七.念のためにバックアップを
ひょんな言い逃れのおかげで、やりたくもない部屋の片付けを始めてしまった彼。そんな彼のことを手伝おうと、彼を遠目に眺めながら一人漫画本を読んでいるあおい。気付くと、時刻はあっという間にお昼近くになっていた。
「おまえさ、さっき、手伝ってくれるって言ったよな?」
「手伝ってもいいけどさー。あたしが始めると、余計に片付かなくなるよ?」
料理、洗濯、掃除がまるでできないくせに、おしとやかな女性だと言い張るあおいに、彼は蔑むような冷ややかな視線を送るのであった。
ここで彼にとって不幸が訪れてしまった。彼がテレビ台の下に隠していたテレビゲーム機があおいに見つかってしまったのだ。彼女は当然ながら、彼の了解もなくそのゲーム機を引っ張り出してくる。
「あー、このゲーム機に入ってるソフトって、今、大人気のRPGゲームじゃなーい!」
しまった!と書いたような表情で、冷や汗を吹き飛ばした彼。あおいにすぐに片付けろと訴えても、時すでに遅し。彼女はあっという間に、テレビの電源もゲーム機の電源もオンにしていた。
テレビの画面に、大人気のRPGゲームのタイトルが流れ出した。それを見るなり、あおいはワクワクと胸を躍らせながら、すぐ後ろでハラハラしている彼に問いかける。
「”RPG”の正式名称って、リアリティ・プランニング・ゲームだったっけ?」
「ロール・プレイング・ゲーム!現実を設計するゲームなんて、どこがおもしろいんだよ」
そうこうしているうちに、リアリティ・・・じゃなく、ロール・プレイング・ゲームの勇ましい音楽が部屋中に鳴り響いた。流れる映像と音楽に、あおいはたった一人で興奮の坩堝と化していた。
彼はこの時、この厚顔無恥なあおいに一言物申してやろうと意気込んだ。それは彼女のためでもあり、もちろん、これ以上犠牲になりたくない、彼自身のためでもあった。
「おい、あおい。そのままでいいから聞いてくれ。おまえのその傍若無人な振る舞い、絶対によくないと思うぞ。今から正しておかないと、これからの人生において、必ず困る時が来るから、肝に銘じておけよ」
あおいはテレビ画面に顔を向けたままだった。そして数秒後、彼女はうつむくように頭を垂らしてしまった。
「・・・ごめん」
「・・・え!?」
しおらしく、素直なままに謝罪の言葉を口にしたあおい。彼は予想もできなかったのか、唖然とした顔でその場に凍りついてしまった。
ついに、やっと、ようやく・・・!彼の胸にあった熱意が伝わったのだ。この恥知らずのあおいが諫言を受け止めてくれたことに、彼は絶大なる喜びを覚えていた。
ところがその直後、喜びを噛みしめている彼は、あおいからとんでもない破壊的な告白を聞かされる運命であった。
「・・・あんたのセーブデータ、削除しちゃった。ごめんねー」
「は。」
明るく振る舞うあおいをよそに、頭の中が真っ白になった彼。三日前から寝る時間も惜しんでゲットしたレアアイテムが、すべて木っ端微塵に砕かれた瞬間であった。
「おめー!なーんてことしてくれるんだぁぁー!!!」
画面上には空しくも、セーブデータの削除を完了したメッセージが流れ、それを嘲笑うかのようなあおいのせせら笑いが部屋中にこだました。
「ダメだよ、ゲームばかりの人生じゃ。これからは、現実を設計する人生を送らないとね♪」
「そういうオチかい!!」