第3話 決闘
1年生はまず基礎固めやクラスでの交友を深めてもらうことを第1とする学園の方針から、行事も1年生はクラスが中心であり、クラスを飛び越えた交流は部活動や授業と限られたものになる。俺は同期の1/3くらいしか顔を知らない。仮に授業で一緒になり、ペア授業などがあったとしても大抵は同じクラスのやつと組むか同じ部活、ここに来る前からの知り合いと組むことが多いから交友関係はあまり広がらない。そして数少ない別クラスの事情を聴くと色々面倒くさくなっていることが分かった。主に貴族と聖職者、平民の対立であり、時たまクラス授業で聞こえてくる怒号や金切り声はそれが由来らしい。まあ俺たちみたいな1年生の最初のころから3つの身分がいがみ合っていないというのは珍しいらしい。大抵は1年生が終わるか、2年生から始まるクラス対抗等で仲間意識が芽生えるらしい。まあ、別に俺たちに危害が加えられなかったらいいわ。少なくとも王子や侯爵の息子に喧嘩を売るような貴族はいないだろ。売るとしたら教会。平民はどうだろう。あまり平民のことは解っていないので何とも言えない
喧嘩を売られた。いや、マジでなんで?全くもって面識のない奴から喧嘩を売られた。マリーたちと食事してたら急に
「貴様の様な、平民がマリー様と云云かんぬん」
と言われた。俺……平民だと思われてる?確かに動きやすいっていう理由で貴族風な装飾をしていないが、それでもオーダーメイドで上質なものを使っているし、両肩にはニナーナル家の紋章、腕の装飾にはニナーナル家の象徴であり、土地の花である矢車菊をあしらったものが飾られていて、ベルトは紋章に描かれている龍が描かれている……こいつにはそれが見えていないのか?それともただ単に俺を従者として見ているかだな。てか、お前は後ろ見ろよ。真っ青だぜ?普通は侯爵とかの上位貴族の顔位は覚えるもんじゃねえの?俺はマリーと一緒に実家以上の爵位の全生徒の顔と名前は覚えた。後は大司教以上の子供や大きな商店の子供。こいつは確か……なんだっけ。口ぶりからマリーと同じクラス?
「いきなり会話に割り込んで貴族としての礼儀がなっていないんじゃないのか?」
「平民に礼儀を払う必要がどこにある!」
「どこの馬の骨かもわからない貴族がねえ……学園の方針に逆らうのか」
「ダランデル家が嫡男ハンス=ホノリ・ダランデルを知らないとはお里が知れているね」
ダランデル家……確か伯爵家か。え、伯爵家?思ったよりも実家の位が高かった。しかも長男かよ。子爵とかの4男でそこまで教育に力を入れられていない立場だと思ってたわ
「ならダランデル家の教育の質が知れているな」
「貴様ッ!」
俺が若干煽るように言うとハンスは手袋を俺の頭にたたきつけた
「いいぜ、その決闘、ミリバーブ=アーベル・ニナーナルの名において受けてやるよ」
「は?え……?」
「早い方がいいだろ。場所は第1訓練場、時間は放課後。おい、後ろのやつ。こいつを逃がすなよ」
「は、はい!」
「大変ね」
「……そんなに平民っぽい?」
「立っていたらベルトも見えるし、普通はわかるわ。座っていたら少しわかりにくいわ」
「貴族風の衣服はなぁ……普通の授業ならいいんだけど実験や実践の授業を多くとってるから動きにくいんだよなあ。こういう制服っぽいのがいい」
この学園は制服があるが、公序良俗に反しない服装は許されており、貴族は貴族風の豪華な装飾をしている。俺は、そういう服装は動きにくいから制服を改造したようなものをオーダーメイドした。それでも普通の制服よりも装飾は豪華だし、紋章、家の象徴をあしらっている。常識のあるやつが見れば一発で貴族だと思うし、紋章や、家の象徴からすぐ俺がニナーナル家の子供ということがわかるはずだ。リシュリーノたちの服にも紋章はあるが、家の象徴である矢車菊はない。家の象徴はその家の血族だけに許されている物だ。てか普通は自分の家の爵位以上の生徒の顔は知っておくだろ
「彼、ことあるごとに貴族ってことを強調してクラスの輪を乱すのよね。しかもクラスを飛び越えてでも対立をあおるから流石に私たち貴族派閥でも庇いきれないくらい」
「マリーやクラウス様が言えば?」
「言ってもよ。彼、私たちが対立を辞めるように言うことを平民たちへの慈悲であると思っているらしくて……その慈悲は平民たちを助長させるものになるって聞かないのよ」
「マジで箱入りだな。甘やかされすぎだろ」
「まあ、ダランデル家の当主が50を超えて漸く授かって元気に育った子供だから甘やかされたんでしょうね」
ああ、そういえば父さんが言っていた気がする。今のダランデル家は呪われているのかってくらい子供がすぐ死んでしまって気の毒だって。この世界には回復魔法やポーションがあるとはいえ、子供、しかも幼児に使うとなると魔力に耐え切れず死んでしまったり、より重症化するから乳児の死亡率は高いらしい。授業で習った
「見学いい?」
「部活はいいの?」
「婚約者のカッコいい姿は見たいもの」
俺が決闘するという話はすぐ校内に広まっていた。どちらかというと俺が侯爵家の子供だと知らなかったハンスが笑われ者になっている。そりゃああんだけ貴族として威張り散らかしていたのに貴族として位が高い俺の顔を知らず、しかもニナーナル家の象徴があるのに気が付いていなかったその無知さが露見したら半分を占める貴族層以外の笑いものになるわな
「いやー災難だったみたいで」
「まあな。服を汚されなかっただけまだマシ。もし汚されていたらマジで生死を掛けて戦うところだったわ。この年で殺人の罪を背負いたくない」
「負けるとは言わないんだね」
「魔物との戦いを経験しているんだ、相手も武断派の家系だとは言え経験値が違う」
「そうかい。今日は生徒会がなかったから君の部活にお邪魔させてもらおうとしたんだけど……決闘はどこで?」
「第1訓練場。元々今日は部活がないからボローネや戦闘技術の発展を取ってるメンバーを誘って中間試験対策をするために先にとっておいた。最悪誘えなくても魔法の練習に使えるしな」
「そうか、なら行かせてもらうよ。相手は逃げいないのかい?」
「顔見知りに絶対に連れてくるように言った。相手は伯爵、俺は侯爵。どっちの命令を聞くかは一目瞭然だろ。しかも相手から吹っ掛けてきたのに逃げたら今以上の笑われ者だろ。実家に帰省するときダランデル家もより笑いものにされるだろうから、逃げるっていう選択肢はないだろ」
「成程。で、審判は?」
「安全面のために頼んでた教師にそのまま審判を頼んで来た」
この学園では決闘は模擬戦という体で認められている。しかしそれは教師の認可が必要であり、その認可が下りるにも条件がある。その条件は家の名誉を汚されたと教師に認められる、本人や従者の名誉を汚されたと教師に認められる、本人の過失なく決闘を申し込まれた。それ以外にもあるが主に使われるのはこの3つだ。尚決闘を申し込まれた側のみが拒否権を持つ。更には代理決闘士の使用も双方に許可されている。俺は自ら相手を叩き潰すが、アイツは代理を立ててくるだろう。まあ関係ない。誰が来ようが叩き潰す。それだけだ。貴族社会は面子社会でもある。だから侯爵の息子が伯爵の息子に平民と言われ侮られたというだけでソイツを叩き潰す理由になる。結局決闘というのはどちらが上かという示威行為にすぎない。だから圧倒的に勝ち、強さを見せびらかす必要がある。アイツには生贄になってもらう
授業が終わり、俺は第1訓練場に向かった。相手はまだ来ていないようなので先に準備を始める。決闘は刃先を潰した武器を使用する。模擬戦という名目なので万が一の可能性を少しでも潰すためだ。そして対魔法用の防御装備も用意する。これは中級魔法までなら防ぐことが出来き、全身を覆うことが出来るプレートアーマー、最低限の場所のみ覆うボディアーマーの2種類ある。前者は重いものの装甲が厚く、前者は装甲が薄いものの身軽に動けるという利点がある。俺はボディアーマーを選び、肩慣らしをする。流石に模擬戦で契約魔法は使わない。万が一が合ったら俺が悪くなるし。武器は使い慣れている大剣とロングソード。相手が分厚い装甲のプレートアーマーなら大剣で装甲ごと叩き潰すし、身軽なボディアーマーならロングソードで切る。勝敗は審判が決めるか相手の降参を受け入れたら決まる。そうこうしていたら見物人が集まり、ハンスが同じクラスのやつに無理やり連れてこられた。代理人を立てなかったのは賞賛に値するが、手加減はしない。そして相手はプレートアーマーか。なら大剣でその分厚い装甲を叩き潰す
「では、両者宣誓を」
「神の名において、己の名誉を挽回するとともに、自ら相手の誤りを証明することを誓う」
「……神の名において、己の主張の正当性を証明することを誓う」
「ルールは目つぶしや金的は不可。故意の殺害禁止。では、デュエル!」
相手はロングソード。リーチでは勝っている。スピードは俺の圧勝。相手は防具の装甲を過信してあまり防御系の魔法を掛けていない。俺は身体強化魔法を掛け、武器にも硬化魔法を掛けてフルスイングで相手の胴体にぶつけた
相手はそれをまともに受けた。その瞬間ゴンっと鈍い音がする。相手を見るとまだ立っていて、降伏の言葉や行動をしていなかったのでもう一発反対方向から叩き込み、再び鈍い音がした。追撃を入れようとすると審判から止めの合図とともに拘束魔法が掛けられた。俺はそれを理解すると武器を地面に置き相手から遠ざかった。学内に在中している医療スタッフが相手の防具を外し、応急措置をしていた。決闘はすぐに終わった。観客は一瞬の静寂の後俺に万雷の拍手を与えた。俺は防具や武器を返して、シャワーを浴びた後クラスメイト達と合流した。なんでもクラスとマリーで祝勝会をしてくれるらしい
「いや、想像以上の強さだったよ」
「経験の差だ。相手が装備に頼りすぎて防御魔法を疎かにしていた。初球の防御魔法でさえ首にしか掛けていなかったんだ、そこ以外を叩けばいいだけ」
「それにしたってすげぇよ!完封だったじゃねえか!これなら今からでもヴォルクーネ杯の学内予選もいけんじゃねえか?」
「ヴォルクーネ杯の参加要件が4年生以上だからなぁ……少なくともあと3年か」
「規則だからしょうがないね。君が3年後ヴォルクーネ杯で栄冠を頂く光景が目に浮かぶよ」
ヴォルクーネ杯。4年生又は15歳から25歳までが参加が出来る王国全土の学校から選ばれた精鋭と王国が定めた大会の優勝者が参加できる格闘系の大会である。それに出場するには学内選抜に選ばれるか指定された大会に優勝しなければならない。学外の大会は権威が高いものが多く、参加するにもそれ相応の実績が必要であるため学内選抜の座に座るのが楽だ。優勝者には莫大な賞金と王国の若手最強という称号が与えられる。更にヴォルクーネ杯は就活や婚活としての一面を持つ。就活という面では平民や領地をあまりもらえない3男以降の子息が強さをアピールすることによって、より好待遇な騎士団や近衛兵としてスカウトされることもある。婚活という面では主にスカウトした貴族の4女や妾の子が結婚相手として紹介されることもある。上位の貴族は名誉を求め、それ以外は賞金やより好待遇な職場や自身の結婚相手を求める。俺が目指すのは4連覇だ。4勝は過去にいるが4連覇は存在しない。だから俺は史上初の4連覇を達成する。因みにヴォルクーネ杯を4勝すると殿堂入りと言う名の出禁を喰らう。話しながら祝勝会の会場に入るとクラッカーが慣らされ、お菓子と料理、飲み物が並んでいた。主役である俺が音頭を取り乾杯し、祝勝会が始まった。祝勝会と言ってもそこまで大げさなものでもなく親睦会というだけだ。料理の美味さに舌鼓を打ち、ゲームで笑い、叫んだりして終わった
次の日、授業で同じだったハンスと同じクラスのやつに聞くと入院1週間らしい。案外怪我が重かったようで1週間入院する破目になったらしい。まあ生きているしいいな!これで俺を服装で笑い者やリシュリーノやマリーを侮辱する奴は減るだろう。そしてクラス単位でバカにするやつも減るはずだ。俺のクラスはみんな距離が近いからいろいろ言われていたが、クラスを巻き込んだ決闘では俺が出てくるからそれは減るだろう
「それにしてもかっこよかったよ、お姫様を守る騎士って感じで」
「?どういうことだ?」
「え、知らないの?彼、マリーさんに良くアプローチしてたんだよ」
へぇ……。マリーにねぇ……。いやぁ、アイツは命拾いしたな、もしこの話を先に知っていたらアイツを火だるまにしてやってたわ。……けどマリーは俺にそれを言ってくれなかった。これはどういうことなんだ?俺を信用してくれていないのか?それともアイツ程度なら自分であしらえるから言わなかった?わからん。今日聴くか
「有益な情報感謝」
放課後になり、マリーと一緒に寮で中間試験の対策をしているときに今日の授業で聞いたことを話した
「なあ、マリー……俺は信用されていないの?」
「違う……違うわ……!アプローチと言っても本でしか聞かないような気障な言葉を言うだけで言葉が薄っぺらかったし、私へのアプローチも成功すればいいな程度の羽のように軽いものだった。だから貴方に相談しなくてもいいって判断したのよ。だから、私が貴方のことを信じていないなんてことはない!けど……貴方の気持ちを考えてなかった。もし私が貴方の立場なら同じことを言うもの。婚約者が異性に言い寄られているなんて心配だもの。だからごめんなさい」
「あ、謝らなくてもいいよ!俺も疑心暗鬼になってた。ごめん」
「……それで私もあなたに聞きたいことがあるの」
「え、何?」
なんだろう。俺は別にそういったこともしていないし、アイツらともそういう関係じゃないことは機能の親睦会でわかったはずだし……
「シュガートさんのことで……ね?私詳しく聞きたいわ」
「あっ」
そうかぁ……シュガートの件かぁ……シュガートの件ね……そう思い、これまでの行動を振り返る。度々話しかけ、避けられても話しかける。彼女の身辺調査をし、彼女のいる部活に入る。……圧倒的ストーカー。うん、疑われても文句言えないわ。確かにこんなことをして俺に疑いを持たないのは無理があるわ。しかも、そのことについてなんも言ってないし。そりゃあ、マリーもハンスのこと言わないわ。そう納得した俺は王子の依頼のことをぼかして目のハイライトがオフになっている彼女に伝えた
「成程ね……シュガートさんの件は王子から頼まれたと」
「はい!そうです!」
「……嘘はついていないみたいね。わかったわ。貴方の浮気なんかこれっぽちも疑ってなかったけど。まさか王子とそこまでのつながりを持つなんてね」
「俺も予想外でした」
「……私も微力ながら貢献するわ。シュガートさんの魔法関係を調べればいいのよね?それとなく探ってみるわ」
「!!ありがとうございます!」
心強い味方だ。俺たちはお互いのわだかまりを解消した後中間試験の勉強に戻った。途中マリーの顔を見過ぎて集中していないと言われたり、マリーの字に見惚れてたり、マリーの手料理を食べて昇天しかけたり、充実した時間だった。勉強時間はその分少なかったけど、幸せなら、OKです!
こんにちは、月照です。誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです
今回は決闘ですね。正直貴族の子ども同士が決闘をするという場面を書くのはどうなんだ?という思いもありましたが俺の世界ではセーフ!という考えの元書きました
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