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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しましま

 小さい頃からボーダー柄が好きだった。


 服や小物、靴やバスタオル。身の回りのものは全てボーダー柄で統一しなければ気が済まなかった。友達からは気味の悪い目で見られたこともある。ボーダー柄が原因で人間関係が悪くなったことも一度や二度ではない。しかし、だからと言ってボーダー柄を嫌いにはなれなかった。むしろ、ボーダー柄への愛が加速していった。もう自分の目に映る全ての物がボーダー柄に見えればいいとさえ思った。


 つい先日までは。


 ある日夢を見た。何もない狭い部屋に閉じ込められる夢だ。明かりはついていて恐怖は感じないが、やけに発色の良い色合いの、ボーダー柄の壁紙が貼ってあった。明かりに照らされたそのボーダー柄は私の理想の色合いと言っても過言ではなかった。しかし、あまりにも発色がよすぎるので、連続して目を開けて見ていられない。どうしてもそのボーダー柄を見たいわたしは、どうせ夢の中なのだからと目がどうなろうが御構い無しに壁紙を見る決心をした。


 しっかりと目を開け、そのボーダー柄を見る。


 その途端、ひどく目が痛んだ。光にやられて目がくらんだのだと思った。しかし、目の奥から熱く眼球を押しつぶすような痛みが増していく。ついには夢の中で気を失ってしまうのだった。



 翌朝、目が覚めて昨日の夢のことを思い出す。もう目には痛みはなかった。ホッと胸を撫で下ろし、夢の中で見た理想のボーダー柄を思い出しながら余韻に浸っていた。しかし久しぶりの休日であることを思い出した私は、このまま一日をベッドで過ごすのは惜しいと思い、出かける支度を始めた。



 異変に気付いたのは家の前で人とすれ違った時だった。



 なんの変哲もない、ごく自然な出来事。おはようございます、と朝の挨拶を言いかけた瞬間、私は息を呑んだ。


 挨拶をした相手、どこにでもいる普通の主婦であろうその女性の顔が、ボーダー柄になっていたのだ。いや、ボーダー柄と言うより『しましま』と言った表現が正しいのだろうか。


 その女性の顔は、皮膚がある部分、皮膚を綺麗に削ぎ落としたら見えるであろう肉の部分が、交互に『しましま』になっていたのだ。声が出なかった。驚きの表情を浮かべる私の顔を見て、その主婦は怪訝な顔をし、去っていった。


 どうにか人の顔を見て驚きの表情をしてしまったことを弁解しなくては、と心の奥底では思っていた。が、その時私が考えていたことを主婦が知ったら、その主婦の行動もあながち間違ってはいないだろう。


 そう、私は『しましま』になった主婦の顔を、美しい、と思っていたのだ。


 こんなに美しい模様は今までに見たことがない。昨日の夢のボーダー柄などあの『しましま』に比べれば遠く及ばないどころか、足元にも及ばない。神様はなんと言うプレゼントを私に授けてくれたのだろうか。その日から私は、以前にも増してボーダー柄が好きになった。



 人の顔が『しましま』に見えるようになって半年が経過する。わかったことが幾つかあった。


 一つ目、『しましま』に見えるのは人の皮膚の部分だけであるということ。


 二つ目、だんだんと『しましま』に見えなくなってきているということ。


 三つ目、男よりも女の体の方がキレイに『しましま』に見えるということ。


 私はこの半年間、女の体に現れる『しましま』を見るため様々な行動にでた。最初、銭湯などの風呂を覗いて『しましま』を見ようと試みたがさすがに無理だった。次に私が考えたのは、風俗店へ行ってずっと女に裸のままでいてもらうことであった。これは一番良い方法だったが、いかんせん金がもたなかった。


 結局私が行き着いた先は、彼女を作り毎晩ベッドの上で行為に及ぶフリをしてその体の『しましま』を眺めることだった。彼女を作るのは簡単なことであった。『しましま』を見たいと言う気持ちが私を突き動かし、好きでもない女をたやすく落とした。


 ベッドの中見る女の体は美しかった。皮膚のある面と発色の良い真っ赤な肉の面が女を覆い、それが緩やかな丸みのある女のボディラインにそって曲線を描いていた。くねくねと動く女の体に合わせて、その『しましま』も動く。美的で性的な興奮を感じずにはいられなかった。人生の中で一番幸福な時間を過ごせた。



 そう、昨日までは。



 今朝、ベッドで目を覚まし隣に寝ている女の顔を見ると、『しましま』がなくなっていた。私は絶望に落ちた。ごおお、と落胆する心の音が聞こえるようだった。涙が止まらない。


 私があまりにも大泣きしているので、目を覚ました女はびっくりしていた。それはそうだろう。なんの理由も話さず、ただただ「しましま、が......」と言って泣き続けているのだ。何事かと思っていただろう。


 しかし私は泣いた理由を話さなかった。女に知られてはマズいと思ったからだ。女は不機嫌になり部屋を出てどこか行ってしまった。



 もう一生あの『しましま』を見ることができないのか。



 半年間『しましま』を見続けていた私には、もう『しましま』のない生活など考えられなかった。まるで麻薬のように『しましま』を欲した。そこで私は、ある考えを思い付いたのだ。



 ーーーー女に『しましま』になってもらおう




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「午後のワイドショーのお時間です。先日、閑静な住宅街にあるひときわ大きな家の一室で異様な死体が発見されました。死体は女性のもので、裸体のまま手足を固定され監禁。衰弱死した模様です。この死体が異様なのは、生きたまま皮膚をまるでボーダー柄のように剥ぎ取られ、『しましま』になっているところでしょう」


「まあ、怖いわ。犯人は捕まったのかしら」


「そこなんですよ。この異常な監禁殺人を犯したのは死んだ女性と付き合っていたと思われる男らしいんですが、まだ逃走中とのことです」


「そうなの?異様な性癖を持っていたのね。ああ気持ち悪い。最近の若い人は何を考えてるのかわからないわ。早く捕って欲しいわね」


「そうですよね。本当に怖い。気をつけないと、今度の犠牲者はあなたかもしれませんね」










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