第7話 親友という絆
村の日々は一見、穏やかだった。
朝には井戸端で笑い声が響き、昼には畑で子どもたちが泥だらけになって遊び、夜には家々の窓から温かな灯が漏れる。
でも、僕の心にはずっと影がまとわりついていた。
「おい、ぼーっとするな」
木剣を振り下ろしたヴェルダンが、僕の額を軽く小突く。
「うわっ!」
慌てて避けるが、間に合わない。木剣が肩をかすめて鈍い痛みが走った。
「集中しろ。昨日からずっと上の空だぞ」
ヴェルダンは眉をひそめた。
僕は言い返せず、木剣を握る手を見下ろす。
「……ごめん」
「エイル」
彼は声を低くした。
「俺はお前の隣にいる。何があってもな。だから一人で抱え込むな」
その真剣な眼差しに、胸が熱くなった。
「ヴェルダン……」
僕は小さく呟く。
「僕、怖いんだ。あの黒炎がまた出て、君を傷つけるんじゃないかって」
すると、ヴェルダンはふっと笑って言った。
「傷つけられても構わねぇよ。俺はお前を止める。それが親友だろ」
言葉に詰まる僕の肩を、彼はぐっと抱き寄せた。
体温が伝わってくる。その温もりに、黒炎の疼きが少しだけ遠のいた気がした。
――その夜。
村の広場では焚き火を囲んで、大人たちが真剣な顔で語り合っていた。
「黒騎士を見たという者がいる。北の街道沿いだ」
「魔女が近くの森に棲みついているって噂も……」
「女神の教会も動き出しているらしい」
僕は火の明かりに照らされるその光景を、物陰から見ていた。
背筋に冷たいものが走る。
(黒騎士……魔女……僕たちの村にも、もうすぐ影が迫るのかもしれない)
翌日、ヴェルダンと丘の上に腰を下ろした。
遠くに広がる森を見つめながら、彼が言った。
「この村はいつか戦いに巻き込まれる。黒騎士でも、魔女でも……な」
僕は思わず手を握りしめた。
「そのとき、僕は……守れるのかな」
「守れるさ」ヴェルダンは即答した。
「俺と一緒ならな」
空は群青に染まり、最初の星が光り出す。
僕らはしばらく無言のまま並んで座っていた。
けれどその沈黙は、不安よりも強い絆を確かめ合うものだった。




