十九.見るならやっぱりコメディー
敏感な臭いで目を覚ましたあおい。それでも彼女は、コックリコックリと頭を垂らすたびに、眠たい目を擦っている。
そんなあおいを見つめながら、明らかに迷惑そうな顔をしている彼。そんなことなどお構いなしに、あおいは帰る仕草すら見せようとはしなかった。
「ねーねー、眠気覚ましにさ、ビデオとか見たいな」
コイツの場合、眠気が取れるまでは絶対に帰ろうとしないだろう・・・。そう思った彼は、あおいを無駄に追い出すのはやめて、とりあえずは、彼女の言うことを聞いてみることにした。
「俺、ビデオデッキもう撤去しちゃったから、DVDプレーヤーしかないぜ」
彼がテレビ台の下にあるDVDプレーヤー本体を指差すと、あおいは目を丸くして驚きの顔をしていた。
「へー、あんたみたいなアナログ男子が、DVDなんて持ってたんだぁ」
「人のことをスイーツ男子みたいな言い方すんな」
DVDプレーヤーぐらい、現在のデジタル普及の世の中なら、どこのご家庭にもあるだろうと、彼はデジタル男子のごとく威張って言い放った。
ここ最近の時代の流れを空しく思い、あおいは遠くを見るような目を虚空に泳がせていた。
「日本人は横文字を好む風潮があるからねー。ビデオがDVDに取って代わられたのも無理ないのかねー」
「・・・おまえ、コラムニストみたいに気取って言ってるけどさ。ビデオも立派な横文字だぞ」
彼の呆れんばかりの指摘を受けて、あおいは一瞬絶句して目を見開いた。
「うそっ!美出男っていう日本人が作ったんじゃないの!?あたし、学校で先生からそう習った気が・・・」
「そんなわけあるか!おまえにそれを教えた教師、詐欺罪で逮捕されるぞ!」
何やかんやあったものの、ビデオが日本語でないこともわかり、これにて一件落着・・・とはいかず、彼は結局、テレビ台の下の棚から、オススメのDVDを取り出す羽目となったのだった。
そのオススメのDVDをケースごと渡されたあおい。彼女はケースの表裏をめくりながら、どんなストーリーなのか彼に問いかけてきた。
「それは”彼女はボクのアイドル”。masa-KYっていう人が原作で、普通の男子高校生とアイドルの女の子との、ちょっと甘酸っぱくてほろ苦い恋愛ドラマだよ」
あおいは恋愛ドラマというジャンルに首を捻っている。彼女は矢継ぎ早に、楽しめるのか?おもしろいのか?お腹を抱えて笑えるのか?と、執拗な質問攻めを繰り返した。
「それなりにおもしろいけどさ、腹抱えるまでは笑えないぞ。これ一応、恋愛ドラマで、コメディーじゃないんだから」
「ふ~ん、そうかぁ・・・」
ちょっぴりこのDVDに興味がわいたのか、ケースに写る主人公二人を指し示しつつ、あおいは彼に尋ねる。
「ねぇねぇ。この男の子と女の子、どっちがボケでどっちがツッコミ?」
「だから、コメディーじゃねぇって言ってんでしょーが!」