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6話:それぞれの見解

「どう思われますか?」


 ヴォルフェミアに連れられ謁見の間を出て行く要を見送ったあと、兵士達を退室させ広間には六人が残された。

 端を発したのは王座の近くに立っていた線の細い男。

 年相応というには少々渋い顔つきをしており、彫りの深い顔立ちと肉の少なさも相まってかなりキツめの印象を受ける。

 彼の名はアナベル=セイグラム。この国の魔術師達を代表する国家魔術師である。

 年若いながらも、国家魔術師に選ばれた彼の才能と裏打ちされた努力による魔術は多くのものが畏敬の念を抱いている。

 彼自身生まれ持つ才能と共に、それに驕ることなく積んできた努力に自負をもっていた。

 アナベルの問いかけに答えたのは王座を挟んで丁度反対に立っていた鎧に身を包む男。


「どうと言われてもな。あんなにはっきりした黒髪で黒目なんて俺は見たことがないし、そんな人間がいると聞いたこともない……そういや魔術の無い世界と言っていたな。彼が居た世界ではあれが普通の姿なのかもしれん」


 この国で知らぬ者はいないであろうガルド=エッフェンベルグ騎士団長その人だ。

 後ろになびく赤髪にガハハとでも笑いそうな豪快な雰囲気漂う人の良さそうな顔。

 彼を知らない者が見れば、人の良さそうなおっさん、というのが大抵の評価になるだろう。

 いかにも騎士といわんばかりにがっしりとした体躯とかなりの身長を持っているが、全身甲冑(フルプレート)ではなく肩と胸から腰までを覆うタイプのものなので、その鎧から突き出る腕を見れば一目でそれが生まれ持った体躯だけではなく鍛錬の賜物なのだとわかる。

 各国騎士の中でもトップクラスの能力を持ち、魔物侵攻の際にも獅子奮迅の働きで魔物を撃退してきた英雄。

 そして戦場において味方でも恐れるその鬼神めいた強さと、その赤みがかった髪を象徴するように、 いつしか国民から呼ばれるようになった名が<赤獅子>。

 要からすれば二つ名など中学生で通り過ぎたいレベルのむず痒さがあるだろうが、これは自ら名乗るものでも誰に貰うものでもなく、畏敬や尊敬や羨望、時には嫉妬をも込めて人々から自然と呼ばれるようになるものだ。

 文化の一つとして二つ名というものは存在する。

 そして国のブレインであるアナベルと、最高の剣であり盾でもあるガルドという2柱の存在は、度重なる魔族の侵攻もあり、この国に無くてはならないものだった。

 二人に同意するようにフェガロ王が口を開く。


「うむ、あれ程漆黒と呼ぶに相応しいものを見たのは久しぶりだ。ワシとて何の情報も持たずスドウ殿を見たらあの黒さでは魔族の間者ではないかと疑うだろうな。容姿のことはさておき、能力はどう見る?」


 王の問いかけに二人の重鎮はそれぞれの立場から意見を述べる。


「あまりにも情報がありません。ヴォルフ嬢の言う通りならば魔術の素質は高いと思われます。しかしご存知の通り魔術とは長年の訓練を経て習得していくもの。いくら素質が高いとしても今から訓練して一体どれほどのものになるか……はっきり申し上げましてあまり期待はできないものかと。異世界の住人に我々の常識をあてはめて考えて良いのかわかりませんが、容姿にはそれらしき傾向が見えませんでしたから」


 家系や本人の適正にもよるが、ほぼ全ての人間は何かしらの属性に適正があり、その力が強ければ強いほど容姿に色濃く表れる。

 例えばファーミリアならば青い髪と瞳に象徴されるように、水の系統に秀でている。

 生活に用いるような基本の魔術ならば誰しも使うことが出来るが、属性の深部に至る複雑なものや大規模な魔術になると、その適性がなければ習得するのはほぼ不可能だ。

 一般的な人ならば適正が高くとも髪に淡く色が乗る程度だが、遺伝や生まれ持った素質が高い場合は目に見えて色がはっきりと表出する。

 基本的に親の属性を加味した者が生まれやすくなるので、同じ属性適正をもつ者同士でしか婚姻を認めない者もいる程だ。

 一部ではそれほどに属性と適正は重要視される。

 つまりある程度の実力を持つ者ならば、おおよその力量や得意な属性は一目でわかるようになっているのだ。

 そのような世界で、彼らが折に触れては要の容姿を気にするのは当たり前の流れだろう。

 アナベルに続けてガルドが意見を述べた。


「騎士としては、見てわかるようにあまり体躯に恵まれているとはいえません。鍛えているような体には見えませんし、男としては少々小柄すぎる。顔つきも良く言えば人懐っこい、悪く言えばしまりが無いといったところですが、おそらくあれはあまり諍いの無い所で育ってきたからでしょう。故に本格的な戦いの経験はおそらく無いと推察致します。しかし立ち方や動きに形式のようなものをみてとれましたので何かしらの武術か作法の経験は積んでいるものかと」

「ふむ。情報が無いこの状況ではそんなところか。見た目だけで判断するのは早計だがあまり期待はできぬか……」


 幾度か言葉を交わしただけではその程度しかわからないのも仕方ないだろう。

 結果、能力にはあまり期待しないという結論でまとまりそうだった。

 そこで今まで三人の会話を聞くに徹していた者が口を開く。


「お言葉ですがフェガロ様」

「どうしたマーリア」

「彼の者が召喚された場所はあまりにも不自然ではありませんか?」

「それにはワシも驚いたがな。魔法陣を改変したのは事実だがどのような形式であれ、通常ならば魔法陣の上に出るはずの召喚対象が出なかったのだ。失敗したかと流石のワシも肝を冷やした」

「お言葉ながら……私はやはり"森"に許可なき者が立ち入ったことを信じられません。召喚は失敗しており、他国や魔族の間者がなりすましているという可能性も否定できません」


 マーリアの言葉は王の召喚が失敗したのではないかと追求するようにも聞こえるものだ。

 横からアナベルが怒気を含んだ声をあげた。


「言葉が過ぎるぞマーリア。あれは魔法陣の改変から起動まで全て極秘で行われたのだ。そう易々と知られるものではない」

「良い、アナベル。情報が不足する中でマーリアの心配も尤もだ。だが、ならばマーリアお前ならどうする」

「はい。本当にこの世界のことを知らないならば、生活に色々な齟齬があるはず。魔術やこの世界のことを教えながら暫くは動向を監視するのがよろしいかと。怪しい動きをみせたならばその場で殺すことも厭わず、です」

「ふむ……いささか行き過ぎな気もするが、一案ではあるな」


 勝手に召喚しておいて怪しければ殺す。

 なんともな言い分だが彼らの立場を考えれば考慮に値する判断だった。

 現状、要の実力は不明。本当に召喚者なのか素性すら不明。

 魔族との小競り合いや周辺の魔物の凶暴化、更には他国からの外圧などに対応をおわれている状況で、これ以上懸念事項を増やすのは得策ではない。

 しかし、同意してみせてはいるがフェガロ王は殺すつもりなど微塵も無かった。

 国の為とはいえ無関係の人間を巻き込んだのは事実だからだ。

 王といえど人の子だ。国の為、と一見冷血と思えるような判断を下すとしても個人で言えば若者の将来を奪った事に心を痛めていた。

 国王という立場にありながら、一個人を尊重する扱いに国民からの支持が高いのも頷ける。

 だが不確定要素を多く孕んだ要を危険視しているのもまた事実だった。

 そこに一石を投じたのはファーミリア。


「お待ちくださいお父様。(わたくし)はカナメ様を信じます」

「どうしたというのだファミィ」

「ファーミリア様?」


 フェガロ王マーリアは珍しいものを見たという顔。

 ガルドとアナベルもファーミリアが口を出してきたことに少なからず驚きを感じているようだった。

 王女という立場から、王族として話し合いの場に立ち会うことは少なくないが、普段のファーミリアならば決して口を挟まず議論を聞くだけ。

 半分お飾りのような状態だったからだ。


「私はあの方が倒れているところを診た際に、魔力を視ております」


 特に水の属性に秀でているファーミリアは触れた相手の魔力を量ることができる。

 言葉として表現するのは難しいが、魔力を水として例えるとだ。

 魔力という水の入ったタンクに自分の持つ水を垂らし、その広がり方や返す"波"の波紋をとらえ、おおよその容量と力を知ることができるというものだ。

 これは波紋の大きさ、広がり方、垂らす自身の魔力を調節し、正確にとらえられなければ意味が無い。

 相手の魔力や体に直接干渉するのは水の属性にしかできないが、これは更に属性が強く発現している者にしかできない芸当だ。

 ラースベストにもRPGのような回復魔術が存在するが、この魔術を使えるのは水の属性に秀でている者。

 要が起きた際に怪我を見つけられなかったのは、ファーミリアが既に魔術で治療していたからだった。


 アナベルは少々不服そうな表情でファーミリアに問いかけた。


「何故それを先ほど教えて頂けなかったのですか?」

「先ほど仰っていたではありませんか。魔術は習得に時間がかかる、と。それに私の見立てではカナメ様はおそらく本当に魔術を使ったことがありません。あの"質"では魔術を使うことはできないと思われます」


 アナベルの問いかけを一蹴したファーミリアは言葉を続ける。


「あのような魔力を私は視たことがありません。なんと言えば良いのか……そうですね、魔力自体が身を守るかのような、とても硬質なものでした」

「魔力が身を守る?魔力とはその名の通り魔術を使うための力です。防御魔術を使うというならともかく、魔力が身を守るというのは表現として不適当だと思いますが」

「えぇ、わかっております。ですがそうとしか表現のしようがありません」


 魔力とは水のようなものだ。

 視覚的に見ることのできるものではないが、多くの者が魔力は体内にある魔術を使うための燃料のようなものだと意識して使っている。

 つまりそれ自体は意識を持たず、ただの物質でしかない。それが身を守っているというのだからアナベルの疑問も最もだろう。


「ふむ……」

「結論を申し上げますと、私では魔力の質を判断するのが限界でした。硬質すぎて反応が微細すぎるのです。言うなれば岩に水を垂らすがごとく、です」

「それでは判断材料になりません」

「そうですね。ですが魔術を使ったことが無いのは事実かと。あのような魔力では魔術を使うのは難しいと思われます。そんな者をわざわざ間者として送り込むでしょうか」

「魔力の質はともかく、現状他国からこのような時機に間者を仕向けられる可能性は低いでしょうな。ではとりあえずそちらは置いておきましょう」

「なぁ、ちょっといいか?」


 話が一応のまとまりをみせたところで問いかけてきたのは、今の会話に疑問を持ったガルドだった。

 右掌を軽く顔の横まで上げて軽く主張し、異論が無いことを確認すると言葉を続ける。


「ヴォルフは魔力を感知していなかったのか? あいつがそんなミスを犯すとは思えんのだが」

「私も同じ疑問を抱いておりましたな。ファーミリア様程ではないとはいえ、彼女の感知能力ならば見誤るということはないでしょうに」

「それにはワシが答えよう。お前達は少々勘違いしている、ヴォルフの能力は純粋な魔力総量を感じ取るというものだ。質がどうかまではわからんのだ。そもそも我々の常識から言えば、魔力の質など水準の違いこそあれど皆似たり寄ったりではないか。硬質な魔力などワシはきいたことが無いぞ。それに"向こう"で感知した時は魔力もかなり高かったそうだぞ? 我々と比べても格別な程な。ヴォルフが見誤ったか、ファミィの間違いか……もしくは全く別の可能性ということもある」

「ふむ……」

「むう……」


 二人の勘違いは正されたが、疑問に対する解答は得られなかった。

 議論を重ねれば重ねるほど問題点やわからない点ばかりが増え、どういった方向で扱えば良いのか図りかねている。

 各々が思考を巡らせる中、幾許かの沈黙が流れ、フェガロ王を皮切りに一つの結論を出すに至る。


「どういうことなのだろうな。まぁ様子見とするにしても、こちらに気をもたせておくほうが良いだろう」

「お父様。その役目、私にお任せください」

「お待ちくださいファーミリア様、貴方の身に何かあっては困るのです」


 王女自らの申し出にアナベルが苦言を呈する。

 先ほどの議論から不明点はまだまだ増える一方だ。

 危険の可能性がある以上、重要人物を近づけるのは得策ではない。

 それに彼女は王女。直々に監視の役目につく必要はないはずだ。


「大丈夫よアナベル。行動は城内だけにしますし、先ほども言ったようにカナメ様は魔術を使ったことがありません。それに私ならば魔力の変化も調べることができます」


 いつになく強気なファーミリアに二の句が告げなくなる他の者達。

 数拍の間をおいた時、はぁとため息と共にフェガロ王が口を開いた。


「そこまで言うならば、ファミィ。彼の目付け役はお前に頼む。しかし大事な身だ、決して無理はするな」

「……承知致しました」


 優雅に一礼し笑みを浮かべる。

 誰もが魅了されそうな優しさと知性溢れるその表情に少しの陰りがあるのは気のせいか。


「今日のところはこれまでにしておこう。後日入った情報をまとめ、改めて議論を行うとする」


 フェガロ王が終結を宣言し、全員がそれに頷き会議は終わりを迎えた。

 それぞれの仕事に戻るべく皆が退室していくのをフェガロ王は暗澹たる表情で見送った。



◇◇◇◇◇





 残されたフェガロ王は王座に腰掛けたまま、皆が出て行った扉を眺め続けた。

 その表情からは疲れの色が感じ取れる。


「ふぅ……皆バナジールの為を思ってのことなのだろうが、少々過敏すぎるな」


 一人になったフェガロ王は先ほどの者達に見られたらまず(たしな)められたであろうため息をついた。

 全員の素直な意見を聞くために自身はあまり口を開かなかったのだが、どうやらファーミリア以外は要のことをあまりよく思っていないらしい。

 これから国の防衛などにその知識や魔術を貸して欲しいと思っていただけに、彼らが感じている溝は由々しき問題だ。


 先んじてフェガロ王は"向こう"に送ったヴォルフェミアより、内々に話を聞いていた。

 こちらより使者を送った理由は相手を見定めるという意味もあったが、その者が住む世界の文化や技術レベルを知りたかったためだ。

 異世界の文明や知識を取り入れることができれば国としての繁栄や何かとちょっかいをかけてくる他国や魔族侵攻に対抗する手段があるかもしれないと思ったのだ。

 話を聞いて素直に感じたこと。それは魔術こそ無いようだがそれを補うどころか、むしろそれを引いても余りある程の文明レベルということだった。

 計算された作りで立ち並ぶ建物、全てが綺麗に舗装された道、人を運ぶ乗り物らしい馬車などより高速で動く箱、あまり滞在できなかったが、その短期間で見たものですらどれもラースベストには無く、直接見ていないフェガロ王ですら自分達から見れば遥かな高みにあるものなのだと感じていた。

 そのような世界であの少年――に見えるだけでとっくに成人はしているのだが――は過ごしていたのかと。

見たところ彼はこちらに敵意や害意を持っていない。ならばできる限りこちらに好意を持ってもらうのが得策だ。

 フェガロ王は気づいていなかった。自身が既に要を抱き込もうとするのではなく、上位者に対するような気遣いを見せていることに。

 世界の行方を左右するかもしれない大事になっているとは要が知るはずもない。


「まずは彼に余計なちょっかいを出さぬように釘をさしておかねばなるまい」


 密かな決意を胸にしながら王座から立ち上がったフェガロ王。

 広間に立ち並ぶうちの一柱に視線を向けると、響き渡るような少々大きめの声で大仰に独り言(・・・)を口にした。


「カナメ=スドウ殿にはラースベスト、いやバナジールを気に入っていただきたいものだ。こちらでの結婚相手でも見つけてくれれば尚良いのだがな」


 視線を前に戻すとそのまま広間を出て行く。

 静けさが訪れ人気(ひとけ)がなくなったのを確認し、柱の影で様子を伺っていた人物は笑みを浮かべていた。


「カナメ=スドウ……んふふ、面白そう」


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