四.かわいそうなサトウくん
恋愛経験未知数、色恋事などこれまで一度も語ったことのない天然ボケのあおいに、ラブレターの代筆を頼むとは、なんという無謀なお友達であろうか。
そもそも、花より団子、色気より食い気のシンボルのようなあおいを知ってお願いしたのだろうか?そのお友達の顔が見てみたいものだ。まったくこの世の中、何が起こるかわからない・・・。
「あのさー、ぶつくさ言ってないで、早く読んでくれない?」
あまりの衝撃さに、彼は思わず独り言をつぶやいていたようだ。そのつぶやきといったら、ツイッターの文字制限を軽くオーバーしてしまうほどだ。
「しかし、おまえにラブレターなんて書けるのか?いまいち不安だけど」
「何言ってくれちゃってんの!?こーみえても、あたしは恋のキューピッドさんって、ご近所で評判なんだからね」
口を尖らせているあおいを眺めながら、どうみても、人の恋路を邪魔する悪のプチデビルのようだと、彼は心の中でそう思わずにはいられなかった。
「ほらほら、読んでみてよ。あたしの綴った、壮大なる淡い恋の叙情詩のような恋文を」
「・・・おまえ、カッコつけるのはいいけど、それ意味わかって言ってる?」
彼は急かされるように、折りたたまれていたその恋文をそっと広げてみる。そして、女の子らしい丸っこい文字で書かれた文章を読んでみた。
「ディア、サトウくん。ア、ハッピー、ニューイヤー・・・って、何で謹賀新年のあいさつ!?」
「だって、お友達の子ね、サトウくんと今年になって初めてやり取りするんだよ。当然の挨拶じゃない」
もうすっかり穏やかな陽気が続く季節の中、ラブレターの出だしに”明けましておめでとう”と謳うヤツなど、この世界にコイツだけだろうと、彼は顔色に落胆の色を映しながら続きを読んでいく。
「・・・スキです。ゾッコンです。ラブリーです。今年もよろしくお願いします・・・」
あおいの恋文は、見事にかつ綺麗なまでに、ここで途切れていた。彼は呆気に取られながら、ワクワクしているあおいの顔を見つめる。
「あの~、続きはどこにあるのかな?」
「ないよ。そこでおしまい。完璧でしょ?」
何をもって完璧なのかわからない。それらしい言葉を並べるのはいいが、文末がやっぱり新年の挨拶になってしまうと、どうにも違和感を覚える。これはどう転がしても、ラブレターではなく年賀状ではないだろうか?
「あのさ。こんなので、壮大なる淡い恋の叙情詩を書いたつもりか?」
「うん!単刀直入でしょ。恋文って、やっぱりダイレクトに直球ストレートの方が伝わりやすいのよ」
このラブレターを受け取ったサトウくんも、さぞビックリするだろう。あおいに思いの丈を託したお友達のことが、何とも哀れでならない彼なのであった。