二十一.東京ドーム漫才ライブ
――『彼女はボクのアイドル』――
ごく普通の男子高校生はある日、趣味である絵画を描くために出掛けた際、偶然にも、巷を賑わすスーパーアイドルの少女と出会う。アイドルのわがままなお願いにより、その少年は、その少女と市街地でデートのような経験をする。
その場限りのデートを終えた二人は、もう一度会えることを願いつつ、名残惜しくもお別れを告げるのだった・・・。
それから数日後、アイドルの少女はドラマ収録で訪れた学校で、またしても偶然、あの少年の名前の下駄箱を発見する。少女は学校関係者から住所を聞き出し、少年の自宅を訪問するのだった。
アイドルのいきなり訪問。そんな夢のような現実を信じようとしない少年。しかし彼は、アイドルの少女と約束したラジオ番組を聴いて、あの少女が本当のスーパーアイドルだったことを知るのだった。
それを機に、普通の少年とアイドルの少女は互いに触れ合うようになる。デートらしいことや、自宅で絵画の話をしたりする間柄となり、いつしか二人は、友情を深め合っていく中で、お互いのことを感情のままに意識していくことになる。
そんな私生活を充実させていた少年と少女に、あまりにも卑劣な悲劇が訪れる。芸能界という恨みや妬み、嘘と罪が入り乱れる社会のはざまで、純情な二人はいつしか、スキャンダル騒動に振り回されていく。しかし、その困難を乗り越えた少年と少女は、お互いを想う気持ちに気付き、そして確かめ合うのだった。
アイドルの少女は自由になること夢見て、一大決心をする。それは、芸能界引退であった。
スーパーアイドルにとって最初で最後となるかも知れないコンサート。東京ドームに集結した満員のファン、そして、少女に想いを寄せる少年が見守る中、少女が最後に出した結論とは・・・。
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恋愛ドラマが感動のままに終了し、テレビ画面にスタッフロールが流れている。
この物語を何回も視聴しているはずなのに、彼は年甲斐もなく感涙にむせていた。それほどまでに、感動させてくれるストーリーなのか、はたまた、ただ彼が涙もろいだけなのか、それは誰も知る由もない。
彼が手で目尻を拭っている最中、彼に背中を見せながら頬杖をつく格好で、あおいはテレビに顔を向けたままだ。ドラマが終わっても、彼女はピクリとも動じず、感想などの声すらも上げてはいない。
「おい、あおい」
「・・・」
あおいは彼の呼びかけに反応しない。まるで眠っているかのごとく・・・。
「おい、あおい!」
「・・・はにゃ!?」
言葉にならないような声を発して、あおいは咄嗟に彼の方へ顔を振り向かせる。すると、彼女の押し当てられていた頬が、くっきりと朱色に染まっていた。これは確実に寝ていたな・・・。彼はそう直感した。
「正直に言え。おまえ、寝ていたな?」
「ね、ねね、寝てなんていないもーん!」
あおいはわかりやすく動揺していた。追求すればボロが出るはずだ。彼は怪訝な顔つきで、彼女が本当にドラマを見ていたのか尋問することにした。
「それなら、このドラマの最初から最後までの大まかなストーリーを言ってみろ」
彼のぶしつけな質問に、あおいは顎に人差し指を宛がい、思い出すような素振りを見せる。
「普通の男の子とアイドルの女の子がねー、街で偶然出会っちゃうの。二人はお互いの立場を知らないまま、原宿とか公園でデートするんだけど、その日は結局離れ離れになるんだよ」
「・・・で?」
ストーリーの続きを促す彼。あおいは顎に指を宛がったまま話を続ける。
「アイドルの女の子はその後、ドラマ撮影でやってきた学校で、男の子の名前の下駄箱を発見するの。そして二人はめでたく再会するのであった・・・。はい、おしまい!」
「それ、俺が話したあらすじのまんまじゃねーか!やっぱりおめー、寝てやがったな!」
彼に厳しく追及されても、あおいは頭を振り乱して、寝ていないことを強調していた。それを証明するかのごとく、彼女は物語のエンディングに近いシーンについて口にし始める。
「そうそう!東京ドームのシーンはおもしろかったねー」
あおい曰くこのシーンは、このドラマの最大の見せ場といっても過言ではない。彼は感心しつつも、どこがおもしろかったのか?と、彼女へすぐさま問い返すのだった。
「東京ドームで、主人公の女の子と男の子がねー・・・。二人きりで夫婦漫才をして大爆笑の渦!これにてハッピーエンドだったよねー」
「だから、これはコメディーじゃないって何べんも言ってるだろーがっ!」




