八.昨日のサスペンス劇場は人間ドラマ
三日三晩の軌跡をすべて失い、戦意喪失、自暴自棄、支離滅裂に陥っている彼。どうしてなのかは、この前のおはなしをご覧いただきたい。
そんなことなどお構いなしに、とことんマイペースで物事を進めていくあおい。彼女に慰められても、テーブルの上でひたすらうなだれる彼であった。
「いい加減、元気だしなよぉ。失ったものはもう帰ってこない、覆水盆に返らずだよ」
「・・・加害者が言う台詞じゃねーだろ、それ」
とは言ってみても、あおいの指摘通りなのもまた事実。彼は現実を受け止めて開き直ると、今度こそ、目の前にいる忌々しい小悪魔を追い出そうと奮闘する。
「もう帰ってくれ。今のオレさ、本当に一人になりたい気分だから」
「えー?またそうやって、昔みたいに、引きこもりになっちゃうつもりなの?」
誰がオレをそうさせたんだ!と、彼は心の奥底から込み上げる怒号を叫んだ。さらに、オレは過去に一度も引きこもりになったことはない!と付け足しながら。
「でも心配だなー。あたしが帰った途端、あんた、人生を苦にして自殺しちゃいそうだもん」
彼は心に思う。本当に自殺させたくなければ帰ってくれ、と。もうこれ以上、オレの人生を苦しめないでくれ、と。
あおいは少しばかり浮かない表情をしていた。少しばかり反省したのかと思いきや、彼女はそれとはまったく違う苦心について語り始める。
「あたしさ、自殺する人、つい最近見たばかりだから、とっても辛いんだー」
「おいおい、それ本当かよ?」
人に罵られ、苛められ、そして裏切られたその人は、思い悩み、苦しみ抜いた末に、自らその命を絶ったのだと、あおいは視線を落としながら寂しそうに吐露した。
悲しい出来事に感傷し、それを繰り返したくないというあおいの気持ち。彼は居たたまれなさから、彼女をここから追い出すことを止めることにした。
「・・・わかった。もう出ていけとは言わない」
ホッと胸を撫で下ろし、あおいはニッコリとした顔でお礼の言葉を口にした。そのすぐ直後、彼女は不敵に笑って、消え入りそうな声で囁く。
「昨日の夜に見た、サスペンスドラマの話なんだけどね。言ってみるもんだね、二ヒヒ」
「おまえ、やっぱり、帰れ!」