五.トイレの後はチェックしよう
「さぁさぁ、感想聞かせて。原稿用紙1ページ分ぐらい」
こんなラブレター読ませて、400文字も感想述べろというのも、ほとんどイジメに近い話だ。彼は困惑めいた表情で心からそう思う。致し方なく、彼は当たり障りのない返答でこの場をやり過ごすことにした。
「まぁ、ギャグとしては秀作じゃないか。次作に期待というところだ」
「あたし、感想聞いてるんだけど。何で審査結果みたいな答えなわけ?」
彼に突っ返されたラブレターを、ほくほく顔でまじまじと眺めるあおい。
「いやー、それにしても、ここまで立派な恋文が完成すると思わなかったなぁ。これでますます、あたしの恋の成就貢献度ランキングがアップするねー」
「おまえの立派の判断基準がよくわからんな。・・・恋の成就貢献度ランキングって、誰が、どこでそんなの集計してるんだ?」
本気なのか冗談なのかわからないが、あおいがお友達のために書いたラブレター。内容はまぁ・・・どうであれ、こんな感じでラブレターを書く人など、最近はずいぶん少なくなったものだ。
「でも手紙で告白なんて、今時珍しいよな。最近じゃ、メールで告白とかが多いんじゃないかな」
「メールかぁ。それなら、直接本人に言いにくいことでも言いやすいよねー」
うんうんと頷いて、あおいは一人で納得しているようだ。すると、次の瞬間、彼女は唐突に手提げかばんから、ストラップをたくさんぶら下げた、ピンク色の携帯電話を取り出した。
いきなりの彼女の行動に、彼は何事かと慌てるように尋ねてみた。
「おいおい、どうしたんだ?」
「あ、このストラップかわいいでしょー?この前、甥っ子がくれたんだよぉ。言っておくけど、あげないからね!」
ストラップじゃなくて、携帯電話そのもののことを尋ねてるの!と、彼は苛立つように言い放った。
「あのね。ちょっと言いにくいことがあるから、彼に伝えておこうと思って、メールすることにしたの」
あおいはドキドキしながら、携帯電話を操作し始める。彼は彼で、いったい誰に、どんなメッセージを送るのだろうかと、気が気でならない様子だ。
メールを入力すること1分ほど。あおいは送信完了と声を発し、言いにくい思いを相手へと送り届けたのだった。
『ピロロ・・・ピロロ・・・』
間髪入れずに、彼の携帯電話から着信音が鳴り響いた。
彼はよっこらしょと腰を上げて、充電器に装着されている携帯電話を握り締める。そして、携帯電話の画面に目を据えると、一通のメールを着信していた。
「え、まさか・・・」
彼は後ろへと振り向き、はにかんでいるあおいのことを見つめる。彼に届けられたメールは、あおいからの言葉にできないメッセージだったのだろうか!?
心拍数を激しくしながら、ゆっくりと慎重に携帯電話を操作する彼。そして、ついに、彼は届けられたメール本文を読んでみた。
”おまぬけさんへ― ズボンのチャック開いてるよ。あおいより”
「こういうことは、直接言ってくれーー!!」