二十.将来は名ナレーター
あおいはまだDVDケースとにらめっこしていた。もう1分以上は経過したであろうか。
どうするか迷っているあおいのことを、彼は苛立たしい視線で睨みつけていた。早くしやがれ!と、彼は心の中でそう繰り返すのだった。
「・・・どうする?観てみるか?」
さすがに痺れを切らし、あおいをせっつく彼。しかし、彼女は優柔不断のように首を捻るばかりだ。
「う~ん、どぉしよーかなぁ。全体的にはおもしろそうだけど、この主人公の男の子が、どうもあたしと相性が合わない気がするんだよねー」
「相性って、おまえは主人公とどうにかなりたいのか?それ、お見合い写真じゃないんだぞ」
相性の問題はさておき、あおいは散々悩んだ挙句、ひとまずあらすじを聞いてから、観るか観ないか判断するということになった。というわけで、彼女はすぐさま、彼にあらすじを語るよう急かしてきた。
致し方なく、彼は渋々ながらも、”彼女はボクのアイドル”のあらすじを語り始める。
「ある高校生の男の子が、とある日曜日、趣味のスケッチに出掛けた際、街角の片隅で、偶然にも人気女子アイドルと遭遇するんだよ」
「へー。で、それから?」
ちょっぴり関心が沸いたのか、あおいは次なるあらすじを要求してきた。やむを得ず、彼はあらすじの続きを語っていく。
「偶然出会った二人は、原宿の街や代々木公園でデートするんだよ。お互いの立場を知らないままにね。そして二人は、一度離れ離れになってしまうわけさ」
「ふむふむ。で、それからそれから?」
それなりに関心が強くなったのか、あおいはさらなるあらすじを要求してきた。それはもう不承不承ながら、彼はあらすじの続きを語っていくのだった。
「一度別れた二人だけど、女子アイドルがたまたまドラマの撮影で訪れた学校の下駄箱で、街角で出会った男の子の名前を発見するんだ。そして二人は、奇跡の再会を果たすというわけ」
彼が熱く語るシナリオを聞きながら、あおいはワクワクと胸をときめかせていた。
「おー、よかったじゃん!で、それからそれから?」
「いつまで語らせる気だよ!ここまで来たら、あらすじじゃなくて本編じゃないか」
確かにここらでツッコんでおかないと、彼は流されるままに、そのままエンディングまで語り続けてしまうだろう。
「えー?もう少し聞けば、物語に引き込まれるかどうか判断できそうなのに~」
「・・・あれだけ食いついておいてよく言うわ。もう十分引き込まれてるだろーが」
ここまであらすじを説明した上で、改めてDVD鑑賞するか否か尋ねる彼。あおいはDVDケースをテーブルに置き、そっと瞳を閉じて、腕組みしながら重々しい口を開いた。
「う~ん、いまいちだね」
あれほどあらすじに食いついていたにも関わらず、あおいの評価は予想を裏切る厳しいものであった。
彼は釈然としなかったのか、どこがいまいちだったのか、険しい表情をするあおいに問いただしていた。
「ストーリーの説明には、もう少しアクセントをつけて、メリハリを入れなきゃダメだね。そんなんじゃ、森本レオさんみたいな、立派なナレーターにはなれないぞぉ」
「俺の評価はどうでもいいから、ストーリーの評価をしやがれっ!」
いろいろ葛藤(?)はあったものの、彼とあおいはこの後、”彼女はボクのアイドル”という名の恋愛青春ドラマを視聴することになるのだった。




