが、どういうわけか終に自らの記憶を残すことはしなかった。


 ミリィも『大樹の記憶』を読んだ。 

 大樹には様々な記憶があった。

 エルフ族が生きて死ぬまでの記憶。

 彼らが何を考え、何を為し、何を為さなかったか。


 ここフィフス村は、かつて「大災害」によって中央大陸から移り住んだエルフ族が拓いた村であった。

 やがて、復興景気も落ち着いた頃、フィフス村にも人族の数が増えてきた。

 長い時間――しかし、エルフ族にとっては一世代で足りる時間の中で――エルフ族は次第に村の外れに追いやられていってしまう。


 何も、人族と衝突したわけではない。

 差別や排斥運動があったわけでもない。

 エルフ族も別に何かしらの被害を受けて移り住んだわけではなかった。

 ただ、生活のリズム、生きるペース、それらが人族とは違ったのだ。


 「問題ない。種芋は200個ほどある。これを一つずつ、世代交代させてって欲しい。腐っても構わない。腐らない芋が生まれるまでやる」

 

 エルフ族にとっては短い時間の間に、命を燃やし尽くすように生を謳歌する人族の姿は、どこか現実離れしたもののように感じられた。

 ただそこで人族が生きているだけで、エルフ族にとっては眩しすぎたのだ。 


 ミリィは父が記憶を残さなかった理由を知った。


 父は「負けた」のだと。



 「死ぬわよ」



 「魔力欠乏なら我慢出来る。回復したら、それをまた繰り返すのみ。私は新しい芋が生まれるまで続けるつもりよ」


 確かに「魔力欠乏」や「魔力枯渇」は心身に極めて重い症状を引き起こす。

 しかし、あくまでも重い症状であって、死ぬわけではない。

 

 単純な話である。

 体内魔力がゼロにならなければ良い。

 気絶するのは肉体の防衛本能だ。それ以上の魔力を消費しないように、心身が活動をストップするからだ。

 何のことはない、魔力枯渇まで行かないよう注意しつつ、魔力欠乏辺りで休憩を挟めば良いのだ。

 それがミリィの勝算。

 だが――



 「魔力?」



 「私の魔力を使って、土魔術を行使するのでしょ?」


 「何を言ってるの? せっかくもらった貴重な体内魔力を魔術ごとき(・・・)に私たち精霊が使うわけがないじゃない。くすくす」


 「?」


 「私たち精霊は『命』を司る種族よ。『精霊魔術』に使うのはMPじゃないわ。『命』に決まってるじゃない。くすくす」


 「い、のち……?」


 そんなことは初めて聞いた。


 「そう。あなたの『命』を使うのよ。精霊は契約者の『命』を削って、魔術に変換させるの」


 「……」


 ミリィの勝算が風に晒された砂の器のように崩れ去った。

 だが、ミリィは『ステータス』に表示される項目を思い出す。

 ミリィの『ステータス』に表示される項目はMPだけではない。もう一つ、それっぽい(・・・・・)項目がある。


 「まさか、時間が経てば勝手に回復する体内魔力で、私たち精霊を使役できると思ってたの? 随分とおめでたいのね。くすくす」


 「ようは、HPを使って魔術を使うということね。同じことよ。私はそれで構わない」



 「くすくす。あなた、馬鹿ね。HPだって、時間が経てば回復するじゃない。何度言えば分かるの? 使うのは『命』そのものよ。あなたの血肉を使うの」



 ミリィは目の前が真っ暗になるような思いであった。

 手にしていた種芋がゴトリとあばら家の床に落ちる。

 頭の中では、ノーマが言った「死ぬわよ」という言葉がぐるぐると回っていた。

 

 少女のような、少年のような、わずか1mほどの身長の土の精霊ノーマがくすくすと笑っている。

 心から楽しそうに。


 精霊は人間にとって優しい存在ではない。

 味方でもなければ、聖なる存在でもない。

 むしろ逆。

 イタズラ好きで、性悪で、気まぐれで――しかし、理由は明らかである。

 

 なぜなら、精霊は人間が想像上で作り上げた都合の良い架空の存在ではないからだ。

 現実(アラト)に存在する、異界(精霊界)の存在である。

 精霊は精霊の、人間とは全く違う行動原理に従って生きているに過ぎないのだ。

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