二.日本だったらそのままジャパーン?
何だかんだと愚痴をこぼした挙句、彼は角砂糖を四分の三に手際よくカットし、近所のスーパーまでひとっ走りして、低脂肪乳を買ってきて、わがまま娘のご要望に応えるのであった。
「うんうん。おいしいじゃない」
「ここまで苦労して、まずいって言われたら、俺、絶対におまえをここから追い出してる」
彼のこしらえたコーヒーが余程おいしかったのか、あおいはほっこり顔でご満悦の様子だった。
「あんたさ、こんなに上手にコーヒー作れるなら、ジャマイカに行ってコーヒー農園に就職したら?」
「よりによってジャマイカかよ。でもさ、コーヒー淹れるのがうまいからって、農園で勤まるかどうか保証できなくないか?」
彼がごく当たり前な理由で拒んでみるも、あおいはどうも納得していない顔をしている。
「そうかなぁ。わたしはやっていけると思うよ。あんたって、ちょっとジャマイカっぽい顔しているし」
ジャマイカっぽい顔って何だ!?彼はすぐさま問いただしてみると、あおいは一言、見たまんまと即答した。彼はどうにも釈然とせず、唸り声を上げながら首を捻るばかりだった。
「あのさー、アメリカで作ったコーヒーって、アメリカンって言うよね。それじゃあ、ジャマイカで作ったコーヒーは、やっぱりジャマイカン?」
ジャマイカンなんて聞いたことないなと思いつつも、彼はそうじゃないかと無難に答える。
ブラジルならブラジリアン、メキシコならメキシカン。あおいは、国名を思いつくままに、それらしいコーヒーの呼称を読み上げていった。そのたびに、彼は疎ましそうにしながら、うんうんと相槌を打っていた。
「じゃあさ。・・・あんたが作ったこのコーヒーは、やっぱりアホンダラーン?」
「・・・おまえ、マジにここから追い出すぞ」