二十四.それはもう立派な詐欺罪
ゆったりながらも、時刻は流れに流れて、もうすぐ夕方になろうかとしている。
テーブルの上で腕組みをしながらボーっとしている彼。そして、テーブルの上で頬杖をついて目をつむっているあおい。二人とも、何をしてみようもなく、ただ無駄な時間を過ごしていた。
「ねー?」
「あん?」
気のない声を投げかけ合う二人。さながら、野良犬同士の会話のようである。
「ヒマ」
「なら帰れば?」
冷たくあしらう彼に、あおいはムッとした表情で苛立ちをあらわにする。彼女は反発するように、テーブルの上にあったリモコンを操作してテレビのスイッチを投入した。
「おい、勝手にテレビを入れるなよ」
「いいじゃん、別に減るわけじゃないんだしさー」
あおいは悪びれる様子もなく、テレビ画面に映し出された映像に目を向けている。
彼は苦々しい顔をしつつも、頭をくしゃくしゃと掻きむしり、あおいと一緒になってテレビを視聴するのだった。
二人が見ていたテレビ番組は、夕方前に放送している地方ニュースで、丁度、二人が暮らす街の付近で起きた、連続窃盗事件の犯人が逮捕されたニュースを報じていた。
「あーあ、この泥棒さん、ついに捕まっちゃったんだね。がっくり」
「・・・何で、残念そうな言い方してんの?」
あおいは不謹慎にも、泥棒という存在にちょっとした憧れを抱いていた。この世を賑わした石川五右衛門や怪盗ルパンなど、彼女はそういった人物を崇拝しているのだという。
「あたしだったら、絶対に逮捕されないよ。蝶のように舞い、蜂のように刺す、美しき可憐な女泥棒、女ねずみあおい参上!ってね」
取ってつけたようなフレーズを並べて、まるで大泥棒にでもなった気分で、不敵にせせら笑っているあおい。
あおいの浮かれ気分を壊すように、彼は泥棒などいずれは捕まる運命なのだと、さも現実的で夢のない自論を突き付ける。
「今の警察の捜査能力はすごいんだ。ほんとに小さい痕跡からでも、犯人を特定できたりするんだからな」
国家公安機関である警察をあなどるなと、彼は窘めるようにあおいに言い聞かせていた。それに感服したのだろうか、彼女はすごーいと感嘆の声を上げていた。
「あんた、詳しいねー。それってやっぱり、下着泥棒で捕まったからだよね?」
「捕まってねーし、やってもいねーよ!しかも、よりによって下着に限定するなよ、失敬だな!」
下着はいいとしても、これまでの生涯、一度も泥棒をしたことがないの?と、あおいはいきなり彼を問い詰めてきた。彼はうぐっと、思わず絶句してしまう。
「・・・そう聞かれると、まったくゼロとは言えないなぁ」
後ろめたい過去があるのだろうか、彼は閉口したまま顔をうつむかせていた。そんな彼を追い詰めるように、あおいはしつこく尋問してくる。
「一体全体、何を盗んだんだ?さぁさぁ、吐け。しゃべった方が楽になるぞ?」
「はい、昔、小学生の頃、ばあちゃんのがま口から、百円玉を数個・・・」
あおいに諭されるままに、彼はついつい、少年時代に犯したやましい過去を口にしてしまうのだった。
「よく打ち明けたな。よしよし。かつ丼でも食うか?」
「・・・ここは取調室かよ」
詮索されっぱなしでは癪だと思い、彼もお返しとばかりにあおいを問い詰める。彼女にだって、お小遣いをくすねるぐらいの泥棒をしたことがあるはずだと。
「え、あたし?」
人間というのは、後ろめたいことがあるほど顔に出るものだ。彼はそれをすぐに察知し、あおいに正直に告白するよう迫るのだった。
あおいは逃れられないと諦めたのか、表情を険しくしながら、石のように閉ざしていた重々しい口を開く。
「あのね、結構前のことだけど、不幸にあったお友達の募金目的で、あんたから、お金預かったことあったよね?」
「ああ、そういえば、おまえにせがまれて、なけなしのお小遣いから渡した気がするな」
沈んだ表情のまま話を続けるあおい。余程、深刻な事情でもあるかのように・・・。
「渡してもらった後に、お金落としちゃったからって、もう一度、お金を払ってもらったよね?」
「おお、そうだ。おまえ、お金落として半泣きだったもんな。うんうん、仕方がないって、また払った気がする」
その落としたお金なんだけど・・・と声を絞り出し、あおいは頭を撫でながら苦笑いを浮かべた。
「受け取ったその日にね、限定発売の高級ブランドバッグ買うのに、使っちゃったんだ。もう時効だよねー」
「てめーは警察へ即刻出頭しろぉぉー!!」




