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三十.帰っていくのは悪魔か天使か

 夜も更けた午後9時過ぎ。暗闇の外からは、窓越しに犬の遠吠えがかすかに聞こえてくる。

 テレビから流れていたバラエティー番組も終わり、何か行動を起こすには丁度いいタイミング。それは、朝からずっと知人宅に居据わっているあおいも例外ではなかった。

 朝からいきなりやってきては、知人である彼のことをバカにして、罠に陥れて、これでもかというぐらい弄んだあおい。彼にとってはた迷惑なこの一つ一つの出来事も、彼女にとってはいい暇つぶしであり、まさに至福のひと時だったであろう。

 しかし、それもいよいよ終わりの時を迎える。それはなぜか・・・?


「さーてと、あたし、そろそろ帰るねー」

「うわ、いきなりだな、おい」


 彼はまさか・・・?といった表情で驚愕している。真意を問いただすと、あおいはあっけらかんと帰る理由を打ち明ける。


「うん、ネタ切れ」

「・・・おまえはボケがなきゃ、ここにいる理由がないのか?」


 よっこいしょと重たい腰を上げるあおい。彼女はちょっぴり名残惜しそうに、彼の部屋を後にし、玄関まですたすたと歩いていく。

 玄関のドアのそばには、空いたざるそばの器がちょこんと置いてあった。あおいと彼はそれを見るなり、意味もなくクスクスとほくそ笑んでいた。

 あおいは履いてきたパンプスに足を入れて、いよいよ、真っ暗な屋外へ足を踏み出そうとするも、ふと彼の方へ振り返り、ハンドバッグから何かを取り出していた。


「コショーあるけど、いる?」

「いや、余ってるからいらない」


 彼にやんわりと断れて、あおいは残念そうな顔でコショーをバッグにしまいこんだ。彼女はその後、流し台のそばにある冷蔵庫をおもむろに指差している。


「冷蔵庫はちゃんと整理しなよー。チョコだけじゃ、あまりにも貧相だからね」

「ほっとけ!これが一人暮らしの男の冷蔵庫ってヤツなの」


 ほんのわずかの沈黙の後、あおいはフッと小さい吐息をつき、彼に背中を向けてアパートを出ていく。去り行く彼女のことを、玄関先まで足を運んで見送ろうとする彼。


「じゃあな、あおい。おやすみ」

「・・・おやすみ~」


 アパートの玄関先は、街灯の明かりがあるものの、まるで漆黒の闇のように薄暗い。その闇に溶け込むように、あおいの姿が彼の視界から消えていってしまう。

 ちょっぴりセンチメンタルな思いに、彼は黙ったまま表情を曇らせていた。彼はフーッと息を吐き出し、漆黒の闇に背を向けて、部屋の中へと帰っていくのだった。


「あー、ちょっと待ってぇ!」


 暗がりから急に舞い戻ってきたあおい。息せき切って駆けてきた彼女は、とても慌てふためいた顔をしている。

 忘れ物でもしたのか?と、彼が心配そうに尋ねてみると、あおいは息を整えて、深呼吸一つしてから戻ってきたわけを告白する。


「masa-kyの作品によく出てくる、飛龍影って何者?」

「知らねーよ。本人に直接聞け」


 そんなことのために戻ってきたのか?と、彼は呆れたような顔で聞き返す。するとあおいは、ちゃうちゃうと首を横に振って、やっと本題を打ち明ける。


「来週の日曜日も遊びに来るからよろしくねー♪」

「・・・慌てて戻ってきてまで伝えることか、それ?」


 悪びれる様子もなく、ヘラヘラと笑っているあおいは、まさに本当の闇から生まれてきたファントムか?はたまた、彼が死ぬまでまとわりつく死神か?

 悶絶うって、もう勘弁してくれぇぇぇ~と、読者の誰もが、そして作者までもがそう思ったに違いない。ところが彼は、微笑んでいるあおいを見つめて、予想外の回答をするのだった。


「・・・ああ、わかった。待ってるよ。おまえといると何となく楽しいからな」

「あり?」


 これには、傍若無人のあおいも呆気に取られていた。しかし、ここは天下無敵の彼女。ニタ~っとほくそ笑んで、彼のことをこれ見よがしに冷やかすのであった。


「そうかそうかー。やっぱり、あたしがいないとダメなんだねー」

「あのなー、言っておくが、深い意味はないぞ。ただその・・・。あーもういいや!」


 ちょっぴり照れくさそうにする彼を尻目に、あおいはポロッと小声を漏らす。


「これは呪いが成功したみたいだね~。ヒヒヒ」

「・・・何だ、その呪いって!?」


 あおいは何でもないと笑顔で首を振っていたが、呪いという物騒なフレーズに、彼は背筋が凍りつく思いがした。

 いろいろとあったが、それではまた来週お会いしましょうと声を掛け合い、気持ちよくこの日の別れを告げる二人。


「あー、帰る前にもう一つだけ!」


 あおいは何かを思い出したような声を張り上げた。いったい何事だと訝る彼に向かって、彼女は本日最後の質問をぶつける。


「このおはなしってさー。・・・コメディーだよね??」


 思わずクスッと笑ってしまう彼。そして、作者。

 作者の意図とは違うところで、彼はとても清々しく、微笑ましい表情で、そのままの気持ちで答えるのだった。


「・・・いや、こういう終わり方だと、恋愛かも知れないぞ?」


 この二人の座談会は、来週も、そして再来週も、もしかすると、永遠に続いていくのかも知れない。

 近い将来、この二人が夫婦漫才師としてテレビ界を席巻することなど、読者の皆様にはどうでもよいおはなしであった。


 読者の皆様へ―


 この「二人きりの座談会」というコメディー作品をご愛読いただいた方々に、最後のページを借りて心より厚く御礼を申し上げます。

 最後のページまで読んでくださった方、さらっとページをめくって走り読みしてくださった方、すべての方々に感謝の気持ちをお伝えいたします。


 この「二人きりの座談会」は、舞台の上に立つ二人の登場人物が、漫才のような、コントのようなシーンを展開し、読者様がいわゆるオーディエンスのような感覚で楽しめる作品を目指して作成しました。

 主人公二人が織り成す、ちょっと現実的だけど、どこか不思議な世界に、少しでも楽しいと感じていただけたなら、作者も本望、感無量でございます。

 おはなしはこれにて完結ですが、またおもしろいアイデアがあれば、別作品として新たな作品を掲載したいと思います。

 もしお気に召したら、感想やコメントなどお寄せいただければ幸いです。


 最後となりますが、ここ最近の暗いニュースや災害による辛い出来事ばかりで気が滅入る中、おもしろおかしいおはなしで、少しでも皆様の心が癒され、和むことをこれからも願っております。

 以上、感謝とお礼まで。


 ―作者masa-KYより

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