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第46話 禁光庁の塔

 それから一日して、宵闇が王都を包むころ、僕とヴェルダンは禁光庁の塔へ向かっていた。


 昼間は市井のざわめきがわずかに戻っていたが、日が沈むと再び町全体が息を潜める。


 家々の窓は厚い木戸で閉ざされ、灯火も控えめだ。人々は外を歩く足音にさえ怯え、通りは不自然な静けさに満ちていた。


 塔の前に着くと、青い外套をまとった兵士が二人、無言で門を守っていた。


 近づくと、一人が短く顎を動かす。


「エイル、ヴェルダン。宰相代理レフ殿がお待ちだ」


 その声には威圧はなく、ただ緊張がにじむ。


 石造りの螺旋階段を登るたび、冷たい空気が肺を刺す。


 壁に沿って灯された青白い光は、火ではなく魔力の光だ。


 僕は胸の奥で白き炎をそっと燃やし、黒炎のざわつきを押さえ込んだ。


 最上階の広間にはレフが立っていた。


 窓辺から王都の街を見下ろし、背後に長い影を落としている。


 振り向いたその瞳は、昼間よりさらに深い灰色を帯びていた。


「来てくれたか。ありがとう」


 彼は淡々と礼を述べ、近くの円卓へと手を伸ばした。


 円卓には王都の地図が広げられ、複数の赤い印が記されている。


「これが、近衛の不審な動きが報告された地区だ」


 レフは赤い印を指し示した。


「特に北区と東区で、魔の者と似た痕跡が多く見つかっている。だが上層部は“住民の不安を煽る”と報告を封じ、調査を妨げている」


 ヴェルダンが眉をひそめる。


「内部に協力者がいる、と」


「その可能性が高い」


 レフは静かに頷いた。


「君たちには、この地区に潜む“繭”の種を探ってほしい。近衛が見張る正面からではなく、裏路地から密かに入り、証を掴むのだ」


 僕は地図を見つめながら息を整えた。


 赤い印の一つ一つが、王都に広がる見えない傷のように見えた。


「危険は覚悟している。でも、どうして僕たちなんですか」


 問いかけると、レフは少しだけ口角を上げた。


「君たちは“外”の存在。王都の権力に縛られず、禁光庁の影響下にもない。それに――白き炎は、我々には扱えない」


 その言葉に、胸の奥で白き炎がかすかに脈打つ。


 レフは一歩近づき、灰色の瞳で僕を射抜いた。


「恐れるな。黒炎の誘惑に抗えるなら、君の炎は王都を照らす光となる」


 ヴェルダンが静かに口を開く。


「俺たちがやる。ただし条件がある。調査の間、住民には避難勧告を。罪なき人を巻き込むわけにはいかない」


「約束しよう」


 レフは即座に頷いた。


「明日から禁光庁の名で、夜間外出禁止を強化する」


 ミルとゾルドが地図を抱え、僕らに近づいた。


「この通路を使えば、近衛の巡回を避けられる。だが“繭の種”は必ず守護者を持つ。覚悟して」


 ゾルドの低い声が広間に響く。


 僕は剣の柄に手を置き、深く息を吸った。


 白き炎が静かに燃え、黒炎がその奥でうごめく。


 ――恐れを飲み込み、進むだけだ。


「分かりました。必ず証を掴みます」


 ヴェルダンが頷き、赤い瞳が決意を映した。


 レフは最後に短く告げる。


「夜が深まる前に動け。王都の闇は、時を選ばない」


 塔を出ると、月が王都を銀色に照らしていた。


 遠くから、鐘楼の残響のような低い音が響く。


 僕とヴェルダンは視線を交わし、静かな決意を共有した。


 ――王都の闇を暴くため、これからが本当の戦いだ。


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