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第61話 黎明の余韻

 荒野に初めて差し込んだ朝の光は、淡くも力強かった。

 石の祭壇は完全に沈黙し、裂け目を覆っていた赤黒い気配は跡形もない。

 乾いた砂が風にさらわれ、夜の戦いの痕跡を静かに隠していく。


 双炎は胸の奥で穏やかに回っていた。

 白と黒がひとつの円を描き、心の奥を温かく満たす。

 あれほど激しくぶつかり合った二つの力が、今はまるで呼吸を合わせるように同じ鼓動を刻んでいた。


「終わった、のか……」

 ヴェルダンが小さく息を吐き、赤い瞳を細める。

「エイル、お前……今のあれ、双炎ってやつか」

「うん。白と黒、どちらも僕自身の一部だ。どちらも切り離さない。そう決めた」


 言葉を口にした瞬間、胸の奥で白き炎が微かに明滅した。

 それは肯定のようにも、次への覚悟を促す合図のようにも感じられた。


 遠くで風の音に混じり、小さな鈴のような音が聞こえた。

 見ると、集落から長老たちがこちらに歩いて来る。

 護符を胸に下げた長老は、朝日を浴びて静かに頭を垂れた。


「ありがとう。荒野を蝕んでいた闇は消えた。

 しかし、あの“意識”は完全には滅びていない。

 世界のどこかで、まだ息を潜めているだろう」


「わかっています」

 僕は頷いた。

「これは終わりじゃなくて、始まりです。

 でも、今日ここで確かに一歩は進めた」


 長老は目を細め、深く頷くと、銀の護符を再び差し出した。

「これはお前たちのものだ。

 この地だけでなく、他の地でもきっとお前たちを守る」


「感謝します」

 ヴェルダンが頭を下げ、僕も護符を両手で受け取った。

 青い石が朝の光を反射し、淡い輝きを放っている。


 長老たちが戻ると、荒野に再び静寂が訪れた。

 その静けさは、戦いの終わりだけでなく、これからの旅立ちを告げるようでもあった。


「次は、どこへ向かう?」

 ヴェルダンが赤い瞳で遠い北を見やる。

「王都に戻って、レフに報告を。

 それから……世界で起きている同じ現象を探る。

 魔王の意識は、きっと一つじゃない」


「俺も同じ考えだ」

 ヴェルダンが軽く拳を握った。

「俺たちの旅は、まだ終わらない」


 朝の風が僕らの髪を揺らし、砂の匂いを運んでいく。

 白き炎が胸の奥で柔らかく脈打ち、黒炎がその輪郭に沿うように静かに揺れた。

 恐れはない。二つの炎は、もう僕自身だ。


「行こう、ヴェルダン」

「おう。世界はまだ広い」


 僕たちは集落へ戻る道を歩き出した。

 背後で、戦いの舞台だった石の祭壇が淡く朝日に照らされ、

 その影は、静かな誓いの証のように荒野に長く伸びていた。


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