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治癒家  作者: 無夜
6/8

責任(治癒ママ)

「えっと、ですね。親なので、通信簿が見たいのですが」

 娘と、婿さんが高校生になった、最初の夏休み。その初日。

 朝ご飯の席で思い切って、言ったの。

 高校に行かしてあげられない稼ぎだった親がなにいってんの、とか言われると、そうなんだけれど。

 でも、知っておくべき、だと思うの。ごにょごにょ。

「はい」

「どうぞ」

 と、ふたりは食後、食器を台所の流しに入れると、部屋に戻って、持ってきた。

 5段階評価。

 娘は英語、国語、体育、音楽が5、美術が3で、ほかは4。

 婿さんは社会が4のほかは5。

 娘は進学校で、ランクが高いせいか高い成績をとろうとすると大変なんだろうけど。婿さんは少し下がる学校。それでも悪い高校ではない。

 双方、成績すごくいいのではないだろうか。

「ありがとう」

 ああ、私たちは、私たちでは、この子の未来を潰した。

 その責任の重さ。

 二人が優秀で在ればあるほどに、押しつぶされそう。


 夏休みになっても、子供達は5時頃には起きている。

 あの子たち、いつ寝てるのかしら。

 そう思ったのは、夜食を夜十一時に作って、持っていってもう寝ようと思ったときに。

 二人とも、勉強をしていたり、英語の本を読んだりしていた。

 土曜日は早くに寝てるようだけれども。



 毎月、娘達の友人が来て、解体したり、稲の病気を見つけてくれたりしている。

 どこから持ってきたのかわからない蕎麦粉の売り先も無事に見つかって、盆が終わった。

 離れの整えも終わって、暇になってしまった。

「お母さんもお休みとれば?」

 と、娘。

「お父さんが配達にいくときに、駅で降ろして貰って、帰りに拾って貰えば? 朝六時出発だけれど、十一時間ぐらい自由時間で」

「若い男女を二人きりに出来ませんよ」

「そういっても、この二人、婚約者だからな。どうせ夜も一緒だろうに」

 と、夫が、しょうもない事実を言う。

 娘夫婦(籍はまだ)、母屋で暮らして、私たちは夜は離れだから、実質同棲とはいえ。

 ああ、頭が固いのかしら。

「せめて、これを」

 と、避妊具を渡しておく。

「補助ちゃん達からも貰った」

「どんな友達よ・・・・・・」

 今時? 今時ってそうなの?

「毒下し(宮)と清浄化の併用で、100%の避妊率だから、心配しないで」

 安易に、そういうことしないように、って話なんだけどっ。

「蕎麦刈りたいから、大学入学するまでは子供作らない予定だから、安心して」

 蕎麦と子供が繋がらない。

 孫、見たい。

 孫、抱きたい。

 そういう気持ちはものすごくある。

 けれども、自由を満喫して欲しい、気持ちもある。

 せめて、高校三年間ぐらいは。



 そして、初めての二毛の収穫、11月半ば。

 一毛が三月半ば~7月初旬、二毛目が7月半ばから11月半ば。

 あきらかに、おかしい具合で、育ちが早い。

 稲の実りも今までとは考えられないほど、重くて、多い。

 日照りの水不足も、台風も、冷夏も、日照不足も、すべて娘達は解決できて、この実りは、娘達の代は、確約されるのだと、納得して、心底安心したら。


 娘を産んでから、来なくなってしまった生理が、きた。

 慌てた。


「え、なかったの?」

「たぶん、ストレスで」

 夫婦二人なら、米や野菜が不作でも、『ああ、駄目かぁ』ですんだのよ。

 でも、娘が生まれて、産んでから。

 天候に左右されて、ある日田んぼも畑もみんな枯れて、全滅で、途方に暮れる悪夢を何度も見るようになったのよ。

 腕に、痩せて、泣かなくなった娘を抱えて。 動かないの。

 冷たくなって。

 もう、生きてないの。

 自分たちだけなら、もう田畑と一緒に朽ちてしまっても、って思えても。

 慌てながら

 慟哭しながら

 枯れた稲をむしって

 なんでって叫びながら、

 枯れていく赤ん坊の娘が、骨になるの。



 あの悪夢は

 私のいろいろを壊すのに、足りた。



 日照りで。

 台風で。

 駄目になるかも。今年は暑いから。


 今年も暑いから、

 今年は記録を塗り替える猛暑


 ニュースが、毎日毎日、毎年毎年私を不安にさせて。


 安心する日々はなくて。



 娘が、変わってしまって、家での実権を奪ったあの日。

 私はようやく、ほっと息をつけた。

 爪の間に針刺されてものすごく痛かったけれど。あれ、拷問のはず・・・。

 まあともかく。

 暴力に屈したという形で、私たち夫婦の『責任』は、娘に移ったのだ。

 14歳だった、娘に。




 そして、12月、最初の土曜の朝ご飯後。 収支報告。

「とりあえず、田んぼ(稲)の二毛が終わり、年間の収入が、リアルにほぼ確定しました。年間、精米量にして27トン。とはいえ、2トンは籾のまま再度苗にして植える用となんかあったときの種籾としての備蓄用、あとはうちで食したりで、引きます。集落、八百屋さん、ホームにおろせるため、販売(?)先確定量は19トン。まだ販売先探せますね」

「蕎麦関係の料亭が、米も買いたいっていっている」

 夫が言った。

「月、何㎏っていってましたか?」

「100㎏ぐらいだとか」

「年間1200㎏(1.2トン)なら、問題ないので、お受けして下さい。私や勇君に何かあったときに、即販売ができなくなるのは、まずいので、私たちが高校生の間は、米の販売はこれでゆきましょう。約5トンは備蓄に。勇君に封印して貰えば劣化しません」

 卓に広げられる紙。


 米の収入だけで。

 760万。

 だったのを、

 娘が推定と書き添えて、

 808万に変わった。

「米だけで、1000万は、机上の夢だったわね」

 と、娘。

「保険の備蓄用がある程度たまれば、収穫したのが全部売れるから、大学卒する頃には、1000万は行くよ、治癒」

 と、婿。

「蕎麦と野菜と椿油入れれば在学中は+1200万以上だから。とりあえずは、年末100万家計に入ります(夫婦手取り各50万ボーナスとして)。が、年末年始の用意と、歳暮でかなり消えることでしょう。付き合い増えましたからね。残金で、念願の食洗機と、対応食器を買いに行きましょう(夏は予算が余らなかった)」

 と、娘。

 すっかり、しっかり者に育ってる。

 家族というより、共同経営者兼同居人的だわ。

「対応食器?」

 と、婿。

「洗えないのがあるのよ。普段使いの、茶碗湯飲みなんかの陶器は、ほぼ大丈夫なんだけれど。汁碗(木製)、箸(竹製・治癒パパ作)とかは対応してるのに差し替えましょう。好きな奴を値段は度外視で、決めてください。エターナルをかけるので、死ぬまで使うことになるから」

 と、娘。

 え、使えない食器あるのね。全部洗えるかと思ってた。

 食洗器は業務用以外は大きいのでも5人用ばかりで、娘は不満そうだったけれども。なにせ、犬もいるし、そのうち、孫が増えるだろうし。今、大人四人だから。


 結局、8人用ビルトイン食器洗浄乾燥機を、設置費込みで、25万円で購入、と。

 高いわ。前回のご予算では無理だったわね。 ボーナス、ほぼ残らなかった。使い切ったわ。

 あと、私は免許を取りに行かされた。

「今、父さんしか配達できないから。風邪とか、怪我とかしたら、詰むのよ。私たちは年齢制限で、3年ぐらいは車の運転できないわ。必要経費として運営費から出すし、ワゴンタイプをもう一台、購入することにするわ。こっちも運営予算で。蕎麦の実のおかげで、今なら買えるから」


 言われてみれば、すごい綱渡りだったわね。

 言われないと気が付かないって、最悪だわ。



 そして最後に娘は言った。

「仕事とプライベート、家庭がぐちゃっとしていて、休みがないから年12回の『全休暇』と年3日の『病気用休養』作ります。年間作業分担表と、週一日休暇制を導入。これにて、私たちが高校・大学に在学している間の、農地運営計画予定とします。お母さんは、家政管理で、抜けにくい感じだっただろうけれども、新しい洗濯機、ロボ掃除機、食洗機、これだけあれば、週に一回、夕方か夜まで遊びに行っても、なんとかなるから。とはいえ、遊ぶより前に、運転免許とってきてほしいけれど」



 ほぼ毎日、夫に自動車教習所に送ってもらい、私は三ヶ月ぐらいで、免許とれました。

 切り返し(バックしながら、左右に動かす。主に、駐車、車庫入れで使う技能)、できませんけれど。

夫「なぜ卒業した、なぜできた?」

私「教習所の、普通の車はできるけれど、軽トラは長いから? 難しいのよ」

夫「事故る前に、うちの車で特訓だよ、母さんっ。購入予定のワゴンだって、長いだろ」

私「習った車幅と車長と高さにしてほしいわ。器用じゃないのよ、私は」


 軽トラは後ろが見やすいから、なんとかなったけれど。

娘「ワゴンは、バックしたりするとき、カーナビに後ろが映ってナビしてくれるやつにしよう。ああ、軽トラにも、つける?」

私「やらかす前に、それどちらの車にもつけてほしいわ」

夫「いや、軽トラの方にそれつけられると邪魔くさい」

娘「母さんが、うっかりガードレールの隙間から墜ちてからでは遅いから、ナビつけようね、お父さん」

夫「母さんはそこまで不器用じゃないだろ、って? かあさん?」

私「パニック時はいってしまうかも」

 パニック時に悠長にナビを見るかはわからないけれども。

 そんなわけで、ナビが付いたのでした。

 軽トラも新調するかどうかという話は合ったのだけれど(小型トラックなら、2トン運べるので)、夫は長い付き合いだから、と手放さなかった。

 まあ、免許も、準中型のものを取り直したり、私がそれを扱えるのかという根本的な問題があって、娘夫婦が高校卒業する頃に免許を取得して、妖怪・曾おじいさまが小型トラックの頭金だけ援助していきました。

 エターナルをかけられた、この時買った品々や車やほかの物共々、夫が死ぬ時も、私が死ぬ時も、現役で娘夫婦と孫たちに継承されたのでした。





私「切り返し出来ずに自動車教習所を卒業しました(補習して、その瞬間は出来たけれど??)。まあ筆記は問題なかったので、免許とれました。が。外国人が簡単なテストだけで免許貰えると聞いては、現与党(これを書いたのは高市さん勝利より前の辞める気配全くない石破政権時)には二度と票は入れませんね」

無夜「金と時間かけてるから腹立つのはわかる。治癒ママはきっと、パパが教官より熱心に教え込み、いっぱしの配送員に育つことでしょう」

私「まあ、現代はナビがあるから治癒ママも安心。私は角に置かれた鉢を壊しました(っつーか、私道の角に置くな・・・あんたんちの私道じゃない。区分的に、そこはほかの家の持ち分・・・)」

無夜「ところで、軽トラ、積載量350㎏なんで、1.4トンの蕎麦、どうやって」

私「しーっっ。1トンぐらい積めるけど、操作性がすこぶる悪くなります。事故りやすい。違法です」

無夜「毎週ごとで、月4回(5週目はなし)に分けて運ぶとするかな。380㎏なら、積載量的に、ぎりぎり許容範囲か。あ、、駄目だ、運転してる人間の重さもあるから、完全オーバー」

私「現代物、ローファンタジーは法律がねぇ。まあ、リアルだと、よほど暇なお巡りさんに目をつけられないと捕まらないはず。なんせ、45㎏の袋、9袋程度しか荷台に乗せてない。これで職質するほど、暇じゃないだろうね。荷台のヘリからせり出すほどの荷物じゃないからね」

無夜「勇と治癒が高校時代に準中型免許取得して、小型トラック一台買うまではこれでいくしかないね。治癒ママに小型トラックの運転は、危険。30代後半まで運転したことない人だし。中型免許は20歳からだし、そこまでの配送重量は必要ないから準免許ね。ドンが全額だしそうなのを、勇君が頑張って止めて頭金だけにしてある。ちなみに、結婚祝いの名目。あとは、この治癒の運営計画と休日設定力は、あきらかに軍の指揮官時代に、補助ちゃんとかほかの将軍や目付に叩き込まれてる」

私「魔法とか道具に並ぶ財産だよね、こういう知識とか感覚を得られたことって。それにしても、ドンは財産減らなさそう」

無夜「気が付くと増えてるみたいで、わりと駄目なレベルで周囲に撒いてる」

私「あとは、第一部(言語翻訳機能呪い編みたいな?)では影薄かった治癒ママ。メインになったら、可哀想。これでまだ、30代半ば・・・かわいそう。遊びにいっておいで。パパとデートでもしておいで」

無夜「治癒パパとデートして、楽しいかどうかって話あるからね」

私「ひどいこというな」

無夜「あの治癒ママの悪夢はパンドラの箱で、希望(子供)が手に入った故に、不安で怖い。まあ、すごく簡単に言えば、治癒ママはだから大人になったわけだよ。これは次の話にも絡むよ」


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