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第34話 最初の旅路

 朝日が昇りきり、村の姿が木々の向こうへ小さくなっていく。

 門を越えた瞬間から、僕たちはもう戻れない。振り返るたびに胸が締め付けられるけれど、歩みは止まらなかった。


「……エイル」

 ヴェルダンが口を開いた。

「寂しいか?」

「少しね。でも、僕らが立ち止まったら父さんや村の人たちが無駄になる。だから前に進む」

「そうだな。俺たちはもうただの子どもじゃない」

 赤い瞳に映る決意は、僕の胸を熱くさせた。


 森の中に入ると、空気が一変した。鳥の声や風の音はあるのに、どこか張り詰めている。葉の影に潜む気配は、村の中では感じなかったものだ。

「気を抜くな。ここは魔の者が出る」

 ヴェルダンの言葉に、僕は剣に白き炎をかすかに宿した。


 やがて道端に、倒れた馬車を見つけた。荷台は壊れ、荷物が散乱している。血の跡が地面に残り、嫌な予感が胸をよぎる。

「襲撃だ……」

 ヴェルダンが低く呟いた。


 そのとき、木箱の影から微かなうめき声がした。

「誰か……」

「生存者だ!」

 駆け寄ると、若い商人が倒れていた。肩から血を流し、顔は青ざめている。

「大丈夫ですか!」

「ま、魔物が……仲間が……」

 彼の声が震えた瞬間、森の奥から唸り声が響いた。


 茂みを裂いて飛び出したのは狼に似た魔の者だった。背中には黒い棘が生え、皮膚は岩のように硬化している。

「来るぞ!」

 ヴェルダンが構え、僕も剣を抜いた。


 魔の者は地を揺らして突進してきた。棘が石畳を抉り、岩の脚が大地を砕く。

「はあっ!」

 僕は剣で受け止め、白き炎を走らせた。火花が散り、衝撃で腕が痺れる。

 ヴェルダンが背後から飛び込み、拳で殴りつける。だが硬い皮膚に阻まれ、彼の腕が逆に痛みに震えた。

「くそ、硬い!」


「弱点を探せ!」

 父の教えを思い出し、目を凝らす。棘と棘の間にわずかな隙間を見つけた。

「ヴェルダン! 背中だ、隙間を狙え!」

「任せろ!」

 ヴェルダンが跳び、赤い瞳を燃やして拳を打ち込む。轟音と共に棘が砕け、魔の者が悲鳴をあげた。

「今だ!」

 僕は剣に白き炎を集め、胸を一閃した。

 光が走り、魔の者は煙のように消え去った。


「……ふぅ」

 剣を収め、息を荒げる。ヴェルダンも膝をつきながら笑った。

「外の世界は……容赦ないな」

「でも、僕らはやれる」

 互いに頷き合った。


 助けた商人は涙を浮かべて言った。

「ありがとう……近くの町に、医者が……」

「そこまで一緒に行きましょう」

 僕は母から習った手当で傷を縛り、ヴェルダンと共に彼を支えた。


 旅は始まったばかりだ。

 守るべきものは、もう村だけじゃない。

 僕たちは歩き出した。人々の暮らしを守るために――。


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