三.だけどモヤシは栄養価が高い
薫るコーヒーをすすりながら、テーブルで向かい合う彼とあおい。落ち着きのある、のんびりとした時間がゆっくりと流れていく。
「で?ここへ来た用事は?簡潔に述べてくれ」
「何よ、その聞き方はぁ?まるで、あたしが来たの、迷惑みたいじゃない」
その通りだもんと、彼は一秒にも満たない速さで返答した。それでも、嘘ばっかり~と、へらへら笑ってまったくこたえる様子を見せないあおいであった。
「用件というのは他でもない。これを見てほしくてね」
あおいは手提げかばんの中から、一枚の紙切れを取り出すと、怪訝そうな顔をする彼にそっと手渡した。
彼はそれを受け取るなり、何が書いてあるのかと尋ねると、あおいは照れくさそうに打ち明ける。
「愛の告白だよ」
「は?」
あおいの言葉に、ただただ呆然とする彼。この思ってもみない展開が理解できず、彼は紙切れを手にしながら右往左往するばかりだ。
いったん落ち着け、とくかく落ち着けと、彼は冷や汗を飛ばしつつ、あおいに”告白”を踏みとどまらせようとする。それと併せて、自分自身も冷静になろうと、スーハー、スーハーと深呼吸を繰り返していた。
「あんた、何勘違いしてんの?これ、あんた宛てのじゃないよ」
あおい曰く、この”愛の告白”とは、彼女の友人がある男性に告白したいから、ラブレターを代筆してほしいと頼まれたのだという。そこで、男性である彼に、チェックを兼ねて、感想を求めようと考えたというわけだ。
「お、おいおい、びっくりさせるなよ。思いっきり勘違いしちゃったじゃないか」
「あははは!あたしがあんたみたいなモヤシに告白するわけないじゃん」
自らに向けられた告白でなかったことに、内心ホッとする彼であったが、それと同時に、気軽にモヤシと呼んでくれるあおいに、果てしない怒りを覚える彼であった。