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4話:召喚者

 扉の無くなった"穴"を潜ると、その先には豪奢でありながらも、決して嫌味の無い統一感のある部屋に出た。

 豪奢であり静謐。部屋の至る所に施された調度品などの、小物一つにいたるまで、全てが(まと)まり、一つであるかのような。

 そんな感想を抱く部屋だった。

 一般庶民の生活を送ってきた要の目から見ても、価値がわからずともその異常なまでの統一感を感じ取っていた。


「トンネルを抜けると、そこは異世界だった……みたいな」


 ただでさえ今しがたここが異世界なんだろう、と結論付けたのに、その先に異常とさえ思えるような素晴らしい統一感を醸し出す部屋に出たのだ。

 こうまで現実離れしてると驚きすら湧いてこないな、と先ほどの自身の状況を鑑みて自嘲気味に一人ごちる。


「ここは私の部屋なのです。森へはここを通らずに行くことはできません」


 彼女は自分のことを王女だと言った。

 つまり、王女である彼女の部屋ならば、そもそも入り口のあるこの部屋にすら、立ち入ることの出来る人間は殆どいないということだろう。


(ここまで何度も強調するってことはあの森にいたってことは相当にイレギュラーなんだろうな。しかし俺にマズい事をしたって感覚が無い分、なんだかよくわからない理由で怒られてるような気がしてくるのはなんとも)


 さながら推理小説で自分のトリックを順々に暴かれて追い込まれている犯人の気分だ。自分が犯人じゃないのに。


 先ほどからの内容からして、自分の旗色はかなり悪いだろうと判断する。

 立ち入りの条件、王家の森という名称、話しぶりから判断するに、国のかなり高い機密情報である可能性が高い。

 最悪犯罪者として捕縛、極刑という可能性も否定できない。

 焦燥感に駆られる要。


「では、これより王に会っていただきます」


 マーリアより告げられる言葉。

 要にしてみれば死刑宣告だった。


「ッ……良いんですか?自分で言うのもなんですが、こんな不審人物を王に会わせても」


 その言葉の裏にあるのは時間稼ぎをしたいという思惑。

 打破できずとも、何かしらの次善策は用意しておきたいところだ。


「私の知る限り、今までの歴史の中で王家の森に侵入者が入った事例はありません。異例の事態に報告、判断を仰ぐのは当然です」

「確認するだけならば、私がいる必要はないのでは?何度も言いますが不審人物を一国の王に会わせるというのはいかがなものかと」

「最初は怪しいと判断したとはいえ、それを否定するならともかく、自分から不審人物だなどという間者がいるとは思えません。それにこれはファーミリア様の判断です」


 先ほどから二人の様子を眺めていたファーミリアは相変わらずの微笑を浮かべている。


「はぁ、そんなラフな感じでいいんですかね…別に謀ろうとか国王をどうこうしようなんて微塵も思ってませんが」


 とりあえず身の潔白を証明するためにはどうすればよいか、と考えながら渋々と答える。


「ふふっ。それでは参りましょうか」


 二人の問答に一応の結論が出たことを確認して、ファーミリアは扉の前に移動した。

 先んじて部屋を出ようとしたファーミリアが立ち止まる。

 要が来るのを待っているのかと思ったが、扉の向こうの物音から、人がいるのが感じ取れる。

 だが、こちら側に扉が開いているので誰がいるのかはわからない(そもそも誰がいたとしても要が知るはずもないが)。

 後ろからこっそり様子を伺おうとすると、ファーミリアの背中ごしに近くに人の気配を感じた。


「お父様。召喚の儀は終えられたのですか?」


 どうやら父が部屋の前にいたらしい。


 ファーミリアは王女。

 そのお父様が先――要からは丁度ファーミリアに隠れて見えない――にいる。

 王女のお父さん。イコール国王。


(いきなりラスボスですか!?まだなんも思い浮かんでないっちゅーの!)


 この場で不審人物だと認められてしまえば非常にまずいことになる。

 そう考えた要は必死に思考を巡らす。


「ファミィか……うむ……」


 重圧のある声が響く。

 顔は見えずとも、声に纏う威圧感から相手はこの国の王なのだとわかる。

 しかしその声は、上に立つもの特有の威圧感だけではなく、どこか鎮痛さを含んでいるようだった。

 父の陰りを察したファーミリアが問いかける。


「何かあったのですか?」



「うむ、おまえならば良いか……。今回の魔法が特殊なものになるということは以前話したな?」

「はい。召喚魔法陣に手を加え、本来召喚から送還となる魔法を逆転し、先にこちらから使者を送り込み、選ばれた者と使者をこちらに召喚する、というものだったかと」

「その通りだ。無作為な召喚は、能力や素質の有無、召喚者の人格的な問題を孕んでいるからな。こちらから使者を送り込み、召喚魔法を起動するところまではうまくいっていた」

「……召喚魔法がうまく起動しなかった、ということですか?」

「わからぬ。魔法陣に手を加えたことが原因か、それとも召喚魔法自体の問題か、または何らかの別の原因によるものか。どちらにせよ本来魔法陣に現れるはずの召喚者は現れなかったのだ。認めたくは無いが……失敗のようだ」


 要には二人が話している内容の理解はできなかったが、知っている単語が出てきていたので凡その見当はついた。

 何かを()ぼうとして、失敗した。

 そこに含まれる重要性まではわからないが。


「申し訳……ございませんっ」


 別の女性の声が聞こえる。

 声色に乗るは忸怩たる思い。


「お前のせいではない、ヴォルフ。魔法陣の解読と書き換えを指示したのは私だ。こちらに戻る保障もなかった危険な役目を務めあげたお前が、何を気にすることがある」


 おぉー、魔法だ召喚だと大真面目に話してる。

 ゲームや小説でしかあまり使われないような現実味のない単語の数々に、蚊帳の外にいる要が抱く感想なんてそんなものだろう。



「しかし……」

「良いのだ。つまらん策を弄したりせず陣を起動すればよかったのだ。そこに手をつけたのは私の落ち度だ」

「そのようなことはありません!現に私は異世界に赴き、こうして帰還できたのです!問題があるのならば私にこそ!」

「済んでしまった事だ、過程はどうであれ召喚は失敗した……こうしていても始まらぬ。次の対抗策を考えなければならない」


 どういうことなのか詳しくはわからないが余程切羽詰った状況らしい。


(謁見は先送りになりそうな予感!先送りとはいえ、とりあえず助かったんじゃないか?)


 ファーミリアの後ろから会話だけ聞いていた要は、安堵のため息をつく。


「まずは皆に報告せねばな。これで失礼するぞ」

「はい、お父様」


 ファーミリアと扉の隙間から通り過ぎるのを確認する。こちらには気付いていなかったようだ。


(セーフ!セーフ!)


 後ろを付き従うように、先ほど謝罪していたと思われる女性が通り過ぎるのが見え――


「ッ!」


 目が合った。


「あ、貴方は!」


 声を張り上げる女性。


「あら、この方をご存知なのですか?」


 のん気に問いかけるファーミリア。

 この王女、もしかして少し天然かもしれない、なんてことを考えているうちに詰め寄られる要。


「フェガロ様!お待ちください!ここに!ここに召喚者がおります!」


「……はい?」


 疑問の声をあげる要だが、その状況を理解するのは早かった。

 先ほどの会話。魔法陣に現れるはずだった人物。召喚の失敗。


「我が国の"英雄"が!」



 不審者の汚名と極刑は免れそうだが、今度は別の意味で厄介そうだな、と複雑な心境の要だった。


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