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3話:異世界らしい

短いのでさっくりと。

 城へ案内するというファーミリアに従い、森の中を進んでいた。

 歩きながら周囲の雰囲気というか、空気の違いを感じて息を吸い込む。

 地方民である要の家の近くにもまだ木の生い茂る森と呼べるものが残っていた。

 森林浴というわけではないが、たまに山に登っては生活圏とは違う空気や景色を見るのが楽しみの一つだ。

 都会の独特の空気も嫌いではなかったが、どちらかといえば田舎の土臭い空気のほうが要は好きだった。


「空気がおいしいな……」


 自然とそんな感想が漏れる。


 道すがら助けてくれたことに再度感謝を述べつつ、いくつか疑問に思っていたことをぶつけていた。

 わかったのは、要が倒れていたのは裏路地ではなく王家の森と呼ばれるこの森の中であったこと。ファーミリアとは本名であること。いくつか地名をあげて聞いてみたが日本すら通じなかったこと。

 統合するとだ。このファーミリアという女性が嘘をついていない限り、要は日本という存在すら知られていない場所にいるということになる。


(ていうかそもそも俺が倒れてたはずの場所が日本のしかも都内なのに日本を知らないわけないよなぁ?)


 結論。此処は日本じゃない――かも。


 別の国?異世界?転移でもしましたか?……どこのラノベだよ!と自分で突っ込みをいれていたものの、それ程取り乱していない自分に驚いていた。

 冗談とはいえ友人達と、異世界に召喚されたら、なんて話で盛り上がっていたこともある。

 実感が無いというのも理由の一つだろう。

 小説でもタイムスリップ物、異世界漂流物などのファンタジーを特に好んで読んでいた要である。

 それに、もし本当にここが異世界だというのなら、多少なりともワクワクするところがあった。


 ちなみにファーミリアが要の問いに答えている間、メイドのマーリアは時折要のほうに意識を向けているのに気づいていたが、何を話しかけることもなく終始無言だった。

 表情にも動きは少なく、その瞳の奥に何を感じているかはわからないが、値踏みするかのように感じられたのは気のせいだろうか。


 貰った情報を整理しているうちに森がいくらか(ひら)けたところに出た。


「さぁ、こちらです」

「ほえー、これはまた大きい……」


 どこかのカード蒐集少女のような感嘆をあげる要。


 森を迷わず歩き続け、案内された先は巨大な白い壁の前だった。正面にはその巨大さに不釣合いな、人が一人やっと通れる程度の小さい扉が一つ。



(城っていってたのはこれか?森のすぐ隣にあって、しかもこの壁の大きさに対して小さい扉――裏口なんだろうか?)


「それではご案内します」

「…………」


 片や笑顔で迎え入れるファーミリア。

 片や不満と不信を全身に漲らせ、隠そうともしないマーリア。


(態度が違いすぎるっ)


 あまりのむき出しの敵意に辟易してしまうが、心だけに留めそれを態度には出さない。


「ありがとうございます」


 そのままファーミリアを先頭に左斜め後ろに控えるようにマーリア。

 少し離れて右斜め後ろに立つ要。


 扉の前に立ったファーミリアが掌で扉に触れた時――。


 光が溢れた。


(!?)


 触れた場所を基点に光が走り、扉に複雑な紋様を描き込んでいく。

 光が徐々に強さを増していき、眩しさに思わず掌で顔を庇う。

 何かの紋様を描き終えた光が落ち着きを取り戻したとき、そこに扉は無くなっていた。


「この扉を開く魔術は王家の者しか使うことが出来ません。そしてこの場所の存在を知るのも王家と限られた一部の者だけなのです。ご理解いただけましたか?」


「…………ッ」


 声をあげることができなかった。


(なに?魔術って言った? 手品じゃなくて? あ、掌で触ってたから指紋認証?)


 自分の状況は落ち着いて認識できた要も、未知の状況に戸惑いを隠せない。

 ほぼ確定的になっている状況を否定するかのように憶測を並べ立てる。

 そこに、今まで一言も発さなかったマーリアが口を開いた。


「つまり、意識が無かったとはいえ、本来は立ち入ることさえ不可能な場所に貴方はいたのです。その存在すら知られていない場所に」


 なるほど。マーリアの言葉で落ち着きを取り戻した要は自分の置かれた状況を悟る。

 そんな所に知らない人間が倒れていたのだから危険視するのも無理はないな、と。


 そして――。


 なんとなく理解はしていたものの納得できていなかった状況。

 いや、意識的に無視していたというほうが正しいだろう。認めたくなかったが故に。

 しかし、認めなくてはならない。

 先ほど出した結論を確信に。


 ここは――。


 日本どころか地球ですらない。異世界なんだろうと。


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