婿がきた(父)
「異世界から帰ってきた」の続編?なのでそちらからお読みください
なんということでしょう。
政権交代で、いろいろ農家の補助制度とか変わるかもしれません。
そうなると、この露骨にリアル農家、魔法で立て直しな物語が、出せなくなりそう。
ということで。
きりのいいところまで出しまくすね。
ローファンタジーの、つらいところですねっ
補助師。女。11月生まれ・誕生石はトパーズかシトリン。
召還者
生活魔法的なものを得意とし、兵站を指揮し、補助魔法を剣士にかけようとして、敵に片目を潰されるという目にあう。
策士・軍師な立場で金勘定好き。
天敵は茸型毒モンスター。
元の世界に帰れば、一応、お嬢様である。彼女が出ると祖父母二組と兄カップル(のちに夫婦)が高頻度で出てくる。まあ、中高生なら保護者出てくるよねー。
(賢者のような立ち位置)
治癒師・女 12月生まれ・誕生石・ラピスラズリ
召還者
補助師の親友。ずっ友。勇者と恋仲。
魔王討伐遠征軍の総指揮官でもある。
魔王軍によって傷ついた者と世界を癒す力が強く、豊饒の魔法も持つ。
(聖女のような立ち位置の女武僧みたいな)
彼女の家が基本舞台
勇者・男 3月生まれ・ 誕生石・珊瑚
召還者
魔王に対して攻撃が通りやすい。
得意なのは、結界魔法。
塹壕を作るのが得意で、塹壕大臣。
毒親のせいで家で飼い殺しにされそうだったので、治癒師のところに婿入り予定(確約)。現在養子縁組済。
(勇者のような立ち位置、っていうか勇者だわ)
剣士・男 5月生まれ・誕生石・翡翠
召還者
特攻隊長。得意魔法はサーチ(偵察・鑑定みたいな魔法)
補助師に告白するが「空気に流されてるんだよ」と、保留され、保留され、その上、自分のせいで目を大怪我され、彼のメンタルは本当、よくもったなっ。
打たれ強い。そして恋人に。
(立ち位置は斥候と特攻、前衛職らしい剣士)
治癒家
パパ・ママ
娘からの暴力(拷問)にて、家督を譲り渡した
おっといけない。
娘からの説得で、家督を譲り渡した。
娘に婿が来てから、生活が一変した。
正しくは、あと三年は結婚できない年齢だったからまだ養子なのだが、娘と結婚するのは確定のようだ。結納もすんでいる。戸籍にも入れた。
『離れ』に夫婦は追いやられ、母屋は娘達にぶんどられた。
「忙しくて手入れしてなかったから」
と、妻は嬉々として『離れ』を整理整頓、手入れを始めた。
妻の仕事は、以前は『家事大半』と『農作業』だったが、今は全員(4人)分の食事を三食作るぐらいで、あとは住まう『離れ』の掃除だ。ずいぶん楽になった。
掃除だって、ロボット掃除機を畳用と板の間用が一日おきに走っているので、はたきで掃いたり、窓硝子を拭くとかぐらいだ。
俺もすることがなくなってしまった。
なので、妻に言われるがまま、家具をあっちに移動したり、布団を干したり、と住まいの整えをした。
農作物の販売、集落での物々交換だけはやっている。
販売は、麓の、馴染みの八百屋三軒に卸すだけなのだが娘達はまだ車動かせないから。
「量と種類がずいぶん増えたな。こっちはありがたいけれど」
「娘夫婦が新しい栽培試みて、今のところ成功しているからだ」
と、説明している。
稼ぎが1.5倍にはなっているので、文句のつけようもない。
集落と自分のところに回したらもうほとんど残らなかった米も、700㎏は余った(200㎏近くは結納の御礼であちこちに配った)ので、それも卸したら、しばらくしてから「この米、美味しいから、割高でも融通してほしい」と三軒から言われた。
うん、確かに、美味い。
でも、その理由が、魔法だけれどもな。
新年を迎える頃には、かつかつだった経営が、黒字になっていた。
結納できた、婿の曾祖父さんのいるホームから、野菜と米の定期購入契約が来て。
里芋、大根、キャベツ、タマネギ。
収穫を終えた田んぼで育てた里芋が、なんでこんなに早く、収穫できるんだ?
大根が、以前とれたのより2割ぐらい重い。
トラクターで、土を耕すのが楽になった、とかそういう理由では追いつかない。
娘が
月に一度
見知らぬ装束を着て
見知らぬ舞いを舞い
聞いたことのない歌を歌う
あれは
なんだ?
誰だ?
暴力よりも
拷問よりも
それが怖かった。
未知の。
理解できない恩恵? 恩寵?
あとで酷い取り立てがくるのではないかと、眠れない日々を過ごしていた。
そして、正月、生け垣の椿が雪の中で深紅の花をつけた。ぽつぽつと、ではなく一斉に。
いつもなら、花が咲き始めるのは二月の後半なのに。
そして、半年以上かけて、実が熟していくのに三月になろうかという頃には、実が落ち始めたのだ。
経験則が狂うのが怖い。
住まいの、よく見知ったものが、違う季節感覚で動くのが、怖い。
寝付けずに朝になってしまって起き出すと、娘達が庭で喧嘩をしていた。
ああ、よく見れば、稽古、なのか。
二人ともジャージを着て、娘が横から蹴りを入れ、婿が受けて脚払いをし、娘が重力などないかのようにふわりとよけて、舞踊のように。
たぶん決まった型なのだろう。
そんな習い事などさせたことはないし。
どこで覚えたのか。
不安。
それが消えるのは、娘に怒鳴ったり、殴り合っているときで、娘の不満そうな顔は、よく知る娘そのままだったから。
笑った顔?
ずいぶん長いこと、見てなかったから落ち着かない。進学を許さないと言ったときから、娘は笑っていなかったから。
組み手のような、稽古のようなものは終わった、らしい。
手を振って、二人は別れ、妻が起きた気配がする。
しばらすると着替えはしたが、化粧前の妻がぱたぱたと廊下(縁側)に出てきて、
「早いですね」
と、俺に声をかけて、ささっと母屋の台所へ向かう。
化粧前に顔を合わせるのを嫌がる。が、風呂も洗面台も母屋にしかない。
娘も台所にいったようだ。
俺は手持ち無沙汰で、婿についていくことにした。
娘より婿の方が、俺を不安にさせない。
田んぼは今、空っぽだが。
2月になって、なぜか雪は田んぼには降らず、剥き出しの土に、レンゲがもうちらほら咲いている。
昼にはミツバチも来ている。花の乏しい時期なので、ここと椿が良質の餌場なのだろう。暖かい時間しかミツバチは活動しない。まだ寒いから。
今は薄暗く、花も埋もれたように目立たない。
「義父さん、そこから先は濡れるので、こないでください」
と、婿に言われて足を止めた。
婿は腕時計に偽装してある腕輪から取り出したコートを着て、フードをかぶり、青い宝石のちりばめられた剣と、緑の宝石をちりばめられた剣を、やはり腕輪から出した。
あれにはどれほどの物品がはいるのか。
まだ暗い、晴れ上がっている空を青い剣で斬りつけるように振ると、消防署の放水車より太く勢いのある水が天へと駆けていく。まるで、竜のように。
そして、このときに、結界が張られてあるというのが実感できる。天井らしきところにぶつかって、水は円状に広がり、落ちてこようとする。
婿は緑の剣を振るう。
水は切り刻まれ、まるで霧雨のように柔らかく地面へと落ちていった。
ああ、これも魔法。
この水はどこからくるのか。
娘たちは俺を不安にさせる。
「聞いたことがなかったから、今聞くんだけれども。なんで娘の婿になってくれたの?」
風がコートの水を吹き散らかして、濡れたはずの婿はもう、霧雨などにあわなかったように立っている。
「娘さんを、世界から守るため」
強いよ、うちの娘。たぶん、世界の方がやられる気がする。
婿が
笑った
「それから世界を
娘さんから守るために」
それはひどくうすら寒い言葉で。
「うっかり、俺の彼女が人類を滅ぼしてしまわないように。滅ぼすという覚悟で滅ぼすなら、俺・・・ああ、僕は彼女の意志を尊重します。人間って言うのは、愚かで、人類というのは、しょうのないものです。小娘一人、制御できると思うのでは? 魔王討伐の報償で、こちらへの帰還にあたり、神々に魔法を一つ、許可されました。でも、正しくは二つ。アンチとかリバースとざっくり表現しますが、つまり『反』とか『逆』です。僕は正として結界と反として封印。娘さんが持っているのは、豊饒と、死滅です。でも、死滅は優しいものですよ。一番やっかいなのは豊饒そのもの。僕の結界は、いや封印はこの所有地のみに豊饒がかかるようにしているもの。換算では、彼女が月1で豊饒を舞うだけで、6倍の実りになる、はずです。一年草の稲や麦、野菜なんかは計算が違ってきますけれども」
空は晴れていて、放射冷却で寒いはずなのに。
彼の結界ないし封印に守られたこのあたりは、マイナス3℃を下回らない。
彼が来てからは、夏でも32℃を超えない。
「人間はおろかなものです。6倍の実り。最初の1・2年は、おかしいと思い警戒するでしょう。5年経てば? 7年では? 農作業する人口も、農地も削減されるでしょう。それで、娘さんが豊饒を『ただやめた』ときに、何が起きます? 簡単に言えば、人類の1/6しか養えない。義父さんは土地持ちで、ずっと田んぼも畑もやってきたからご存じでしょう? 農耕地は潰してしまえば、再度農地にするには時間も金も酷くかかるし、作物はすぐには育たない。一瞬で、神罰的に、全植物枯れ果てて、みんなで滅亡した方がはるかに優しいという、全世界に地獄のようなありさまが広がる。というのを補助ちゃんから聞かされてたので、彼女がこちらに戻るときには、側にいないとな、って思いました」
世間話の延長のように語られる、世界のおわり。
人口に対して圧倒的に少ない作物を巡って、殺し合い奪い合う。
一気になくなれば、長引かず、生物が簡単にただ餓死するだけ。
しかし、1/6という残酷な割合が、長期に渡る人類の殺し合いを、確約している。
「僕は、まあ家族がろくでもなかったので、帰ってこないつもりでしたが、娘さんはこちらに戻って親を説得する、戦うと言ったので。驚きました」
「帰ってこないことも、できたと?」
「そうですよ。一度帰還の儀をして、あのタイミングなら再度戻れば、召還・帰還の儀式者への生命の返還は恙なく行われた上で、僕らは再度、あちらの地に。まあ、二度と帰還できないことになりますが、やれるという話は聞いていましたから」
不安が、恐怖で消えた。
俺は、自分の娘を失う寸前だったのだ。
★ ☆
いやはや、曾孫とその嫁さん二人で、人類なんぞ滅ぼせそうな目をしていたから。
という、ドンの目は確かだったですよ。
そりゃあもう、個人資産で2000万ぐらい都合してしまいますよ。
俺が死んだら終わる楽園なんて、地獄じゃん
という勇も、現実を知っていての言葉でしたね。




