第47話 裏路地に潜む種
翌日、夜の王都は、昼間とは別の顔を見せていた。
宵闇がさらに深まり、月明かりさえ雲に隠されている。
僕とヴェルダンは、禁光庁から託された地図を手に、北区の裏路地へ足を運んだ。
家々の窓は固く閉ざされ、灯火はすべて消えている。
どの通りも静まり返り、足音が石畳に響くたび、背筋がわずかに粟立った。
「……本当に人の気配がない」
ヴェルダンが赤い瞳を細める。
「住民は避難してるはず。でも、この静けさは不気味だな」
僕は白き炎を胸に宿しながら答えた。
地図に印された裏路地へ入ると、空気は一層重くなる。
狭い通路は湿り気を帯び、どこか鉄のような匂いが漂っていた。
僕は剣の柄を握り、視線を走らせる。
「……エイル、足跡」
ヴェルダンが低く告げ、壁際を指さす。
そこには黒ずんだ足跡がいくつも並び、奥の暗がりへ続いていた。
「人間の足じゃない」
形は歪で、爪の跡のような凹みが残っている。
僕たちは息を殺し、足音を忍ばせて奥へ進んだ。
やがて、ひときわ広い空き地に出た。
月明かりが雲間から差し込み、そこに浮かび上がったものに息を呑む。
――壁一面を覆う、黒い繭。
鐘楼で見たものより小さいが、同じ脈動を持つ。
赤黒い管が地面へと伸び、静かに鼓動していた。
「……あれが“繭の種”」
ヴェルダンが低く呟く。
次の瞬間、背後で空気が裂けた。
「来るぞ!」
ヴェルダンの叫びと同時に、黒い影が二つ、屋根から舞い降りた。
細長い体に獣のような腕、瞳は赤く光っている。
僕は剣を抜き、白き炎を走らせる。
影は驚くほど素早く、壁を蹴って斜めに襲いかかってきた。
「うっ!」
剣と爪がぶつかり、火花が散る。
ヴェルダンが背後から突進し、もう一体を蹴り飛ばした。
「守護者か……!」
赤い瞳を燃やしたヴェルダンが拳を叩き込む。
僕も白き炎で相手を包み込む。
黒い影は甲高い悲鳴を上げ、闇に溶けるように崩れ落ちた。
息を整え、繭へ向き直る。
その表面は先ほどより脈打ち、赤黒い光を帯び始めていた。
「早く……」
僕は白き炎を剣に集め、ヴェルダンと同時に斬りつけた。
閃光と共に繭が裂け、黒い液体が飛び散る。
石畳に染みが広がり、低いうなり声が夜気に消えた。
静寂。
鼓動が止まり、裏路地にはただ月の光だけが残った。
「これで……一つは片付いた」
ヴェルダンが深く息を吐く。
僕は白き炎を静めながら頷いた。
「でも、地図にはまだ印がある。これがすべてじゃない」
夜風が冷たく頬を打った。
遠くで鐘が一度だけ鳴り、王都の奥から不穏なざわめきが伝わってくる。
――闇はまだ、終わっていない。




