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第62話 帰還の報せ

 集落を後にして三日。

 僕とヴェルダンは、荒野を越えた街道を南下し、再び王都の外門にたどり着いた。

 王都の空は薄い雲に覆われていたが、かつての重苦しい黒さはなく、どこか柔らかな青が滲んでいる。

 あの石の祭壇での戦いから、世界の空気が少しだけ澄んだように感じた。


 門番が僕たちを見つけ、驚いたように声をあげる。

「戻ったか! エイル、ヴェルダン!」

 見慣れた兵士の顔に、僕はほっと息をついた。

「ただいま戻りました。レフ宰相代理に報告があります」

「わかった。すぐに案内する」


 王都の石畳を踏みながら進むと、道端の人々が僕らを見て微笑む。

 かつて恐れと不安に閉ざされていた町並みは、今は穏やかなざわめきに包まれていた。

 笑い声、行商人の呼び声。

 その一つ一つが、僕に“守れた”という実感を与えてくれる。


 禁光庁の塔に入ると、青い外套を着た書記官ミルが駆け寄ってきた。

「エイル、ヴェルダン! 無事でよかった……レフ様がお待ちです」

 案内された円卓の部屋では、レフが地図を広げて待っていた。

 灰色の瞳が、僕たちを見て静かに細められる。


「帰ったか。荒野での戦い、聞かせてくれ」

 僕は深く息を吸い、祭壇での出来事を順に伝えた。

 裂け目から現れた“意識体”、双炎の覚醒、そして核を閉じたこと。

 レフはひとつひとつ頷きながら、指先で地図に小さな印を刻んでいく。


「なるほど……魔王は形を持たず、世界そのものに溶け込もうとしている。石の祭壇はその接点に過ぎなかったということだな」

「ええ。けれど、あの声は完全には消えていません。世界のどこかで、また新しい裂け目を生み出そうとしているかもしれない」


 レフはしばし黙り、やがて真剣な表情で僕を見た。

「エイル、君の双炎はそのすべてを照らし得る力だ。だが同時に、君自身をも試す力でもある。その覚悟はあるか」

「もちろん。白も黒も僕の一部です。どちらも拒まず、恐れず、使いこなしてみせます」


 ヴェルダンが横で頷く。

「俺も一緒だ。エイルがどこへ行くにも、俺は隣にいる」

 レフはその言葉に薄く笑みを浮かべた。

「頼もしい限りだ。王都は再び立ち直る。だが世界規模の異変はこれで終わらない。次は東方――古海の断層で、似た脈動が報告されている」


「古海……」

 地図の東端、蒼い海に囲まれた未知の地名が目に入る。

 そこへ向かう潮の匂いが、早くも胸の奥をざわつかせた。


 レフは机越しに手を差し出した。

「王都は君たちを全力で支援する。この戦いは、もはや私たちだけのものではない」

 僕はその手をしっかりと握り返した。


 塔を出ると、夕陽が王都の屋根を金色に染めていた。

 ヴェルダンが小さく息を吐き、赤い瞳で遠くの空を見上げる。

「次は海か。風の匂いが違いそうだ」

「うん。きっと新しい戦いが待ってる」


 白き炎が胸の奥で静かに揺れ、黒炎がそれに寄り添う。

 次の旅路がどれほど過酷であろうとも、もう恐れはない。

 僕たちは、新たな試練へ歩み出す決意を胸に刻んだ。


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