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第41話 砦の静寂

 夜明けの光が砦を包み、戦いの余韻が静かに染みわたっていた。

 地下を覆っていた黒い蔦は完全に消え、石壁には焼け焦げた跡だけが残る。数時間前まで命を吸い取るように脈動していた場所とは思えないほどの静けさだった。


 中庭では、兵士たちが崩れた壁を修復し、負傷者を運んでいる。治療を受けた者たちの顔にも、ようやく安堵の色が戻りつつあった。

「これで……持ち直せる」

 医師の一人がほっと息を吐き、僕とヴェルダンに頭を下げた。


「助かった。本当にありがとう」

 兵士たちが口々に礼を述べる。

 僕は剣を背に戻し、白き炎の名残が胸の奥で静かに揺れるのを感じた。

「僕たちだけじゃありません。皆さんが踏ん張ってくれたからです」

 素直にそう言うと、兵士の目がわずかに潤んだ。


 やがて、隊長が姿を現した。鎧の血を洗い落とし、疲労は残っているものの、その瞳は鋭さを取り戻している。

「少年たち。お前たちがいなければ砦は落ちていた。心から感謝する」

「砦が守られてよかったです」

 ヴェルダンが短く答える。赤い瞳が朝日を反射して光った。


 隊長はしばし空を仰ぎ、それから低い声で続けた。

「ここだけではない。最近、各地で同じような現象が報告されている。血の大樹、魔女、そして見たことのない魔の者……まるで世界そのものが侵食されているようだ」


「世界全体が……」

 僕は思わず息を呑んだ。村、町、そしてこの砦。すべてが繋がっている。

 胸の奥で黒炎が静かに脈動し、白き炎がそれを押し返している。


「西方の王都からも援軍が来るはずだったが、消息が途絶えた」

 隊長の言葉に周囲がざわめく。

「西方……」

 ヴェルダンが眉をひそめる。

「もしかすると、そちらでも同じ脅威が進行しているのかもしれない」


 僕は唇を噛んだ。

「隊長、僕たちはその王都へ向かおうと思います。現状を確かめて、少しでも世界を守る手がかりを探したい」

 隊長は驚いたように目を見開いたが、すぐに深く頷いた。

「危険な道だ。だが、お前たちならきっと辿り着ける。兵士としてではなく、一人の人として頼む。どうか世界の真実を見極めてくれ」


 砦の兵士たちが、僕とヴェルダンに敬礼を送った。

 その視線は感謝と、未来への希望に満ちていた。


「エイル、行こう」

 ヴェルダンが静かに声をかける。

「うん」

 僕は頷き、剣の柄を握りしめた。

 ――村を出てから、もう後戻りはできない。


 砦を後にする時、朝日が石壁を黄金色に染めていた。

 白き炎が胸の奥で暖かく揺れ、次なる道を示しているようだった。


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