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治癒家  作者: 無夜
3/8

犬を引き取る(父)

犬の、可哀そうな描写があります

 そして、高校が始まる前の春休みも終わり近くに、

「お父さん、保健所に犬貰いに行くから車出して」

 と、娘が言った。

 犬、やだよ。

「お父さんは、子供の頃、大きい犬に噛まれて血まみれになってるから、犬怖いのよ」

 と、妻がばらした。

「怖くはないよ。嫌なんだよ」

「なんの犬?」

「土佐犬だった」

「じゃ、土佐犬以外にするから」

 ぜんぜん意味がない。

 犬が、嫌なんだ。

 だが、実権はすでに娘にあり、仕方なく軽トラで近くの保健所に行った。

 せめて、こう、しゅっとした感じの、肩が厳つくない犬がいいなあ。小型がいいなあ。

 と、願った。



 保健所の人は、大きい犬が欲しいと娘が言ったら、警戒した。

 たぶん、引き取ったはいいが、やっぱり無理とか言いだして、戻ってきたというのを何度も体験しているのではないか。

 畑や田んぼを守るように、キョンや猿、烏なんかを追い払ってほしい、という説明で、警戒の空気はほどけた。まあ、烏なんかは出ないんだが。烏が居たら、飛ぶイナゴみたいなセキセイインコとかはここにこないだろう。

 娘と婿が「オーガが近くに三匹住むか、1000のゴブリンの群れがいるか、どっちがましみたいな感じよね」と、インコの群れみて話していた。

 小型犬や仔犬は、譲渡会をする団体などに引き取られていくらしく、数はそんなにいなかった。

 その団体に対しても、職員さんたちは含むところがありそうな感じだったが。

 で、見た中に、なんでかコリー犬がいた。

 え?

 捨てるの? こんな高そうな犬。

「あー、コリーだ。牧羊犬だね。畑守れるかしら」

 と娘も気になったらしい。

 職員が、ちょっと気まずそうに言った。

「向いてないと思います。広範囲の田んぼや畑を見させるなら、放し飼いに近いことになるでしょう。そうなると、この犬、人間に対して・・・、ああ、いや、なつかないので、・・・危険です」

 職員さん、良心的だな。

 娘はかまわず、

「来なさい」

 と、通る声で命じた。

 側にいた職員さんが、はじかれるように一歩踏み出した。

 娘の声は、通る。

 命令が、すごく通る。

 一緒に来ていた婿が苦笑する。

 檻の中の、コリーが嫌そうに鼻に皺を寄せて、それでも近づいてきた。

 檻越しに娘は手を入れて、その後ろ頭、首のあたりに触れて。

「貴方を、連れて行くわ。主人が誰か、理解して」

 ざっと、犬が伏せた。

 尻尾をまたに入れて、がくぷるしながら、そして目が、顔が、絶望とかとっこして、諦観というかもはや何も望まない虚無な感じになっていた。

「いや、待って。なんでこんなに絶望色の目になってんの」

「人間が嫌でたまらないから、私のものにされると決まって、心閉じたのね。いいよ、私に閉じても。勇君がなんとかしてくれるから。これ、今日引き取りますね。あと子犬で、大きくなりそうな仔、見せてください」

 ということで、三兄姉妹がいたので、それを三匹とも貰った。ゴールデンレトリバーの血が入っているらしく、顔は確かにそっちっぽい。黒、金、白、だった。

 軽トラの荷台に犬は載せられ、婿が犬を見るので後ろに乗り。

 職員が「荷台に人載ったままで道路はしって大丈夫だっけ」と、道路交通法を心配してひそひそしていたが。

 荷物見るなら、押さえの人員荷台に乗せて走るのは、オッケーですよっ。荷物、犬だけれどもねっ。

 来るときも婿、荷台にいたけれども。



 「犬飼うのに必要物資購入するから」と帰る途中ホームセンターに寄るよう言われ、駐車場に止めると娘と婿が店に駆け込んで。

 俺は運転席から、荷台に乗り直して、つながれた犬を見ていた。

 不安だろうな、と。あと、寒くないかな、と思ったので。

 コリーは一匹で黙って伏せていて。

 三匹は纏まってきゅんきゅん鳴いていた。

 かまってほしがるから、三匹を撫でたりして時間を潰す。小さければ怖くないな。

 たまにコリーがこっち見る。

 20分程度で、二人はそれぞれカートを押して帰ってきた。

 荷物を荷台に載せて、婿がカートを戻しに行き。

 娘は手慣れた様子で、荷物をゴムで固定していく。

 長く農作物売りにいっている俺より手慣れた感じがある。

「そういうのってさ、どこで覚えてきた」

 俺が何度目か問う。

 いつもははぐらかすか、どうでもいいでしょみたいな答えなのに、気が散っていたのか。

「馬車の積み荷の固定、よくやってたから」

 と、答えが返った。

 荷台に載った婿が動けるように片側や奥(運転席側)にまとめて、犬たちも荷物の隙間に入り込んだりしないよう、縄を調整した、ところで婿が帰ってきた。

 そこから先は、問題なく、帰宅、ではなく。

 動物病院に寄って、

俺「マラリア?」

医者「フィラリアですね」

 聞き慣れないので、聞き間違った。

 まあ、そんな予防接種を受けた。

 狂犬病は予約で、来週。

 一気に打てないんだな。

医者「蚊が出始めるので、こっちを先にしました。おうちで飼うなら、そうそう狂犬病にかかりませんが」

俺「なら打たなくても」

医者「打つのは犬を飼う人たちの義務ですからね。かかったら取り返しつかないんですよ。あと、首っ」

俺「首?」

医者「コリー犬の」

娘「知ってます。だから、今日引き取って、ここに直行したの。お医者さん、やってもらえます?」

 そんな会話をしながら、さくさく子犬もコリーもワクチンを打たれ。

 婿が窓口で精算していった。

 金、どっから?

 あ、大妖怪からもらったやつか。

 でもあれ、制服代とか、まあなんだ、高校で使う文具代とかそういうのの足しにする奴だろうから。

 娘にひっそりと、

「今回の犬のいろいろの金、どうしてる?」

 と、心配した。

「勇君に一括で立て替えて貰ってる。4月末に経営簿から、かかった費用の2割ずつ返金、って形にする予定。私が貰った曾じい様からお小遣いから出しても良いんだけれど、家業に絡むから、こっちから出して、計算する」

 ちなみに、家計と経営簿なるものなぞ、俺の代では(親たちの代も)一緒くたで、税務署から問い合わせの書類がくるたびにてんやわやだったのを、婿と娘が完全に分けたのだ。

 で、家計は、生活費を渡された妻が管理して。

 農業に必要なものは、娘が管理して『経営簿』になる。

「っていうか。なぜ今までわけてなかったのか」

 獄卒みたいな声出すな、若い娘のはずだろうに、おまえは。



 医者はハサミを持ってきて、コリーの首の毛をかき分けた。

 それからバリカンでその周囲の毛を刈り取って。

 現れたのは、首の肉に食い込む、首輪だった。

 普通に、複数ある穴に突起を入れて調整するタイプだが、はずすには、若干とはいえさらに締めなきゃならない。

医者「切っても?」

娘「かまいません。お願いします」

 医者はハサミを入れた。

 ぎゅんっとかぎゃんっととか、コリーが呻き鳴き、皮? 合皮? のそれはばちんっと切られて。

 だが、肉に食い込んだソレはもう、肉に融合していて。

医者「こりゃ、麻酔かけてとらないと難しい」

 コリーの声を聞いて、ほかの犬たちがたいそう怯えて。

 麻酔が効けば、15分程度の手術の最中。

 怖いこわいとがたがた震える子犬たちを三人で一匹ずつ抱いて宥めた。

 エリザ?を貰い、麻酔が切れて、ふらふらしているコリーを荷台に載せて、ようやっと、家に戻った。


「医者のところが、すごいお値段だな」

「保険効かなかったからね。ペット保険、勧められたから入っておくね」

「あんなになってたの、知ってたんだな、おまえは」

「首の後ろ触った時にね。首締まって苦しいまま、そんで殺されるのは、可哀想だったから。あ、お父さん、犬相手に、助けて遣ったとか、そういうの、理解できないから、人間嫌いは治らないと思って接してね」

「この襟座?」

「エリザベスカーラー」

「なんか邪魔そうだよ」

「傷弄らないようにしとかないといけないの。まあ、私でもベルト剥がせたけれど、専門家はやっぱり傷が綺麗ね」

 犬用粉ミルクを湯で溶かして、飲ませた後で。

「さて、やりますか」

 と、娘。

「用意したよ」

 と婿。

 庭に4匹を並べた。

「まずは、毒下し」

 犬たちは、達観したコリーさえ怯えてがくぶるした。

 お漏らし、みたいな排泄と排尿。涙がぶわっと出て、茶色く目元から鼻の横まで汚れている。

「コリーの方はお腹に虫いるね。5日後、お腹下すのだけ、もう一回しようか」

 排泄物を確認しながら、婿。

「劣悪な環境に居たみたいね。はい、清浄化」


「俺にやったみたいな、傷治しもしてやれるんじゃないか?」

「あれをかけるから、お医者に傷の処理してもらったのよ」

「僕らじゃ、傷に異物食い込んだままにしちゃいますからね」

「ダメなのか」

「傷が異物入ったまま閉じると、化膿したり壊死したりしますから。そして、異物を含んだ傷のまま、それを正常な回復した状態と体が認識してしまうので、駄目なんですよ」



 そして、無惨な首の傷は4割方治った。

 傷が付いたばかり、ならすぐに治るそうだ。

 だが、この傷は治ろうとしても、首輪という異物が邪魔で治らなかったため、傷や体が正しい時の記憶を失った、らしい。

 娘は「三日後にもう一回かければ、ほとんど塞がるでしょ。回復の魔法も連用は駄目だしね」

 と、言いながら、コリーの首に包帯を巻き直した。




 狂犬病ワクチン打って、その後また期間をおいて、混合ワクチンも打った。鑑札も貰った。

 獣医は首の傷を見て

「思ったより早く塞がってる。若いからかな。良かった。一応抗生物質、もう少し出しておきますね」

 と、鼻に皺を寄せてるコリーを撫でるように押さえつけて言った。

 コリーの場合フィラリア予防注射だけで、1万円だ。大型犬だからな。

 保健所で貰ったから、犬たち自体は無料だったが、ほかの金がかかるかかる。

 犬用ミルク、ドッグフード。トイレシート、犬小屋(使わなかったな、玄関に毛布敷いて寝るようになったから)、檻、爪切り、毛刈用バリカン、ノミダニ忌避剤、ほか犬用云々等々。

 まあ、犬たちはそれなりの効果はあって。

 集落に出没していた猿が、とりあえずうちの犬見ると山に逃げ帰っている。

 人間が怒鳴ったり、棒を振り回しても、全然余裕だったのに(憎ったらしいよな)、やっぱり犬は嫌なんだろう。

 他の仔たちは全力で尾を振るせいか、コリーの愛想のなさは際立ったが、あんな目にあっていては仕方ない。それに。愛想はないが、散歩行くかと言えばついてくるし、撫でても怒らなくはなったし。傷も塞がって、ごつい革の首輪もつけられ、毎回首輪の中に指入れて、苦しくないか確認したりしながら。


 まあいいんじゃないか。


 と、思ってる。



 ★


「父さん、即墜ちだったよね。犬嫌だ言ったのに」

「墜ちてない。そらっ、パパと散歩行こうか」

 犬4匹にリードをつけて、散歩と称して集落の知り合いに見せびらかしに行っている父を、娘がなんだろ、この人、みたいに見たが。

 仔犬が成犬になっても、夕方の散歩はやめないので、まあいいかとほっておいている。運動は、父にも必要だし。

「パパだって」

 娘にも呼ばせたことない単語だった。

「ペットに填る程度なら、いいじゃない」



私「昔、トリマー学科の教室? か、何かでみた写真だねえ。首輪が食い込んでる犬のやつ。何枚か写真あって、犬種が違ったから、わりと多いんじゃないか、って」

無夜「子犬の頃から、替えてないってことだよね。こわっ」

私「子犬の頃はかまうけど、大きくなったら興味なくして、気が付かないのか、トリミングに金出す程度に可愛がってるなら、さっさと気が付けばいいのにって、思った」

無夜「読んだ人が、あそういえばって、首輪に気が付いて、一匹でも楽になりますように、と。まあそれはそれ。犬、最初、庭に小屋置こうかと思ったけれど、昼は庭で放し飼い、夜は玄関内(この手の家の玄関すごく広い)で寝てる。家には上げない、感じにした」

私「番犬用の大型犬だからね、お座敷にはあげない。レトリバーとかは、畳掘りそう。とはいえ、外においておくと猿の集団に夜中襲われても怖いし」

無夜「やつら、群れるからほんっと怖い」

私「ここんちは、勇がいるし、治癒パパが即墜ち2コマレベルでめろめろしているから、犬たちはそれなりに幸せに生きていくことでしょう。鳶とかも幸いみかけないし。半おうち飼いだから事故らない」

無夜「獲物として連れ去るからね、猛禽は」


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