第8話-3 吐露
「......もう時間か。行かなきゃ」
俺は会場に向かって歩き出す。今日はタイトだ。3回も戦うから魔力や体力管理が重要になってくる。負けられない。叩き潰す。もうあんな悔しい思いをしたくない。もうマリーにあんなダサい姿を見せたくない。今の俺は自分に対してはらわたが煮えくり返っている。ただ、それを悟らせない。堂々とする。もし、今の心情が顔に出るならそれは子供の顔に全く似合わない顔だろう。純粋さも無垢さもない。ただ怒りや憎悪と言った負の感情を目にこもらせただけの顔だ
その感情を顔にも目にも出さず腹のうちに仕舞う。この時ほど貴族としての教育に感謝したことはない。今の姿を見ればマリーでも腹の内は解らないだろう。そう考えながら歩く。よかった。案外思考はクリアだ
「ミリー!」
階段でマリーと会った。応援に来てくれるらしいので会場まで一緒に向かうことにする。よかった。避けられたり応援に来ないとか言われたら取り繕うこともできなかった。俺の思考のクリアな理由はマリーが俺を避けるはずがない、応援に来ないはずがないという自信によるものだったことを認識する。……マリーに対して依存している
「ねえ、ミリー......」
「どうかした?」
「......もっと私に寄りかかってきて?」
「バランスが崩れるよ」
「今も崩れているからいいのよ」
そう言いながらマリーが寄りかかってきた。俺はそれを受け入れる。ただ、この瞬間は幸せで自身に対するドロドロとしたものが気にならない
「もし、貴方が自分自身を嫌っても、私は貴方を離さない。絶対に離さない。貴方を愛している。だから......もっと私に溺れてもいいのよ?」
そう言ったマリーの紅い純粋な眼をしていた。心のそこからそう言っているようだった。その眼は俺の腹の内も何もかもを見透かし、そして、それを受け入れる。そんな眼をしていた。俺は彼女に何もかもを知られる。そんな気がした
「貴方はあのことをずっと気にする。貴方はあのことで自己嫌悪をする。私はそれを否定しない。それは貴方だけの特権だから。私は貴方を離さないだけ。私は貴方だけを愛する。私は、私だけは貴方の側で貴方に寄り添い続ける。だから安心して私にだけは全てを晒して? 貴方の汚濁を。大丈夫、私は貴方を愛し続けるわ」
「ありがとう......楽になったわ」
「そう」
俺に掛けてくれた言葉が本心かどうかはわからない。けれど、俺のことを案じてくれていることは解った。多少は楽になった。緊張は解けた。後は勝ち続けるだけだ
会場でマリーと別れた後準備室に入る。もうすでに先輩方は準備をしており、俺が最後だった。空気は最悪。なにか合図があればすぐ殺し合いになりそう。そんなヒリつく空気だ。そして、今日も戦いが始まる。シードの先輩と6年の先輩の戦いだったが結果は6年の先輩が圧勝。タイプ的に一撃必殺だ。そのことも解っていて対策していたがそれでもワンパン。これまでも速攻で終わらせていたからそこを対策しないとな。俺の相手はドクターストップなのでない。俺は身体を動かすために外に出た
「いや~、強かったね」
「......クライスか」
「頑張って勝ち上がってくれよ。俺の小遣いのために」
「もういい? 俺は戻る」
「あと」
集中を切らしたくなかったし、何よりもこんな姿をあまり見せたくなかったので早々と戻ろうとするとクライスは話し続けた
「俺たちだけは仲間だ。カッコつけなくてもお前のカッコよさは知ってるし、それが崩れることはないから安心しなよ」
コイツらは……。つくづく俺は環境に、周りの人間関係に恵まれている。俺は幸せだ。けれど、そんな環境に俺はふさわしいのか? 俺はふさわしくない。俺はただ、与えられた能力のお陰で強くなっているだけだ。もし、それが無かったら俺は今のような評価になれたか? いや、そんなわけはない。俺は小心者だ。ちっぽけな意地を持って、安定を望む人間だ。そして、勢いでできもしないことを言う人間だ。神殺しなんていう大言壮語。果たして出来るのか。チートを使わず戦おうとして結局頼った心の弱さ。反吐が出る。アイツらに認められている俺は本当に俺なのだろうか。俺という偶像が肥大化し、それはいつか破裂する。その時アイツらの目に映る本当の俺を見てどうみられるだろうか。いつもそうだ。俺は他者を守るために戦うんじゃない。俺を守るために戦うんだ。その結果他者を守っているだけで、俺は英雄になれない
ただひたすらに自己嫌悪に陥る
「大丈夫か?」
クライスは帰っていなかったらしい。俺のことを心配してそう話しかけてくれた
「ああ、大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないだろ、明らかに変だ」
「うっせえな! 大丈夫だって言ってんだろ!?」
思わず声を荒らげた。その瞬間俺は冷静になり、クライスに謝罪した
「ごめん」
「むしろ安心した。お前、あんま負の感情出さないし」
「......」
「まだ時間あるんだろ? ちょっと来いよ」
そう言い、人目のつかない場所に案内された
「まあ、ぶちまけろよ。ここでのことは絶対に言わない。約束。信用できないかもしれない。けど、言ってほしい。お前の助けになりたいんだ」
「......俺はさ......別に俺自身強いわけじゃないんだよ。ただ、借り物の力や降って湧いた力のお陰で評価されてるだけ。俺自身の力はなにもないんだよ。見ただろ? あの無様な様を。結局、相手の土俵から最後は逃げた卑怯者なんだよ......。俺はそんな皆が思うような強さを持ってない。ただひたすらに俺以外の力に酔ってるだけのゴミなんだよ......。なあ、幻滅したか? 幻滅してくれよ......突き放してくれよ......俺は怖んだ......皆からの期待が失望に変わるのが......」
俺はポツポツと言い始めた。最初はちょっとした相談をして終わろうと考えていたが、話しているうちに自分のことをどんどんと言い始めた。言わないようにしていたことや、見せたくなかった弱み、かっこ悪い姿をさらけ出した。俺はずっと下を向いていた。こんな姿を見られたくなかったから。涙も出ていたから、そんな姿を見せたくんかった。クライスは何も言わず、ただただ寄り添ってくれた。途中からはベストを俺の頭に掛けてくれた
「......ありがと」
「おう。美味いお菓子と優勝でいいぞ」
「......うん」
俺は立ち上がった。時間にすれば30分もなかったと思う。少ない時間だった。けど、初めて友達に本音を言えた。どうしてこいつなのかはわからない。まだ会って半年位だ。なのに、なぜか信用している。それがなぜだかは解らない。ただ、どうしてかこいつに親近感を覚えた。だから本音を言えたと思う
「......頑張れよ、ミリバーブ!」
俺は振り返ることなく、ただ片腕を上げ答えた
こんにちは、月照です。誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです
漸く小説の書き方というものが解ってきた気がします。時間があるときに最初の方を書き直したい
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