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治癒家  作者: 無夜
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椿の種(父)

 豊穣の力をあまり吸わずにとれた種と、今回、たっぷり吸った種。

 前者は近くの住民が外側のを少し持って行ったので、80㎏ぐらいとれる。家をぐるんっと囲んでいる生垣なので日当たりなどにもより、こんなもんだ。昔はもっと持っていく集落の人が多かったが、今はもう三人ぐらいか。笊を持って、それぞれ3~5㎏分ぐらいもっていく。

 代わりに干し柿や切り干し大根なんかが届く。

 集めて外の殻を向いて、中身は25㎏ぐらいに減り。加圧(衝撃波という魔法を使った)して絞ると、椿油が3㍑とれた。以前までは2.4㍑程度だったが、豊饒を少し吸ったのだろう。

今回のは、一つ一つ実が重く、家族総出で集めて、殻を剥いて。

 とれたのが、9㍑。常の三倍以上。

 梅酒用のでかい大瓶に充ち満ちた。

 すごく、気持ち悪いな。

 感覚がおかしくなりそうだ。

 これが何年も続いて。

 恩恵が当たり前になって。

 唐突に、なくなる。


 その先は地獄だろうな。



 迷路じみた結界やら封印やら。

 婿は娘の力を制御していた。

 広がらないように。

 かかりすぎないように。


 その力、本当に正しい何かがくれたのか?

 不安すぎる。


 その愚痴を、娘の友人の父親に愚痴って、聞いて貰って、すこしだけ安堵した。

 聞いて貰いたかったのだなあと。

 妻は、受け身で、ある種あきらめが早くて。

「強い者に巻かれます」

 はっきり言い切りやがった。

「つやつや。すごい櫛通りいい。うふふふふ」

 結婚したときに渡した柘植の櫛を椿油に沈めたりしながら、ご満悦でほかはどうでもよくなったらしい。

 それから、鹿キョン肉で機嫌が良い。

 そういや、昔、ばあちゃんが『布団売っても鹿肉食え』って諺あるんだよ、とか言ってたな。日本鹿、昔はもっと簡単に狩猟していたみたいだが、このあたりから見なくなっていた頃に懐かしそうに。


 小さめのジャムの瓶に入れて、娘達は椿油を友人にあげていた。

 娘、それ一応高級油だぞ。使い終わったジャムの瓶で配るな。

「でも、本体も梅酒用の瓶じゃない」

「ほかにでかい瓶なかったよ」

 100均で、新しい綺麗な瓶を買ってきて、300mlぐらいずつ、40本にして結納絡みの人にも配った。

 その後、ホームセンターで、まとめてもっと安く瓶を買った。

 娘達の高校の制服ができあがって、婿が「曾じいさまに見せに行きたいです」と言ったので、そのときについでに納めた。

 あの爺さんが、金銭感覚おかしくて、長と副長が結納のあとで、「これ貰って平気なんだろうか」と恐々と聞きに来た。長に200万、副長に150万、懐に滑りこまらせられたらしい。

 結納で、けっきょく、周囲に配った小樽(酒)と餅(あとあと聞いたら現金で1万円仕込んであったらしい)も含めて、トラクターも入れると一五〇〇万越えの金を撒いたのではないかと。

 で、この時も。

「よく見せに来てくれたね。学ランか。今時珍しい。我が曾孫ながら、りりしいな。嫁ちゃんはブレザーか。うんうん、清楚だ。二人とももっと背が伸びそうだから、丈が合わなくなったときように、二人まとめてで悪いが、制服代だ、曾孫に預けておこう」

 一〇〇万、入った封筒だった。

 爺さんっ。

「税処理済みだから、安心せよ」

「ありがとうございます。卒業・入学祝いと、教科書代と制服代ひっくるめてということで、いただきますから、高校三年の間は、これ以上の金銭はよくありませんので、ご理解ください、おじいさま」

 偉いな、婿っ。苦笑いしながらきちんと釘刺した。三年分、二人に、っていうなら、ぎりぎり、まあ、許容範囲な金額か?

「金ぐらいしかやれん老いぼれですまないな」

 よよよっと泣く振りしている大妖怪。

「いえ、お気持ち、大変うれしいです、おじいさま」

 と、婿が曾祖父の手を握っている。

「ただお金は、人を駄目にもしますので。ええ、もう本当に。補助ちゃんからそれこそ、びしばし言われてますから、ご容赦ください」

「金持ちは、金の怖さも知っているからな。おまえたちも、この程度の金で壊れないだろうに」

「普通の中高校生はおかしくなりますからねっ」

 その妖怪に、ちゃんと教えて遣って。



 その後、半分もっ、娘に渡して、5万円を俺に渡した。

「ガソリン代としてです。何回か、やはりホームに連れて来て貰うことになりますから。両親のいない僕に、あの方、生きている限り親をやってくれるつもりらしいので。お金持ちも多いですし、たぶんいい取引相手になると思いますよ」

 その通りで、ここは農作物の買い取り主として一番の顧客になった。まあ、老人ホームという企業だったから一度の取引量が大きい。


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