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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

十字架

作者: 片桐渚

 真夜中、雨がほとんど降らない乾燥した山の頂上付近で二人の騎士がモンスターと対峙していた。

「こいつで間違いないな」

 スラリとした長身の若い男性――セシルが確かめるようにして呟く。

「そう、だね……」

 それに答えるのはリオンという、まだ少年のようなあどけなさが残る小柄の若い男性だ。

 二人が相対しているのは死霊科ヒト型属パペット。

 死霊科は死者の魂が悪霊化したモンスターを総称したもので、その中でも上位種は人型をしており、高度な黒魔法を使いこなす。

 しかし、目の前のパペットと名付けられた敵は、生者を操る能力をも持った新種という噂が国中に流れ、国民を震撼させた。

 その事態の鎮静化のためにセシルとリオンが討伐へと駆り出された。

 ――もちろん、騎士達の中にそんな噂を証拠もなしに信じるものはいない。

 二人の騎士は互いに強化魔法をかけて剣を構える。その無駄のない動きは戦闘の熟練さを滲ませている。

 対して、パペットは指をタクトの様に振り、騎士の周りに大量の骸骨兵を召喚する。

「ねえ、どうする? 完全に囲まれた」

 リオンが少し焦っているように見えるが、誰が彼を責められようか? 少数対小数の戦いならば技術さえあれば勝てるだろう。だが、多勢に無勢では乱闘になった時に厳しいものがある。

「大丈夫だ。守り重視で戦えば勝機はある」

 そんなリオンにセシルは静かに話しかける。その声は、落ち着けば必ず勝てると確信していた。

「分かった。で、どうすればいいんだい?」

「まずは周りの雑魚からだ。俺が前を担当するから、後ろはリオン……お前に任せた」

「うん」

 その言葉通り、二人は襲い掛かってきた骸骨兵を一体ずつ確実に倒し、敵兵力を目に見えて削っていく。

「行ける! 勝てるよ!」

 後ろからリオンの明るい声が聞こえてくる。この声を聞くと、こちらまで気分が明るくなるようだ。

 しかし今は違った。

 原因は一つ。初めに骸骨兵を召喚して以来、何もせずに前方に立っているだけのパペットだ。

 何を考えているのか? 

 モンスターに思考能力があるのかはセシルも知らないが、目前で自分の部下が倒されているのに何もしないのを見ると、何か狙いがあるのではないかと考えてしまう。

 そんな思考をしていた時、パペットがドス黒い魔力を身に纏って手のひらをセシル達に向ける。

「これはっ!?」

 そして、セシルが背後からも同じ魔力の波動を感じて振り返るのと、リオンが驚きの声を上げたのは同時だった。

 リオンの足元に広がる黒い魔方陣。

 恐らくはかなり高度な黒魔法なのだろう。今までにセシルが見てきたどの魔方陣よりも複雑怪奇だ。

 だが、その魔方陣はリオンの足元で回ったかと思った次の瞬間には消えてしまった。

 魔法の不発。

 不発の条件は二つ。一つは術者が施行に失敗した場合。もう一つは、魔法を受けた者の魔力量が術者よりも上回っていた場合。この時は魔法が効力を示さずに消滅する。

 リオンは魔力量が豊富故によくあることだった。

 ――今回もそうなのだろう。

 セシルはリオンの足元で回った魔法陣の事は忘れ、剣を構え直して目の前の敵を倒すために集中した。

 直後。

 辺りに沼に足を踏み入れた時のような鈍い音が響く。続いて、セシルは腹部の強烈な痛みに襲われた。

 見ると後ろから剣が刺さっている。

 見間違いはありえない。綺麗な白色光沢をもったその剣は、いつも自分を支えてくれた相棒――リオンの愛剣だった。

「何故……何故なんだ!? リオン!」

 足から力が抜け、崩れ落ちそうになるのを必死に堪えて後ろを睨み、驚いた。

 後ろで自分の背中を守っていたはずの相棒の目からは光が消えて虚ろになっている。

 刺さっている剣を乱暴に引き抜かれる。

 セシルは胸から落ちる血が乾いた地面へ放射状に広がるのを見て、遅まきながらも知るのだった。

 ――生者さえも操るという噂は本当だったのだと。

 リオンが愛剣を腰の高さに構えたのを見て自分の命の終わりを悟った。

「クロスブレード」

 今までに何千回とみてきた、縦横の切り払いから中段の突きに続く、相棒が最も得意とする三連続の剣技。

 今回もまた、流れるように十字を描く。

 そして、その中央たるセシルの胸へ深々と剣が突き刺さったところでセシルの意識は途絶えた。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 慢心、思い違い、勘違い、油断大敵って奴でしょうか。 前後の物語が書かれていないので、これ以上の考察は出来ませんが、そう思いました。
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