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治癒家  作者: 無夜
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闇蕎麦(治癒)

 年に二回、神様からの要望で、人間のいない星で豊饒を祈ることになっている。

 今回は三回目で、前回蕎麦の種をがっつり撒いた。勇君を連れて行って風剣使用して、遠くに拡散し、水剣で水をたくさん撒いて貰った。

 そして、それが収穫できるところで、豊饒の舞いをさせてほしいと頼んでおいたのだった。


 ということで。

 とりあえず、米用60㎏入る袋しかなかったからそれをもっていく。これだけはたくさんあるから。補助ちゃんと剣君がきたら、一緒にいくことにする。トラクター持っていって。

 労働力は、神との取引で、確保した。

 魔法道具は壊れない限り、充填しながらなら使用可能、私たちが生きている限り、は。

 あちらの星の回復を優先したい神が、大盤振る舞いに認めてくれたため、剣君と補助ちゃんも喜んでいた。

 あとは、どのみち、あの星での豊饒のご奉仕は、子供ができるまで、なのだそうな。

 子を産み落とすと、親になって、神との交信が出来なくなる、らしくて。

 よく聞く、巫女が処女必須なのは、そういうことらしい。せっかく託宣する人を決めても翌年にもう声届かない、というのはせわしないから、嫌だと。それでも、10ヶ月の猶予があるからましで、男は自覚ないところで、子供出来て、ぷつんと連絡採れなくなるから、論外、らしい。

 私は高校卒業したら、大学に通いながら、産むつもりでいる。

 だから、4年かそこら。ここでの奉納の舞いは8回分ぐらい。

 初回は勇君の身柄確保。

 二回目は、魔法道具の永続使用権。

 今回は蕎麦の実を刈りまくり、でいいかと思ったけれど、釣り合わないからと、収納の腕輪の容量を広げてくれた。

 補助ちゃんのは、もともとそういう魔法系だったからか、彼女のだけ4畳半ぐらいのサイズだけれど、私たちは掃除用ロッカー2つ分ぐらいだった。それでもとってもありがたいけれど。

 私たちが面積4畳半程度、高さ180センチぐらいの容量になって。

 補助ちゃんは8畳ぐらいで、高さ250センチぐらいの容量になったって。

「あ、これ、母さん達の高額美術品、そこそこ大きいのの、輸送やれそう」

 密輸入とかすごいできそう。

 やらないだろうけれど。

 前回と今回の報酬だけで、年に二回、蕎麦報酬もあることだし、十分だよね?




 私が舞い踊っている間に、交代でトラクターで、蕎麦を収穫する人と水の剣で水を出している人で別れている。

 勇君50回ぐらい振るっても問題ないけれども、畑の結界とかのために少し魔力温存するから。

 剣君も相性はそんなによくないけれど、半分の量ぐらいの水は出るから。

 補助ちゃんは魔力量が一番少ないので、10回しか振るわない。ただ、水の量は一回一回は、剣君より出る。たぶん、勇君の8割ぐらいに迫る量出てる。

 この星、水気が少ないそうだ。

 魔法は無から何かを出せるから、資源が増えてありがたいらしい。


 で、トラクターをみんなが半日走らせて蕎麦を刈り取った。

 神があまりに私たちの欲のなさと、資源がもっていかれるのも困るからと、トラクターで刈った分は、実とその他をばっさりと分けてくれたので、腕輪に収納、それぞれリュックに麻袋1袋分入れ、トラクターに麻袋10詰んで、帰還した。

 蕎麦の実、約20トン。

 ちなみに、一袋は45㎏前後になる。米より軽い、からかねぇ。

 持ち帰った袋は445袋。はー、500枚もってきといてよかった。

 一人22袋、リュック1袋、で、3人で、69袋しか持てなかったよ。治癒ちゃんが48袋 自力だと、127袋しか駄目だったんだけれども。

「何度も往復させるのも、しのびないというか、無駄なので、残りはそこの円内に詰め。一緒に送ってやるから」

 と、いうことで、持ってきたねっ。

 代わりに、三カ所の名前と住所を渡されて、蕎麦粉にして送るように言われた。10㎏ぐらいでいいから、一度に60㎏は送るな、と注意されて。

 それで、半分以上、こっちに蕎麦を送って貰えるなら、安い。

 

 うん、送り先は神主さんとかそういうところだった。名前はわからなくても、○○神社御中ってなったら、わかる。

 海外の、信者?には、自分で送っておくって、神様言ってた。



「そば粉にするのに、石臼あるけどさ」

 庭に蕎麦の袋が詰まれたのを父が呆然と見た後、石臼をとりにいった。

 勇君剣君がついていく。

 倉庫(蔵)にそんなのあったんだ。

 重いけど、勇君の腕輪に入ったので、ブルーシートを庭に敷いてから、出して貰う。

 犬たちが気にしてる。

 跳ねて伏せって、まあ元気。

 男子組が石臼回すのやりたがるので、父さん含んで任せた。

 母さんに、そば粉で何か簡単な料理はできないかと聞きに行き。

「蕎麦掻きなら簡単だけれども。それだけじゃ足りないでしょう」

 まあそんなこんなで、広い台所で、三人で食事の支度をした。

 いつもは、なんでこんなに広いの、使いにくい、と思ったけれど。この人数だと、ぶつからなくていい。

「昔は、なにかあったら、女衆が集まって料理作ったのよ。広間使って、人呼んでね。戦前はお手伝いさんだっていたんだそうだから。お父さんの、おじいさんの代になったとき、だったかしら。田んぼ二人兄弟で分けちゃって。『たわけ』っていうじゃない。馬鹿やったわよね」

「それで、7トンしか採れない田んぼになったってこと? 継いだ親戚と田んぼはどこに?」

「竹林になってるわよ。東京で一当てする、って出て行ったきりで。だったら、所有権兄に返せばいいじゃない。なのに、持ったまま。へたにいじれなくて、帰ってこないまま、荒れてあんな感じ」

「それ、私も聞いて平気ですか。ものすごく、内輪の、楽しくない話では?」

「聞かれても、問題ないわ。集落の人たち、だいたい、知ってる、かしら? まあ、伝えてるところは伝えてるわよ。年寄りは知ってるわ」

 薬味を作り、サツマイモやナスを揚げ、大根おろしとからめた豚しゃぶのようなものを大皿に盛った。

 大きい空の丼を人数分と、沸騰したヤカンを持っていく頃には、大きなボール二つに山盛りの蕎麦粉が置かれていた。

「こんだけありゃ、全員分にゃなんだろう」

 と、父さん。

 そして、母さんが、

「そうね。じゃ、この蕎麦粉を丼に入れます」

 指導し始めた。

 みんな言うことを聞く。

「熱湯を注ぎます」

 熱湯を注がれた。

「練ります」

 木のスプーンが配られ、みんなで自分のそば粉を練り練りし始めた。

 無言で。

「だまにならないように」

 ゼリー? 粘土?

 粉っぽさをなくした茶色いそれが、出来上がる。

「鰹出汁と、つゆの素があるから、好きなのをかけて、薬味も好きなので、食べて良いわ」

「これで完成?」

 え、簡単とは言ってたけれど。

「味のついた汁につけたら完成よ。楽なもんでしょう」

 母さんが見本にと、自分の丼につゆの素を入れ、ネギをかけた。

「こんな感じ」



 食べてみた。



 蕎麦の塊、みたいなもんでしょと思ったけれど。

 その日刈って、その日に引いて粉にして、混ざりものなしで、ただ湯で溶かして固めたから。


 すごい、『蕎麦』の味と香りがする。


補助「美味しい」

勇「初めて食べた」

剣「めっちゃうま」


 ここまではまあいい。

「こりゃうまい」

 と、父さんが言った瞬間、母さんが不機嫌になった。

「そ」

 簡素な返事が返った。

 私たちは、そしてなぜか父も、そういった気配に敏感だった。

「もちろん、いつもの母さんの飯うまいよ。今日の、ナスの揚げ物も、すごくうまいっ。すげぇ。こいつだけでも、何杯でも米の飯食えそうっ」

 年の功、という。

 父は、最短の正解ラインを突っ走った。

「そ」

 同じ返事だが、声音が明らかに、軽やかになった。

 一文字の返事なのに。これほどに?


 我が家は亭主関白と信じてきたけれど、違うのかも知れない。


 この出所不明にしなきゃならない蕎麦粉は、補助ちゃんの口利きで神奈川の料亭を頼った。

「鱧にケチ付けた料理人さんがうちの祖父母(父方)に援助されて、京都の店やめて神奈川で店だしたから顔だして、ご意見を、って言われたから、こうつらつら言ったら、土下座されたの」

 何したの、補助ちゃん。

「ランチ営業に蕎麦もあったから、いけると思う」

 その場でスマホから連絡して。

「お嬢様の舌をうならせる蕎麦の実なら、ぜひっ」

 という男性の声が聞こえた。

 ついでに、米と季節の野菜もご購入という、定期なお客様になった。

 蕎麦粉の方は料亭懇意の蕎麦精製する工場?におろしている。ついでにお蕎麦(生)になったのを貰ってきている。

 蕎麦粉屋さんはほぼ引退しかけていても、本職なので、毎月1.4トン購入してくれている。精製すると蕎麦粉1トンぐらい。

 蕎麦はすごいね。

 蕎麦の実、㌘0・7円ぐらい。送料込みで、月100万円だもの。

 え、米?

 玄米は㌘0・4円ってとこ。

 保管しておく蕎麦の実や蕎麦粉は勇君が封印している。便利だよ、封印。時間停止もできるから。収納と違うのは、場所をとるってことだけど、土地はあるからねー。 

 神奈川(料亭)と埼玉ドンのいるホームに週に二回、配達にいっていて、行商っぽいな、と思った。


 書いたときはこんなんだったが。

 いろいろ変わったな、今は。。

私「闇米ならぬ闇蕎麦かー。㌘いくらは、まあなんか適当。本職の米の二倍なのが切ないよね」

無夜「それはともかく、あやうく治癒ママが闇墜ち」

私「あれはなぁ。治癒家の食事全部作ってるのが治癒ママだからねー」

無夜「いずれ、補助と治癒が子供を持って、よその人に「どんな料理が一番好き?」って聞かれて『お茶漬け』『ふりかけ』とか答えられた時に、真実に、治癒ママの超不快感に気が付くであろう」

私「子供なら、まだ許せる」

無夜「旦那はギルティ」

私「即、正しい方向に走った治癒パパ、えらいというか、やっちまってるな、過去に」

無夜「人間って、おろかですよ」

私「ところで補助ちゃんは、なにしてんの?」

無夜「昨年夏に駄目だし喰らった料理人は、神奈川に店を出し、リベンジ。鱧コース料理を振る舞うと補助から『ああ、今回のはいいわ。前回みたいに、油を使い回してほかの臭いがついてるなんてのもないし、酸化してないから、衣がくどくない。冷ましの速度が足りなかったせいか、べたつくのに味むらがあって不快な舌触りだった酢飯のせいで乗せた鱧が台無しだった前回に比べ、今日は残らない(不快アンテナにひっかからない)。すんなり食べれる』と、評価したので、本物だと料理人が土下座した。昨年は申し訳ありませんっ、て」  

私「プロ、泣きそう」

無夜「お店の経費削減方針で、油何回も使ったり、酢飯仰ぐ人手と時間足りなかったりしたので、料理人もイライラしていたところで、子供に『こんなの食べるために新幹線乗らされたの』って激怒されたら、プライドもへし折れる」

私「どっかの店の裏側見てきたんですか、無夜ちゃん」

無夜「やだな、私ちゃんが見てないのに、無夜が知るわけないじゃない」


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