十三.イラズラ電話もほどほどに
花札による熱きバトル(?)も終焉となり、彼とあおいはボーっとしたままテーブルに突っ伏していた。どういうわけか、出前のざるそばはまだ届かない。もう読者の人たちにも、そんなことあったっけ?と忘れ去れてしまっているだろう。
「ねー?」
「あん?」
お腹が空いているのだろう。二人の言葉に覇気がない。というより、猫同士の会話のようだ。
いい加減痺れを切らしたあおいは、ガバッと起き上がり、彼に向かって命令口調で叫んでいた。
「もー我慢できん!ちょっとあんた。お店に電話して、早く持ってこいってクレームつけてよ。さもないと、告発するよって脅してね!」
「出前ぐらいで告発するなよ」
彼がお店に電話を掛けて、どうなっているのかと尋ねてみると、たった今店を出ましたんで、という答え。これこそ、言葉どおりの”そば屋の出前”である。
それを聞いたあおいは釈然とせず、その場で寝転がって、じたばたと暴れだした。メシ持ってこーいと、まるで駄々っ子のごとく。
「あのさー、コンビニでおにぎり買ってきてー。中身は梅干とおかかのミックスで、ココアパウダーがまぶしてあるヤツね」
「そんなおにぎり、あるのか!?それって、メシなのか?デザートなのか?」
おにぎりはいいとして、出前のざるそばはどうするんだ?とあおいに問う彼。
「ざるそば、もういらない。あんたにみんなあげるー。よかったね」
「・・・ルチンだとかムチンだとか、偉そうに言ってたヤツのいう台詞かよ」
彼はあおいの心変わりにいつも呆れてしまう。女心と秋の空とは、コイツのためにある言葉だと、彼は一人心に思う。
ちゃんとざるそばを食べなさいと諭された結果、渋々出前を待つことにしたあおい。しかし、店を出たはずのざるそばは、一向に彼のアパートまでやってこない。ついに、彼女の我慢が999ポイントを超えて、限界突破した。
「もうアッタマ来たぁ。あたしが電話してやるー!」
あおいはえらい剣幕で立ち上がり、彼のアパートの電話の受話器を持ち上げる。そんな彼女に、落ち着けよと冷静になるよう声を投げかける彼。
「俺がさっき電話したじゃんか!もう少し落ち着けって」
「ダメ!こういうことは、きちんと言うべきなの。悪いことを見逃しちゃダメ!」
あおいは激しく指を叩きつけてダイヤルコールする。こりゃ参ったなと、彼もすっかり困り顔であった。
「あ、もしもし?警察ですか。お店が出前持ってこないのって犯罪ですよね?逮捕してください!お店の名前は・・・」
「わー!わー!おまえ、どこに電話しとんじゃぁぁー!!」