十.男子なら誰もが燃えたよね?
そば屋に出前を注文してから十分ほど。もちろん、出前はまだ届くわけもない。しかし、待つ時間が長くなれば長くなるほど、空腹感は勢いを増すものである。
「お腹空いたね~」
「お腹空いたな~」
テーブルの上に突っ伏しながら、気の抜けたような言葉を投げ合う男女二人。虚ろな空気が蔓延する部屋の中で、二人のお腹の虫だけが空しく鳴るばかりであった。
「うーん、我慢できなくなってきたな。これは何か食べなきゃ持たないぞ」
焦燥感に苛立つ彼を目の当りにし、あおいは突然身を守るように、両腕を体に巻き付けてガード体勢に入った。
「いくら、あたしが熟しておいしそうなギャルだからって。・・・あたしを食べようとしないでね?」
「お断りだ。おまえみたいな灰汁の強いの食ったら、食あたり起こして死んでまうわ」
そんな下らない会話をしていても、お腹の虫はなる一方なので、ここは一つ、トランプで遊んで気を紛らわそうと考えたあおい。
「ねー、出前来るまでの間、トランプでもやろー」
「は?俺、トランプなんか持ってないぞ」
その彼の発言に、あおいは目を見開いて呆気に取られていた。
「ト、トランプ持ってないの?それ、本気で言ってる?あんたさ、頭おかしいんじゃないの!?」
「トランプ持ってないだけで、変人呼ばわりかよ!」
ごく一般的なお家には、薬用養命酒とラッパのマークの正露丸、そして、トランプは必需品だとそう豪語するあおい。そのすべてを携えていない彼は、やはり変人なのであろうか・・・?
「トランプはないけど。そうそう、花札ならあった気がする、花札はどうだ?」
あおいは気に障ったかのように、目を細めていきなり彼のことを睨みつける。
「まー、失礼しちゃう!こんな美しいレディーに向かって、豚の鼻だなんてー。もう、ぷんぷん!」
「ハナブタじゃなくて、ハナフダ。・・・おまえ、無理やりボケるなよ」
彼は部屋の片隅にある戸棚を開けて、四角い小さい箱に入った花札を取り出す。それを手にしたあおいは、困惑するような、戸惑うような表情を浮かべていた。
「遊んでもいいけど、あたし、ルールわかんないよ。だからさ、手短に一分以内でルール説明して」
「一分以内って、手短過ぎね?」
単刀直入に言えば、手持ちのカードと場のカードを使って、同じ花柄を集めていき、最終的に得点の大きいカードをいっぱい取った人が勝ちと、彼は48秒でルール解説を終えるのだった。
これでルールは理解できただろう?と、彼は眉根にしわを寄せるあおいに尋ねてみる。
「う~ん・・・。わかったような、わからないような。でもわかったかも知れないけど、でもわからない気がする」
「それじゃあ、どっちかわかんねーよ」
とりあえずのところ、プレイしながらルールを補足していくということで、時間潰しの花札を始めることにした二人。
手持ちの札と場の札を配っていく彼。札が並べられて、いよいよ勝負開始といった矢先、あおいが彼に尋ねる。
「あのさー、勝負開始の前に一つだけ聞いていい?」
「何だよ?」
あおいは上目使いをしながら、身を守るように、両腕を体に巻き付けてガード体勢に入った。
「勝負に負けたらさ。・・・やっぱり洋服を一枚一枚脱がなきゃダメ?」
「・・・あのさ、これゲームセンターのゲームじゃないって」