第35話 町の門をくぐって
昼前、森を抜けた僕らの目に、大きな城壁が飛び込んできた。
「……これが町……!」
思わず声が漏れる。村の柵とは比べ物にならない石造りの壁。その上には見張りの兵士たちが立ち、槍を構えている。
「すごいな……」
ヴェルダンも赤い瞳を細め、しばし見上げていた。彼の肩には助け出した商人が寄りかかっている。まだ顔色は悪いが、意識はしっかりしていた。
「た、助かりました……ここまで運んでいただけるなんて……」
「礼なら町の医者に言え。俺たちは途中で手を貸しただけだ」
ヴェルダンが短く答えたが、その声音には優しさがにじんでいた。
町の門の前には、人や荷車の列ができていた。農作物を積んだ農民、品を抱えた旅商人、剣を腰に差した兵士風の者まで、様々な人々が行き交っている。
村では見たこともない賑わいに、僕は思わずきょろきょろしてしまった。
「エイル、口を開けて見上げてると子どもみたいだぞ」
「う、うるさいな!」
頬が熱くなり、視線を落とす。けれど胸は高鳴っていた。これが村の外の世界……。
門番の兵士が近づいてきた。鎧をまとい、鋭い目を光らせている。
「お前たち、そこの怪我人はどうした」
「森で魔の者に襲われていました。俺たちが助けました」
ヴェルダンが答えると、兵士は眉をひそめた。
「魔の者……最近、被害が増えている。町でも警戒が強まっているのだ」
兵士は合図を送り、商人を衛兵に託した。彼は「ありがとう」と何度も呟きながら運ばれていった。
「よし、通っていい。ただし町では剣は抜くなよ、少年」
「わ、分かってます!」
僕は慌てて剣を背に押しやった。兵士は苦笑しながら門を開ける。
門をくぐった瞬間、眩い光景が目の前に広がった。
石畳の大通りの両脇には店が並び、果物や布、武具まで売られている。香辛料の匂いが鼻をくすぐり、人々の声が絶え間なく響いていた。
「……すごい」
村では考えられないほどの色彩と音の渦に、僕は立ち尽くした。
「圧倒されてるな」
ヴェルダンが横で笑った。
「俺もそうだ。……でも、ここでなら情報が手に入るはずだ。魔の者の動き、血の大樹のこともな」
「うん……」
僕は深く息を吸い込み、胸の奥で炎が揺れるのを感じた。村を守っただけでは終わらない。僕たちはもっと大きなものに立ち向かわなければならない。
そのとき、通りの先から甲高い声が響いた。
「魔女だ! 魔女が出たぞ!」
ざわめきが広がり、人々が一斉に逃げ出す。露店が倒れ、果物が転がる。
「な……!」
ヴェルダンが表情を引き締めた。
僕の心臓が跳ねる。旅立ってすぐに――また新たな試練が僕らを待ち受けているのか。




