002-エリダナ王立学院①
傀儡師養成の名門、エリダナ王立学院はヨーロッパの小国、エリダナ王国にある。
人口20万人、面積は東京都程しかないが、世界各地から一流の傀儡師、技工士を目指して学生が集まってくる。
そのエリダナ王立学院へと向かうバスに、日本人の少年と魔術人形は乗車していた。
「うわーっ。見てください、ヤシロ。とてもいい眺めですよ。こんな景色東京では見ることはできません」
社の隣では、紫音が座席に乗り上げ窓の外を見ながら両足をバタバタさせている。
「何だ。お前にも可愛いとこあるんだな」
社の両目に、紫音の指が突き刺さった。
「なっ、何をいきなり…。いつもヤシロの気持ち悪い言動につき合っているから、目の保養をしていただけです」
ああ言えば、こう言う━。
そんな紫音とコンビを組んでいるため、ヤシロは傀儡術の講義はあまり好きではなかった。
「でも変わったよな。昔は口さえ聞いてくれなかったもんな」
両目両鼻に、紫音の指が突き刺さった。
「みぎゃー。何をするんだ。照れ隠しにしては暴力的すぎるぞ」
「照れ隠しは1%、99%は悪意に満ちた暴力です」
「それはもう悪意じゃないか」
『まもなく、エリダナ王立学院前です。お降りの方は━』
「紫音、もう着くみたいだ。降りる準備しとけよ」
両目を押さえながら、社は頭上の網棚から荷物を降ろした。
「それくらい今のアナウンスを聞けばわかりますよ。それともヤシロは、今まで私が言葉を理解していないと思っていたのですか。もしそうだとしたら…馬鹿に何を言ってもわかりませんね。降りますよ」
そう言って紫音は、スタスタとバスを降りて行った。
荷物を両手に抱えた社がバスを降りると、目の前に壮大な門が飛び込んできた。
「でっけー。やっぱスケールが違うな。」
「見た目だけ立派でも意味はありませんよ、中身がなければ。」
社は大きくため息をついた。世界有数の名門を前にして、何という言い草だ━と。
「ははっ。もちろん見かけ倒しじゃありませんよ」
背後からの声に驚き振り返ると、がっちりとした黒服の男が立っていた。