第6話 村に戻る日々
僕とヴェルダンは、何とか村へ帰りついた。
泥だらけで傷だらけの僕らを見て、母さんは悲鳴を上げて駆け寄ってきた。
「エイル! いったい何を……!」
抱きしめられると、胸の奥にずっと張り付いていた恐怖が溶け出すようで、涙が滲みそうになった。
父さんは険しい顔で僕らを見据えた。
「……森へ行っただけではないな」
僕は唇を噛んだ。嘘はつけない。けれど全部を言えば、きっと二度と行かせてもらえなくなる。
「……ちょっと奥まで、冒険しただけ」
かすかな声でそう答えると、父さんは長く息を吐き、厳しくも優しい声で言った。
「命を無駄にするな。剣を持つ者は、軽々しく死に近づいてはならない」
その夜は、温かいスープと焼きたてのパンが用意された。
母さんは何も言わず、ただ僕の皿にたっぷり盛ってくれた。
リーセが小さな手を伸ばし、僕の髪をつかむ。赤子のぬくもりが、冷えた心をほぐしていった。
翌日からは、何事もなかったかのような日常が続いた。
畑の手伝いをし、学び舎に通い、友達と走り回る。
ヴェルダンと並んで木剣を打ち合うと、互いの笑い声が森に響いた。
けれど、その安堵の裏側で、影は確実に迫っていた。
村の広場では最近、妙な噂が囁かれている。
「黒い甲冑の騎士を見た」
「魔女が近くの森に棲みついたらしい」
「女神トーラの加護が薄れてきているのではないか」
大人たちは眉をひそめ、子どもたちは怯えながらも興味深げにその話を聞いている。
僕も耳にするたびに胸がざわついた。
(黒い騎士……魔女……。もしかして、あの霧と関係しているのか?)
夜、寝台に横たわると、また右目が疼いた。
黒炎の残滓はまだ消えていない。
闇の中で、あの大穴の囁きが蘇る。
――来い。もっと深くへ。
僕は毛布を握りしめ、震えを隠した。
守りたいものは確かにここにある。
母さん、リーセ、そしてヴェルダン。
けれど、影はすぐそこまで忍び寄っている。
僕の小さな日常と、広がる不穏の波――その均衡は、いずれ崩れるのだろう。




