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十五.ラッパのマークは苦い思い出

 結局、”なぞなぞ”に正解することができず、チョコレートをゲットすることが叶わなかったあおい。歯ぎしりしながら悔しがる彼女を哀れむあまり、アホなぐらいのお人よしの彼は、チョコレートを半分ずつ食べようと提案するのだった。


「えー?それじゃあ足りないよ。あんた我慢しなよぉ。こういう時はレディファーストだよ!」

「おまえ、レディファーストの意味、はき違えてないか?」


 何はともあれ、小さい個包装のチョコレートを半分に分けて、パクッと口の中に放り込む彼とあおい。甘くておいしい~と、ホクホク顔をするあおいを眺めて、まぁこれでよかったとしようと、吐息を一つ漏らす彼なのであった。


「でもさー、このチョコどうしたの?もしかして、こういう時のための非常食だったりして?」

「違う。だいたい、こういうこと起こるなんて想定してないし。たまたま残ってたんだ」


 今年のバレンタインデーに、アルバイト先の女性から義理でもらったものだと彼が説明すると、ヒューヒューと定番のごとく、にやけた顔で冷やかすあおい。


「もてる男はつらいねー、おいコラ。うらやましいねー、このこの、このロリコン野郎!」

「勝手にロリコンと決めつけんなよっ!」


 彼の尖り声など気にも留めず、あおいはチョコレートの甘味の余韻に浸りながら、バレンタインデーと言えば・・・と、何かを思いついたように話し始める。


「そういえば学生の頃、バレンタインの時に、いたずら半分でチョコを上げたなぁ」


 あおいは天井に視線を移し、学生時代の懐かしいバレンタインデーの記憶に思いを馳せる。彼はニヤニヤしながら、おまえにもそんな思い出があったのか?と嫌味っぽくからかっていた。


「当然でしょー?あたしだって、おしとやかで慎ましやかな純情乙女なんだからね」

「う~ん、いまいち納得したくはないが、ここは親心でツッコまないでおく」


 あおいの思い出話を耳にしたからか、彼も若き頃のバレンタインの思い出が頭の中に浮かんでいたようだ。それを彼女に見透かされてしまい、彼は引くに引けなくなり、恥らいつつ当時の甘くほろ苦い出来事を振り返るのだった。


「バレンタインデー当日にさ、放課後、帰ろうと思って机の中に手を入れたら、差出人の書いてないチョコが入ってたんだよ」


 そっと忍ばせてあったそのチョコレート。チェックの包装紙にピンクのリボンが愛らしかったそうだ。ところがこのチョコレート、彼が丁寧に包装紙を剥がそうとした際、ついうっかり床に落としてしまったのだという。


「慌てて取り上げてみたらびっくり。そのチョコ、真っ二つに割れちゃっていたんだ」


 想いを寄せてくれた女の子に悪いことをしたと思いながら、彼ははにかみつつ、割れたチョコレートをいただいたのだという。

 そのチョコレートの味もどこか苦くて、どこの誰がくれたものかわからないことも含めて、今思えば、心に残る学生時代の淡い思い出だったと、彼は感慨深そうに語り終えるのであった。

 彼が話し終えるのを見計らって、あおいがワクワクドキドキしながら問いかけてくる。


「ねー、そのチョコってさ、ハートの形してなかった?」

「あ、ああ。確かハート型のチョコレートだったな」


 あおいはさらに、身をテーブルの上に乗り出して、根掘り葉掘り問いかけてくる。


「ねー、ねー、そのチョコさ、とっても苦~くなかったぁ?」

「あ、ああ。確かに苦かったな。ビターチョコだったんだろうけど」


 ニコッと愛くるしい笑顔を見せるあおい。彼女はこの後、彼が思ってもみない衝撃的な告白をする。


「そのチョコ上げたの・・・あたしだよ」

「へ・・・?」


 まさか、あおいが・・・!あまりの衝撃に、開いた口が塞がらない彼。

 あおいははにかんだまま、伏し目がちに顔をうつむかせてしまう。

 いつも意地悪ばかりで、あおいにバカにされてばかりの彼。それはまさか、恥じらいからくる愛情の裏返しだったのだろうか?彼は心の中で戸惑い、鼓動が激しく高鳴り、そして激しく脈打つ。


「お、おまえがあのチョコを・・・」


 ・・・それより、このおはなしって恋愛ストーリーだったっけ??彼は下らないことに首を傾げつつも、あおいの気持ちを心から受け止めようとした。

 そんな純情っぽい展開が繰り広げられたと思った途端、あおいはいきなり、ニタ~と憎たらしい笑みを浮かべた。


「言っておくけど、あれ冗談だから本気にしないでね」

「・・・は?」


 キョトンとした顔をする彼。そんな彼を辱めるかのごとく、あおいはケラケラと高笑いする。


「あのチョコ、いたずらってわかるように最初から割っておいたし、正露丸を練り込んで、味も苦くしたんだ。はははー、ざーんねーんでしたぁ」

「うわー、俺の淡い気持ちと、淡い思い出が一瞬でぶち壊されたぁぁー!!」


 その時、正露丸特有の匂いと味が、半泣きの彼の脳裏をよぎったのは言うまでもない。


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